第2話 この世とは思えない美貌を持つ2人と依頼
無駄に広い廊下を歩く。豪奢な見た目もすっかり慣れた。
コツ コツ コツ コツ コツン
コンコン
「おじさま、
「入りなさい。」
「失礼します。」
ガチャ
「きてもらってすまないね。」
「いいえ、おじさまが多忙なのは存じ上げておりますから。それで、話したいことというのは?」
「ああ、実はね…その、話しづらいんだが…」
「?」
私は首を傾げた。おじさまが言葉を濁すなんて、知る限りない。一体何が起こったのだろうか。
「その、だね…実は、
「え…?」
頭が真っ白になる。消息を絶った?誰が?
「どう、いう…ことでしょうか…」
「…佐々木君にはとある街の調査を頼んでいたんだ。途中までは連絡があったんだが…、街へ入るという連絡以降、一度も連絡が繋がらない。」
途中からはほぼ、聞いてなかった。街の調査?佐々木さんが?
「な、んで…佐々木さんが…?」
「…沙織、確かに佐々木君が君を今まで育てていてくれたことには感謝している。だが、今は如月家の間諜でもある。それに、今回のことは彼が私に直接頼んできた。文句は言えないはずだよ。」
「そう、ですが…でも!
「沙織。それ以上は言わないように。」
「クッ」
わかってはいる。この家に引き取られたときから、彼の言葉が絶対だということは。けれど、わかってはいても納得などは出来ないのだ。
「おじさま、その街に佐々木さんを探しに行きたく存じます。ですので、その街の名をお…
「駄目だ!」
私が言い終わる前に遮られた。普段はそんなこと言わないのに。
「何故駄目なんですか!理由をせめて教えてくださいませんか!」
「とにかく、駄目なものは駄目だ!部屋に戻りなさい。」
「クッ…」
彼の言葉は絶対だ。それに逆らってはいけない。
「わかり…ました…。失礼します。」
私はそう答えるしかなかった。
「はぁ…」
何度目かわからないため息をつく。
「お嬢様。何かあったのですか?」
「
聞いてきたのは、60代前後の侍女。よく、相談相手になってくれる、優しい人だ。そして、私が唯一侍女の中で信頼できる人。
「私でよろしければ、お聞き致します。」
「実はね…
先ほどの内容を花梨に話した。花梨は最後まで聞いてくれた。
「成程…。それは、辛いことでございましたね。よく、耐えられました。」
「有難う、聞いてくれて。少し、楽になったわ。」
「それはようございました。ところで、ご提案なのですが…」
「ん?」
彼女は私にとある話をしてくれた。それは、普段の私だったら信じないだろうが、今の私には役に立つ情報だった。
「それは、本当なのね。」
「はい。腕は確かだと伺っております。」
「有難う。早速行ってみるわ。」
「え…お一人でですか?」
「ええ、大人数では目立ってしまうでしょう?それに、たまには息抜きもしたいし。」
「そうでございますか。…では、お気を付けて。」
「わかっているわ。」
そう答えると、簡素な服に着替えた。
「夕方までには戻ってくるから。」
「はい。」
外に出ると、冷たい空気が漂っている。
「うう、さむ。早いとこ行こう。」
震えながら目的地に足を向けた。
カラン カラン
「うわぁ…」
私は思わず声を上げた。シャンデリアが照らすその部屋は、豪奢なのに心が休まる部屋だった。
「当店に何か御用でしょうか。」
「うわっ」
突然声をかけられて変な反応をしてしまった。気を悪くしたかなぁと俯いていると、クスクスとかすかに笑っている声と共に柔らかな声がした。
「気なら悪くしてませんから、お顔を上げて下さって結構ですよ。」
そう言われては上がるしかない。恐る恐る顔を上に向けると… 其処にはとんでもない美女がいた。女の私でさえ、見惚れてしまうほどの。
「?どう致しました?」
「う…」
顔を近づけてくるので、思わず後退りをしてしまった。そんな不審な動きに相手は首を傾げていたが、ふと何かに気づいたように、私から離れてくれた。
「そういえば、貴女は依頼人でしたね。申し訳ございません。普段はこの容姿目当てで、くる女性が多いものですから…」
すみませんと謝ってくる彼女に首をぶんぶんと振っていた私だが、ふと、おかしなことに気がついた。ん、女性が集まる?…私はもう一回彼女を見た。上から下まで。…
「だん…せい…」
呆然とした。
「ん?もしかして、私のこと、女性だと思っていましたか?」
彼も何かに気づいたようで、聞いてくれた。私はまだ衝撃が抜けておらず頷いただけだったが、それでも伝わったらしい。
「誤解させたようですみません」
と丁寧に頭を下げられてしまった。そんなことをされれば焦るのはこっちの方である。
「あ、いえ、私の方こそ気づかないで…」
こちらもつられるように謝る。頭もついでに。でも、そんな事すると彼は更に頭を下げてきた。そんなこんなで頭を下げあっていると、呆れた声がした。
「貴方たちは何をしているの?さっきから。」
声がした方を見れば、そこには彼と瓜二つの人がいた。いや、正確に言えば性別を除けばの話だが。
「アンジュ様。珍しくもお客らしいですよ。」
彼が私の説明を簡単にしてくれた。どうやら彼女はアンジュというらしい。
「確かに珍しいこと。最近はわたくし達目当てに来る者が多かったもの。」
「ええ、本当に。」
「って、客をなに待たせているの。全く、こちらへ来て可愛いお客様。」
「は、はい…」
私はおどおどしながら彼女…アンジュについていった。そして入った部屋は豪奢な作りなものの置いてあるものが必要最低限ものしかなかった。
「さて、貴女はどんな依頼をしに来たの?」
私は口籠った。勢いできたのはいいものの、話す内容がまとまっていなかったからだ。
「え、えと、その、…
私が目を泳がせていたからか、
「ゆっくりでいいから、話してみて。」
と言ってくれた。
「あの、実は、私を3年前まで育ててくれた人が消息を絶ったんです。私を育ててくれたのはあの人だったので探したくて…。でも、おじさまは探さなくて良いと仰るんです。そして、独自に調べようと思ったら侍女がこの店の存在のことを教えてくれて…
「それで、来られたのね?」
「はい…。調べてくれますか?」
頼み込むと、溜息をつかれた。受けてもらえないのかと思うと俯いていると、予想外な返事が来た。
「…あのね、一つ訂正させてもらうけど、わたくし達は探偵ではなくて、陰陽師よ。だから、本来なら受けないのだけど…今回は特別よ?」
「え…じゃあ…」
「その件承りました。」
顔をパッと上げると、彼女は苦笑いしながら了解の旨を出してくれた。
「じゃあ、早速消息を絶った人のことを聞きたいのだけど…」
「はい。名前は佐々木琉偉と言って…
私は話し始めた。知ってる限りのことを。話終わる頃には、もう日が傾いていた。
「ありがとう。教えてくれて。けれどこれだけでは足りないから、その、おじさまに話を聞きたいから、貴女の名前を教えてくれる?」
「私の名前は宮部沙織です。」
「もしかして、宮部グループの社長の姪さん?」
「は、はい。なので、家に呼べるかは…」
「それなら大丈夫だわ。では、1週間後に会いましょう。」
不敵な笑みを見せて彼女はそう言った。私は訳がわからぬまま店を出たが、外の冷たい空気に触れて現に戻ると、
「ま、取り敢えず頼めたからいいか。」
と気にしないことにした。
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