第4話 キャー! アび太さんのエッチーッ!
というわけで、アルカナ学園への入学が決まりました。やったね。
アルカナ学園へは学長の馬車に同伴させてもらうことになったが、彼女は友人に挨拶してくると言ってどこかへ行ってしまった。
そのため今は主人公とふたり、関所の方へ歩いている途中だ。
それはいいんだけど……。
「へえ、やるじゃん……俺はロイド。ねえ、さっきの魔法、どこで買ったの?」
なんかめっちゃ主人公が話しかけてくる。
おい、タイムはどうした。
モブに話しかけてる時間なんて無いだろ。
「俺はアッシュ。魔法は俺のオリジナルだ」
「オリジナル?」
「ああ、俺は魔術式を研究していて――」
あ、わかった。
こいつあれだな?
俺から魔法のコツを聞きにきたな?
「ロイドに合いそうな魔術式が構築出来たら渡すわ」
「いいの? サンキュ」
ガチでそれだけだった。
そこから先は、一切会話しなかった。
まあいいけど。
ロイドがヒロイン度外視で攻略を進めようとしてくれてるから俺がおいしい目を味わえるんだ。
むしろそのまま他人に無関心を貫いていてくれよ?
「やあやあ少年たち、待たせたね! じゃあ、出発しようか!」
異世界の馬車と言えばサスペンションが無くて尻を痛めるのが古のラノベテンプレだけど、どうやらこの馬車は近代ラノベ仕様らしく腰にかかる衝撃が少ない。
いやぁ、快適快適。
「そうだ、少年たちは学生寮を使うだろう? 学長権限でいい部屋のカギを譲ってあげよう。ほら」
俺とロイドはそれぞれ鍵を一本ずつ受け取った。
それからふたりして鍵に刻まれた部屋番号を確認し、お互いにアイコンタクトを取る。
「なあアッシュ、部屋を取り換えっこしないか?」
「オーケー」
「サンキュ」
会話は必要最低限。
男同士に余計な言葉は不要なのだ。
学長は今のやり取りに何の意味があったのかと聞きたそうにしていたが、俺たちが野暮なことは言うなというオーラを出していると押し黙った。
なんか微笑んでるから「青春してるなー」とか考えているに違いない。
さて、ロイドがどうして貴重な時間をモブキャラである俺に割いたのかと言うと、それはこの後のイベントが理由である。
それは、メインヒロインの着替えシーンだ!
俺たちは学長から鍵を受け取ったわけだが、実はメインヒロインも学園生協を通して同じ部屋を借りてしまっている。
そのことを知らずにのこのこと学生寮へ向かってしまうと「ロイドさんのエッチ!」が発生し、決闘で話をつけようという流れになる。
これが結構長い。
ぶっちゃけリセット案件である。
回避するためには同じく学生寮を借りようとしている人間と部屋を交換する必要がある(初日だろうと2日目だろうと関係なく、初回入室時に何故か必ず着替えシーンに鉢合わせる)。
しかし既に荷ほどきを始めている生徒は基本的に交換してくれないし、そうでなくても交換に応じてくれる確率は低い。
ここで部屋交換に時間がかかっても、やはり再走案件なのだ。
ふと車窓から景色を見れば、いつの間にか学術都市アルカナに到着していることに気づいた。
というか、もう学生寮の目の前だ。
さすが校長愛用の馬車。
噂にたがわぬ快足だ。
よっしゃぁぁぁぁ!
今行くぞ! シノアぁぁぁぁぁ!
「きゃあぁぁぁぁ⁉ な、何よアンタ⁉」
しゃおらぁぁぁぁ!
半裸姿のシノアちゃんをこの目に収めたぞぉぉぉ!
毛先にかけて青みがかった銀色のつややかな髪、切れ長のアーモンドアイ。
藍色のレースの下着だけ纏った彼女の手足は陶器のように滑らかで、俺の視線を吸い込んで逃がさない。
ロイドと取引してよかったぁぁぁ!
と、いう内心に蓋をして、俺は必至にポーカーフェイスを取り繕う。
「ご、ごめん! でも、ここは俺の部屋のはずなんだけど……」
「そんなハズ無いでしょ⁉ だってほら、ここにちゃんと……」
俺はポケットから、彼女はシーツで身を隠した後部屋のサイドテーブルから、お互いにカギを見せあった。
そこには同じ、1201番の文字が刻まれている。
シノアはじっとカギを覗き込んだ後、キッと鋭い目つきをこちらに向けた。
「……何かしらの手違いがあったことはわかったわ」
「よ、良かった」
「だから、自刃で許してあげる」
「は?」
「死んで詫びてくれる?」
キューティースマイルを浮かべて、少女が言う。
あ、あれ?
決闘を申し込みます、じゃないの?
俺の知ってる『ダンジョン
「確かに、君の肢体を見てしまったのは罪深いことだと思う!」
「そ、賢明な判断ね」
「だけどこのままじゃ死んでも死にきれない! だから死ぬ前に君の身体を好きにさせてほしい!」
「何を言い出すのよ! 変態! 死ねばいいのに!」
「よし、それなら決闘でケリをつけよう」
「……決闘?」
俺は頷く。
決闘とは、アルカナ学園の伝統ある制度だ。
生徒の自主性を重んじる学園では、もめ合いは当事者同士での解決が推奨されている。
だが、貴族から平民まで通うという性質上、実際問題として身分のせいで泣き寝入りせざるを得ない者が多かった。
そこで誕生したのが、決闘。
手順は簡単だ。
お互いの要求を決定し、勝負事で白黒をつけ、勝者の要求を敗者は受け入れなければならない。
もっとも、これは弱者淘汰の側面が強い。
そのためもめ事を解決する制度のひとつでしかないが、実力に自信があるもの同士だと成立しやすい取引でもある。
そして、エロゲのメインヒロインはだいたい一線級の強さを誇る。
「アタシに挑むなんて、いい度胸じゃない」
シノアが笑みを不敵に浮かべる。
「いいわ。乗ってあげる。あの世で後悔するといいわ」
この手の話に乗ってこないわけがない。
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