第3話  2人が思い切り良すぎてついていけない

 そして迎えた一週間後…


私は何故か応接間に向かっていた。なんでもおじさまが会わせたい人がいるらしい。なら、おじさまが客を連れてこっちまでくればいいと思いましたが、相手はおじさまより上の立場らしく、私が呼ばれたらしい。全く迷惑なことである。どうせ、また噂を信じ込んでやってきた人だろうと思っていたが…

「おじさま、沙織で御座います。」

「入りなさい。」

おじさまの言葉で私はドアを開けた。

「沙織。こちらは、世界No. 1の財閥、姫宮グループの社長、姫宮晏寿ヒメミヤアンジュ様と、世界No.2の財閥、白峰グループの時期社長、白峰鈴鴑ハクミネリンド様だ。ご挨拶なさい。」

「はい。姫宮様、白峰様、宮部沙織と申します。お見知り置きください。」

おじさまに言われ、淑女の礼をする。それから、顔を上げた私はびっくりした。そこにいたのは、先日あの店にいた2人だったからだ。

「1週間ぶりですね、沙織さん。」

「元気にしていらっしゃいましたか?」

「おや、お二人方と、お知り合いでしたか。」

何も知らないおじさまが驚いたように尋ねる。無理もない。

「ええ。沙織さんは一週間前、わたくし達2人で経営している店に来まして。実は、今日こちらに伺ったのも、そのことが関係しているのです。」

おじさまも何のことか気がついたみたいだ。

「沙織!お前はまさか佐々木のことを諦めていなかったのか!すみませんお二人方。沙織にはよく言い聞かせますので、なかったことに…

「それはできかねません。」

おじさまの言葉は途中で遮られた。

「そうですわ。人が困っていると言うのに、助けないなんて。」

「貴方は必要ないかもしれませんが、彼女にはあるみたいですので。」

「てか、受けないならばこんなところ来てませんわ。」

「私たちがこちらへ伺ったのは、詳しい話を聞くためです。」

正直嬉しかった。世界を誇る代表的な2人がこんな言葉をくれるなんて。だが、何としてでも帰ってほしいようだ。

「で、ですが!貴女方は忙しい身分ですし、沙織も勉強が…」

「ああ、それならご心配には及びません。私達はしばらく仕事がありませんので。沙織さんも夏休みに入られましたし。」

「で、ですが!…」

「宮部社長。随分とわたくし達を帰そうとなりますわね。もしかして、わたくし達に見つかってはいけないものがあるのでしょうか?」

「そそ、そんなことは!」

途端に慌てるおじさま。十分な怪しさである。2人は追求する気にもなれないのか大きな溜息をついている。私はなんか申し訳なく思った。

「そ、それよりも街の名前でしたかな。おお、教え致しましょう!ちょ、ちょっとお待ちください!」

焦ったのか、そんなことを言うと部屋を出ていった。しばらく沈黙が続いてたが、すぐに戻ってきたおじさまによって破られた。

「いや〜、お待たせいたしました!『暗黒の街』です。」

「暗黒の街?」

2人の表情がかすかに変わった気がした。険しい方へと。嫌な予感がする。私はそれ以上黙ってはいられなかった。

「あの!暗黒の街って、どういうところなんですか?」

「…一度入った者は二度と出られないと聞いているわ。それだけではない。辿り着けるのも、1億人に1人という数だわ。だから、行きたいと思う者はごく少数しかいない。…となると、佐々木さんがそれを望んだとしたら、彼は、恐らく…」

それっきり晏寿さんは黙ってしまった。私にはよく理解できなかったが、彼女の険しい表情から良くないことだけはわかった。

「あの、そこには行けるんでしょうか?」

質問してみた。彼女は眼を瞬いて、

「行けるわ。わたくし達と貴女は。けれど、宮部社長は無理かもしれない。」

いとも簡単に言った。

「へ?え、でも、1億人に1人しか行けないんですよね?」

「ええ、そうね。通常ならば。けれど、貴女は恐らく佐々木さんと、同じ血筋だと思うから…。」

血筋が同じ?どういうことだろう。私が首を傾げたからか、晏寿さんは説明してくれた。

「つまり、貴女の父親が佐々木さんと、同郷ってこと。だから、娘である貴女も行けるということ。」

驚いた。父と佐々木さんが同郷だということに。けれど同時に納得もした。父と佐々木さんは大学の友達とは思えないほどとても仲が良かったからだ。でも、だとしてもだ。なんでそれが暗黒の街に行ける理由なのかわからない。私は考えるのを放棄した。どのみち考えても答えは出ない。そう思ったからだ。だから違うことを聞いた。

「晏寿さん、どうやってその街まで行くんですか?」

行き方を。

「そうですわね。ここはやっぱり車と歩きでしょう。」

車か…私は少しうんざりした。というのも、この家に来てから出かける時は必ず車で行っていたからだ。けれど、歩きもあるみたいなので、少し楽しみになった。

「いつ、出発するんですか?」

「今からです。」

は?…私は聞き違いかと思った。けれど晏寿さんは、

「では、宮部社長。沙織さんはわたくし達が責任持って預かりますので。」

さっきから放心しぱっなしのおじさまに挨拶をすると、そのまま部屋を出て行ってしまった。私は鈴鴑さんに聞いてみた。

「あの、今から。って聞こえたんですが…」

「そうですよ。今から向かうのです。ですので動きやすい格好に着替えたら、門のところまでいらしてください。」

肯定しただけではなく、着替えてこいとまで言ってきた。

「は、はい…」

私は彼の笑顔という無言の圧力によって返事をした。それを聞いて、

「では、宮部社長。沙織さんは連れて行きますので。」

と、挨拶しからぬ挨拶をすると、部屋を出ていった。暫く気まずい沈黙が流れた。

「えーと、では、おじさま行って参ります。」

私は放心状態のおじさまに行ってくるの挨拶をすると、自分の部屋に戻り、長ズボンにTシャツ、防寒着用に薄い長袖を羽織って門へ急いだ。


 「沙織さん、お乗りください。」

門に着くと、すでに車が来ていて、2人は乗っていた。窓から手招きをする鈴鴑さんの方は歩いて行ったが、近くでその車を見た私は口をポカンと開けた。

「何を突っ立っているの。早く乗ってらっしゃい。」

暫くそこに突っ立っていたからか、痺れを切らしたように晏寿さんに言われ、私は言われるままに後部座席へ乗った。

晏離アンリ、いいわ、出発して。」

私が乗るのを確認した晏寿さんが運転手さんに指示を出した。

 そして、私たちは佐々木さんが行ったという街に向かうことになったのだ。


 「晏寿様、これ以上車で行くのは無理があります。」

山道に少し入ったあたりで運転手さんが言った。

「そう。じゃあここまででいいわ。晏離、貴方は屋敷に戻って、三兄弟を見ててくれない?」

こうなるかがわかっていたようにあっさりと頷くと、さっさと車を降りた。

「私たちも降りましょうか。」

鈴鴑さんと私も晏寿さんに続いて車を降りた。

「私はこれで失礼します。鈴鴑様、晏寿様のこと、頼みました。」

運転手さんは一言挨拶をすると、車をバックさせて、去っていった。

「さて、ここから歩いて行きますが、沙織さんは山道を歩いたこと、ありますか?」

「あります。」

今はお嬢様でも、前までは山で暮らしていたのだ。山道くらい慣れている。

「では、参りましょうか。」

そうして私たちは山を登り始めた。


 登り始めてから30分。正直舐めていた。暮らしていた山道くらいと思っていた。だが実際はどうだ。山道というより獣道。さらに、休みなし。そして、私は息遣いも怪しくなったというのに、2人は息も切らさず、それどころか歩くペースを上げていた。正直着いていけない。

 そして、どれくらい経っただろうか。先頭にいた晏寿さんがふと、足を止めた。

「沙織さん、来てごらん。」

私を手招きした。何かわからなかったが、手招く方に歩いた。

「見てごらん。」

そう言われ、木々の隙間から見えた物。それは村だった。いや、村というよりは『街』と言った方が正しい。ここは、もしかして…

「あれが、暗黒の街。」

私の考えを読んだように、答えを出した。

 こうして、私たちは目的地に着いたのだ。



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