第43話 Change!

 アタシと上井くんの今後の付き合い方について、アタシは土曜日の部活後にはさすがにまだ考えがまとまらなくて、上井くんとは話せなかったけど、日曜日に考えをまとめて、月曜日の部活後にその思いを上井くんにぶつけようと決めた。


(今までのアタシ達って、とてもカップルって呼べるようなお付き合いをしてない。4日間だけ一緒に帰ったのと、コンクールの行きのバスで隣に座ってお喋りしたのと…。時々授業の合間に話すのなんて、カップルじゃなくてもやってるから、違うよね。手紙のやり取りも…カップルじゃなくても出来るし。一番の失敗は、コンクールの後に上井くんが勇気を出してデートに誘ってくれようとしたのに、事前に塾の予定なんか入れちゃってたから断っちゃったこと…。体育祭も雨で延期になって、アタシのデートプランは上手くいかなくなっちゃったし、その後に上井くんが滅茶苦茶落ち込むようなことが起きるし…。反対に上井くんが誘ってくれた日は従姉妹の結婚式だし)


 思い返すと、なんてアタシと上井くんはタイミングが合わないんだろう、って思っちゃった。


 上井くんが勇気を出して何か誘ってくれる時は、アタシに用事が入ってるし。


 アタシが上井くんの心を読めなくて失敗したことも多いし。


 でも今度こそ…。




 そして10月21日の月曜日。


「チカちゃん、何か今日は覚悟を決めたような顔してるね?」


 月曜日の部活で、クラリネットを組み立てていたら、後から来たケイちゃんにそう言われた。


「えっ、そう?」


「うん。なんだか、上井くんのことで悩んでた土曜日とは全然違うよ?」


「ケイちゃんにはすぐ分かっちゃうかな。アタシ、今日の帰りに、上井くんに仕掛けるから」


「しっ、仕掛ける?何を?ケンカ?」


 ケイちゃんは目を真ん丸にして、驚いた表情を見せた。


「ちょっとケイちゃん、アタシが上井くんに決闘でも申し込むとでも思ったの?違うよ~」


 アタシは笑いしながら、否定した。


「違ったの?だってチカちゃん、凄い表現するから」


「あ、仕掛けるって言ったこと?アハハッ、確かにちょっとオーバーだったかもね。でも、土曜日までのアタシは、もう捨ててきたの」


「なんか、神戸千賀子変身宣言を聞かされてるみたい…」


「うん。アタシが変わらなきゃ、上井くんとのことも前に進まないから」


「そうなの…。でも、いいことかもね。相手が変わらないなら、こっちが変わるっていうのは」


「アタシ、みんなから上井くんと付き合うんなら、上井くんは照れ屋で恥ずかしがりだから、アタシがリードして上げなくちゃ、って言われてたよね。その本当の意味が分かったよ」


「ふむふむ」


「これからはケイちゃんに、上井くんとのことで心配させないように頑張るね」


「そっか、うん…。頑張れ、チカちゃん」


 それでもケイちゃんは、少し心配そうな顔をしていた。


 でもこれまでアタシは上井くんとのことをどれだけケイちゃんに頼って、解決してもらったことやら。

 今度は絶対に、アタシが自分自身で、解決させる!



 そしてその日の部活後、鍵を閉める上井くんを柱の陰で待ち伏せて、上井くんが音楽室から階段を降りようとしたところで、学ランの裾を引っ張った。


「えっ!だっ、誰?」


「…ごめんね、上井くん。ビックリした?」


「あれっ、神戸さん?どうしたの?まだ帰ってなかったんだね」


 10月も下旬に入ると、部活が終わるころはかなり暗くなっている。部活終了時間も、9月までよりも30分早くなっている。


「あの…あのね?上井くんにお話があって、残って待ってたの」


 周りは誰もおらず、完全に2人きり。夏と違って少し暗いから、よく言えばムードがあるし、変な風に考えたら、上井くんが豹変したら…って怖さも、ゼロじゃない。


「俺に話?どんな…話?ここでこのまま話し続けた方がいい?とりあえず音楽室の鍵を返してから、改めて話した方がいい?」


 上井くんは物凄い警戒していた。

 先週の月曜日の朝も、同じように上井くんの学ランの裾を摘んで引っ張ったけど、先週は朝だった。


 今は日も暮れようとしている夕方。


 そんな周りの状況もあってか、上井くんの警戒感は先週の月曜の朝に比べて格段に違った。


 警戒…ってことは、アタシが上井くんに別れを告げるんじゃないかってこと。


 上井くんが村山くんに、アタシと上手く付き合えてない、リード出来ない、って悩みを吐露したってことは、本当はそうしたいんだ、ちゃんと付き合いたいってことの裏返しよね。


 アタシだってギクシャクしたまま上井くんと別れるなんて、本意じゃない。

 絶対に別れたくないよ。

 2人で一緒に西廿日高校に行くって、約束したんだもん!


 まずは上井くんの警戒感を解かないと…。


「上井くん、そんな緊張しないで?」


「だって、暗闇待ち受け攻撃だよ?身構えちゃうよ」


「暗闇待ち受け攻撃って・・・アハハッ!上井くんらしい!」


「へ?」


「多分ね、上井くんは、アタシがこんな方法で話し掛けたけぇ、ひょっとしたらアタシが上井くんに別れを告げると思って、身構えとる、そうじゃろ?」


「そっ、その通り…。正直に言うね。俺、全然神戸さんに彼氏らしいことをして上げれてない。神戸さんは不満が溜まっても仕方ない、って思うんよ。こんな、彼女と話すだけで一苦労しとるような男が彼氏じゃ、物足りんのじゃないかって」


「確かにアタシは、上井くんともっとお話ししたい、いつもそう思ってるよ。手紙の交換は苦肉の策で…。でも手紙だからこそ聞けた、上井くんの本音もあったよね?」


「え?いつの手紙じゃろう…。何書いたっけ、俺。本音?自分で書いて忘れとるよ~。神戸さん、教えて?俺、何書いてた?」


「教えなーい!あの一言はね、永遠のアタシの宝物。だから、簡単には開かないんだ」


「えーっ、ますます気になる…」


「ウフフ、大丈夫よ。アタシ、とても嬉しかった。そんな一言だから」


「な、なんというか…。書いた本人は思い出せないのに…。悔しい…」


 2人で話してる内に、周りはすっかり暗くなった。校内放送で、校内にいる生徒は早く帰るようにと促していた。


「神戸さんと話すと、時間があっという間に過ぎるよ。もう学校から出にゃあいけんけぇ、…もしかしたら嫌かもしれんけど、夏以来で、一緒に途中まで話しながら帰らん?」


「うん。嫌なんかじゃないよ?一緒に帰ろうよ」


「本当に?やった、嬉しいなぁ!言ってみるもんだね!ごめん、暗いけど、下駄箱で待っとってね。すぐ鍵を返してくるけぇ」


 上井くんはそう言うと、階段を急いで駆け下りた。


「そ、そんなに焦らんでも…。怪我しないでね!」


 アタシは上井くんに一歩遅れて、音楽室の階段を降り、下駄箱で靴に履き替え、上井くんを待った。


(上井くんから誘ってくれた❤)


 夏に見た時と同じように、職員室から全力疾走してくる上井くん。


「はぁ、はぁ、ごめんね、待たせて」


「ううん、大丈夫。でも、思ったよりちょっと長かったね?」


「また竹吉先生に捕まっちゃった。神戸さんと2人で話すのもいいけど、帰りながら話せ、だって」


「え?アタシと上井くんが話してたのが先生にバレてるの?」


「うん、部活が終わってから何分経つんかのぉ…とか苦笑い気味に嫌味を言われちゃった」


「ご、ごめんね、アタシが引き留めたから…」


「ええんよ。部長が怒られとりゃあ。竹吉先生だって、本気で怒っとるわけじゃないし。ただ校門を閉めにゃあいけんけぇ、早くしてくれ、ってだけみたいだから」


「本当に?」


「うん。だから神戸さんは気にせんでええんよ。暗いし、変な奴がおったら守ってあげるけぇ、気を付けて途中まで一緒に帰ろう?」


「うんっ!」


 上井くんとのことで色々悩んだけど、アタシにだけ見せてくれる特別な優しさ。

 やっぱりアタシは、上井くんが好き…💖


 とりあえず信号機まで一緒に帰ることにして、色々なことを話したよ。


 上井くんはチェッカーズとアルフィーと杉山清貴&オメガトライブが好きで、オメガがこの年末で解散するのが寂しいって言ってた。

 アタシは安全地帯が好きって言ったら、安全地帯もいいよね~って言ってくれて、中でも「熱視線」が好きだって言ってたよ。今度、アルバム貸してあげようかな~。


 帰り道ではそんな好きな歌手の話をしてたら、すぐ信号機に着いちゃった。


 お別れの場所になるけど、まだアタシは今日上井くんを引き留めた本題を言ってない。


 これを言わなくちゃ、意味がないんだ…。


「あのね、上井くん…」


<次回へ続く>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る