第74話 クラスマッチの打ち上げ

 12月12日と13日の2日間行われたクラスマッチ。

 多分、アタシ達にとって最後の楽しめる学校行事なんだ。

 竹吉先生は予餞会もあると言ってたけど、どうやら行われるのは2月下旬で、私立入試と公立入試の間で、卒業式も控えてる時期だから、3年生は1年生と2年生の出し物を鑑賞するだけみたい。


 …でもアタシ、一つ上の先輩方の予餞会って、全然記憶がないのよね。


 何かやってるとは思うんだけど…。


 その時期だと、山神のケイちゃんに、なんで上井くんにバレンタインのチョコを上げなかったのよ!って攻められてたことの方が、よっぽど覚えてるなあ。

 多分、上井くんのことが気になってるのに、ケイちゃんにはそこまで明らかにアタシの気持ちをハッキリと教えてなかったから、そんな後ろめたさもあって、余計に覚えてるのかもしれない…。

 でも、2ヶ月後は入試シーズンだけど、ちゃんと上井くんにチョコレート、上げるもん。

 入試頑張ろうね、そして一緒に高校に通おうね、そんなチョコを作っちゃうんだから!


 …先輩方の予餞会は多分、クラスで合唱でもしたんだろうね、多分…。


 そして2日間行われたクラスマッチでは、アタシの3年1組は男子も女子も、バレーボールで第2位って結果に終わったの。


 だけど何故かみんなその結果に大盛り上がり!


 男女とも準優勝だ!って、リーダー格の谷村くんが凄い喜んで、竹吉先生に打ち上げしましょうって提案してたら、本当に打ち上げすることになったの。

 クラスマッチの次の日、12月14日土曜日の4時間目、ホームルームの時間を使って打ち上げすることに決まったんだ。


 上井くんは、地獄の2日間だった…って、今朝言ってたけど…。


 一生懸命、バレーボールを追い駆けてたよ!

 サーブが入るんだから、十分だよ、上井くん♪カッコ良かったよ♥


 アタシも試合に出たけど、試合中はジャージを脱いでブルマ姿にならなくちゃいけなかったから、恥ずかしいのと寒いのとで、それだけはチョッピリ辛かったかな…。


「明日の打ち上げって、何するんじゃろうね?」


 13日の帰りのホームルームが終わった後、上井くんはアタシにそう言った。


「うーん、先生が何か考えとるんじゃない?」


「やっと地獄の2日間が終わったけぇ、ホッとしとるんよね。楽しい…昔小学校の時にやってた、学期末のクラスパーティーみたいなのならええんじゃけどなぁ…。まさか…」


 ハハッ…上井くん、疑心暗鬼ね。ま、これまで付き合って来て、上井くんがそう思うのも分かるけどね。


(クラスを半分にして、バレーボールとかドッジボールとか、そんなのをやるんじゃないか?)


 多分、そんなことを考えてるんじゃないかなぁ。

 さすがに杞憂だと思うけどね。

 もし上井くんが言ってるような内容なら、アタシもあまり気が向かないもん。


「多分、先生のことじゃもん、ゲームとかやるんじゃない?みんなで楽しめるような…」


「それならええんじゃけどね。何せ体育だけは苦手だぁ〜。多分一生ものじゃね」


 上井くんの言い方に、思わずクスッと笑っちゃったわ。ある意味、上井くんらしくて。


 …でも実は最近、上井くんが進路とかで悩んでるのか、朝一緒に登校してても、たまにアタシの聞いてることに、返事が上の空みたいな時があるの。


 アタシが思うのもアレだけど、多分アタシとの付き合い方がどうこう…で悩んでるんじゃないと思うんだ。

 上井くんと7月に付き合い始めてから、今が一番お互いにお互いを思い合ってる、そんな気がするの。

 今まではどっちかが不安要素を抱えて、それで悩んではケイちゃんや船木さん、ユンちゃん、笹木さん、吹奏楽部の2年の男子のみんな、とにかく沢山の周りのみんなに助けてもらってきた。

 もしかしたら上井くんも、村山くんとかクラスの男子とか…谷村くんや本橋くんに、相談してたかもしれない。


 でも今は、前なら友達に聞いてよ~ってなるようなことも、2人で話すことで解決してるし。

 アタシも、もしアタシとのお付き合いで何か変だと思うことがあったら、絶対に教えてね、って上井くんには言ってるの。上井くんもそう言ってくれてるし。


 だからこそ、時々感じる上井くんの不安定な表情が、余計に気になるのよね…。


 明日の打ち上げや、来週の三者懇談で、上井くんから感じる不安な気持ちが解消されたらいいんだけどな。




 そして次の日、12月14日になったよ。


 4時間目の打ち上げは、竹吉先生の職権乱用?って思ったけど、音楽室でやったんだよ!


 最初は男子は谷村くん、女子は笹木さんが、昨日はみんな頑張った〜!って盛り上げてくれて、そこから先生がリードしてゲームをしたの。

 古典的で悪いけど…って言いながら、フルーツバスケットをしたよ。

 小学校の時にはよくやってたけど、今やると最初はみんな照れてたなぁ。

 でも途中からは盛り上がって、みんなワザと鬼になって面白い事を言おうとしたりして。

 アタシには鬼は回ってこなかったけど、上井くんは一回鬼になってたよ。


「えーっ、何言えばええんじゃろ?うーんと、えーっと…部活が運動系じゃった人!」


 アハハッ、上井くんはどうやら、最初に座れそうな椅子を見付けてから、そう言ってた。


「上井、俺を見ながら言うなや!」


「悪いね、真崎」


 笑いが起こってたよ。真崎くんも野球部だったもんね。でも真崎くんも本気で怒ってはないから、みんな笑いながら、運動系の部活に入ってた男女が動いてたよ。


 フルーツバスケットもみんな笑顔で終わった後、記念写真を撮ろう!ってことになって、先生がカメラを用意したの。

 最初はクラスのみんな全員で、次は男子、次は女子、そんな感じで撮っていって…。


「なんか面白くて記念に残る写真、撮りたいのぉ。よし、カップルのみんな、前に出るように!」


 えーっ?何それ…。


 アタシは恐る恐る反対側にいる上井くんを見たら、上井くんも困った顔をしてた。


 でも藤田くんと川口さん、谷村くんと藤本さんのカップルは、すぐにみんなが座って出来てる輪の中に、出て来たよ。


 上井くんは明後日の方を向いて、竹吉先生に指名されないようにしてた。

 上井くんの気持ちは分かるから、アタシも下を向いて、誰とも目が合わないように気を付けてたけど。


 藤田くんカップルと谷村くんカップルが、みんなにヒューヒュー言われながら腕を組んで先生に写真を撮ってもらった後、先生ったらワザとらしく…


「あれ?1組にはもう一組、カップルがおらんかったか?」


 って言い出したの!

 男子はそうじゃ、そうじゃ、上井!とか、女の子は上井くーん、とか、たまにアタシの名前を呼んだりして。


(えー、上井くん、絶対に嫌がるよ…)


 そう思いながら上井くんの方を見たら、アタシと目が合ったの。


 こういうのを、アイコンタクトって言うのかな?

 お互いに


(仕方ないね、諦めて前に出ようか?)


 って、目と目で通じ合った感じがして。


 それで同じタイミングで席を立って、輪の中に進んだんだけど、やっぱり上井くんは照れてるから、緊張して真っ赤な顔で棒立ち。

 アタシも体が熱かったから、真っ赤な顔になってたと思う。


 だって、こんな体験、したことないもん!


 上井くんは一生懸命になって先生に、


「せっ、先生、並びましたんで、1枚だけお願いします」


 って言ったけど、周りは許さなくて。


 腕!腕は?腕組め〜!


 凄い圧力がアチコチから掛かっちゃって…。

 上井くんはアタシを見て、どうする?って表情をしたの。アタシは恥ずかしいけど、意を決して、右腕を上井くんの左腕に絡めたよ!


 みんながどよめいて、オーッ!とかいう声が飛ぶ中、先生は2人とも、笑えよ?って言いながら、何回かカメラのシャッターを押していたわ。


 思わぬ形で上井くんと初めて腕を組んだけど…。


 ガチガチだった上井くんが、アタシの右手が左腕に絡めやすいように、少しだけ肘を曲げて、空間を作ってくれたんだ。

 この優しさ、忘れないからね、上井くん…。


 その後は何をしたか全然覚えてなくて、気付いたら家に帰ってた、そんな感じだった。


「チカ、早かったのね」


「あ、お母さん、ただいま〜」


「うん?…チカ、今日はいい事があったのね?上井くん絡みかしら?」


「えっ、えぇっ?」


 なんでウチのお母さん、そんな直ぐに当ててくるの…?


「久しぶりじゃない、そんなホカホカした表情で帰ってくるの。まあ何があったかは聞かないけど、上井くんと仲良くね!」


「んもう、お母さんってば!」


 でもアタシの心は、お母さんが言うように温かかったよ。

 …上井くん、10日後を待っててね。今からまた作業するからね。


 <次回へ続く>

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