第4章 中3の2学期
第26話 悲しみにさよなら
夏休み中の初デートは叶わなかったけど、一時はお別れも覚悟した上井くんとの関係が、吹奏楽コンクールへ行くバスの中で隣同士に座って色々お話し出来たことで仲直りして、安心しながら2学期を迎えることが出来た。
でも残念だったのが、1学期に林間学校用に編成した班が、2学期に入ったということで班替えされちゃって、上井くんとは別々の班になっちゃったんだ。
2学期の始業式の日、竹吉先生が朝のホームルームで…。
「みんな、夏休みは楽しめたか?楽しめたもんも、イマイチだったもんもおると思うが、今日から心機一転、新たな気持ちで頑張ってくれ。体育祭もあるしな。まずは夏休みノート、忘れとらんよな?」
夏休みノートは、各教科の夏休みの宿題とはまた違う、日記みたいなものなの。アタシや上井くん、吹奏楽部のみんなはほとんど毎日部活のネタを書いたんじゃないかな。
「それはまた後で集めるからな。まずは、心機一転で班替えをしよう!」
先生がそう言った瞬間、みんなからなんとも言えないどよめきが起きたわ。
「今の班で1学期の林間学校に臨んでもろうたんじゃが、学期も変わったしな。今回はクジ引きで決めようと思う。どうする?クジは作って来たんじゃが、前から回していくか?それともみんなが順番に前に出てきて引いていくか?」
アタシが上井くんを見たら、上井くんもアタシを見てて、目が合っちゃった。だけどお互いに、テンションは下がってた。
「班替え、早すぎるよね?」
「うん。だって事実上1ヶ月もこの班では活動してないんよ?」
小声で会話したから、他の子には聞こえてないと思ったけど、松下のユンちゃんと笹木さんは、アタシの肩を叩いて、
「クジ引きでも上井くんと同じ班になればいいね」
と囁いてくれた。
「ありがとう…」
って返事はしたけど…。どうなるかな。
上井くんをチラッと見たら、俯いて、寂しそうな表情をしていた。
「先生!俺らが順番に前に出てクジ引いてった方がええと思うよ」
クラスのリーダー的存在、谷村くんがそう言った。
谷村くんがそう言ったら、誰も逆らえない。先生もそうするか、と言って、前から1列目から、順番に先生の手元にあるクジを引いていくことになった。ちなみにクジは男子分と女子分で別れていた。
「じゃあ、どっち側から前に来てもらうかな…。廊下側から来てくれるか?で、窓側へ行ったら、窓側で折り返して後ろの列へ…って感じで、順番に引いてってもらおう。で、引いた番号を俺に教えてくれ。板書していくから」
となると、クラスは前を向いて6列になってるから、上井くんは5番目、アタシは6番目になる。
クラス中が落ち着かずにザワザワする中、クジ引きが始まって、上井くんの番になった。
「俺は3班です」
「上井は3班…と」
先生は黒板にみんなが引いたクジの結果を書き込んでいった。
上井くんが引いた3班は、まだ誰もいなかった。
「じゃあ次、神戸~」
「はい」
(アタシも3班になりますように…)
って祈りながらクジを引いたけど…
「アタシは…5班です」
「神戸は5班…。じゃ2列目にいくか。笹木~」
1/6の確率は叶わなかった。神様のイジワル!
でもアタシの次に引いた笹木さんが、3班を引き当ててた。
笹木さんが席に戻ってきて、
「クジ、先生に言ってアタシのと交換しようか?」
って言ってくれたけど、流石にそれはみんなが見てる前で引いたクジの公平性がなくなっちゃうから…。
「そうしたいけど、不公平になっちゃうから…。でも、ありがとう、笹木さん」
上井くんもめっきり落ち込んでて、アタシも元気が無くなっちゃって。
「みんな引き終わったか?一応男女の数は引き続きどの班も3:4になるようにしてあるが…。大丈夫そうじゃな。じゃ、自分が引いた班の位置へ机を動かしてくれ」
アタシは5班だから、後ろ側の真ん中辺り。上井くんは3班だから、前側の廊下側。
机を動かす前に上井くんと目が合ったら、別のクラスになるわけじゃないのになんだか泣きそうになっちゃった。
アタシの5班は、男子は初めて同じ班になる、あまり話したことがない男子ばかり。でも女子はありがたいことに、吹奏楽部で一緒の、クラの川野さんとサックスの吉岡さんが一緒になった。
「神戸さん、吉岡さん、しばらくの間、ブラス仲間でよろしくね~」
川野さんが初めに声を掛けてくれた。
「うん、女子は吹奏楽部が集まったね」
「しかも木管3人だね」
「でも神戸さん、上井くんと別々になっちゃったね…」
2人とも、アタシと上井くんが付き合ってるのを知ってるから、慰めの言葉を掛けてくれた。
「うん…。でも、仕方ないよ。ずっと一緒の班ってのも変だしね」
「おっ、流石前向きね!まあクラスが別になったわけじゃないけぇ、気楽に上井くんに話し掛けりゃあええと思うしね」
5班の女子4人の内、吹奏楽部が3人集まったのは、上井くんと別の班になったアタシの、心の拠り所になった。
もう1人の女子は、真面目でおとなしい藤田さんだった。
「藤田さんも、よろしくね」
川野さんが声を掛けていた。やっぱりパートリーダーやってるからか、リーダー的存在だわ。
上井くんはどうなったかな…。3班の方を見てみたら、笹木さんが引き続き同じ班になったのが大きかったみたいで、主に笹木さんとトークしながら、班のみんなと話をしていた。
でも彼女としては、3班の女の子は誰なのか、やっぱり気になっちゃう。
笹木さん以外には、吹奏楽部でフルートの桑田さんがいた。
それといつでも元気な森本さんと、真面目で静かな田中さんっていう組み合わせだった。
(多分…上井くんを狙ってるような女の子はいないよね…)
竹吉先生が、少しクラスが落ち着いた頃を見計らって、言った。
「そろそろ顔合わせの挨拶は終わったか?じゃあ次は班長決めをしてくれ。偶々前回はどの班も男子が班長だったが、今回は男女関係なく決めてくれ。ジャンケンでもええし、クジ引きでもええし、そこは任せるから。決まったら教えてくれ」
そう言われてアタシの5班もどうする?って話し始めたけど、男子3人が意外におとなしくて、積極的に発言しないんだよね。
だからか川野さんがリードするように話して、アタシが班長やろうか?って言ったから、すかさずみんな賛成って言って、クジもジャンケンもなしの立候補で川野さんが班長になった。
「先生、5班はアタシです!」
「お、川野か。分かったぞ。お前、クラのリーダーだし、大変じゃのぉ」
「いや~、上井くんに比べたら全然ですよ、先生」
「そうか?頼もしいな。じゃ頼んだぞ」
その上井くんの3班はジャンケンをしてた。負け残りで決めるみたいで、上井くんが、俺はジャンケン苦手なんよ~って言ってるのが聞こえた。
案の定、最後の2人まで上井くんは残ってた。
だけど残った2人のもう1人が、静かで真面目な田中さんだったからか、上井くんは、俺が班長やらせてもらうよ!と言って、田中さんからいいの?って言われてた。
笹木さんはカッコええねぇ、神戸さんの前でもそうなん?って言って、3班のみんなを笑わせてたけど。
…上井くん、カッコいいよ!
「先生!3班は俺、上井が班長です」
「上井、班長続投か。お前も忙しいのに、頑張るやっちゃなぁ」
と言って、黒板に3班=上井、って書いてた。よく見たら、その3班が、最後まで班長が決まってなくて残ってたみたい。そのことも上井くんは頭に入れてたのかもしれない。
「よし、やっと全6班の班長も決まったけぇ、そろそろ始業式に行くぞ。体育館に集合してくれ」
みんなバラバラに体育館へと向かい始めたから、アタシは今しかない!と思って、歩きながら上井くんに話し掛けた。
「ね、上井くん…」
「あ、神戸さん。5班はどう?上手くやれそう?」
「まあ、吹奏楽部の女子がアタシを含めて3人おるし、川野さんが仕切ってるから、安心感はあるかな…。でも…」
「でも?」
「上井くんがいないと、寂しいよ、やっぱり」
アタシ、凄い勇気を出して、上井くんに語り掛けたの。
「ホンマに?ありがとう…。実は俺も同じだよ」
上井くんはそう答えてくれた。現実は寂しいけど、嬉しい言葉だった。
「でも上井くん、最後は立候補してたね、班長に」
「ああ、あれはさ、田中さんがジャンケンに負けて班長になったとしても、おとなしい田中さんには班長は難しいだろうな、大変だろうなと思って。だったら負け残り2人のどっちかが班長をやるんなら、俺がやった方がいいじゃろ、って思ってね」
「…カッコ良かったよ、上井くん」
「え?よく聞こえん~。もう一回言って?」
「ダメ!もう言わないもーん」
「えーっ、ホンマに聞こえんかったのにぃ」
確かに体育館に近付くにつれて、他のクラス、他の学年も合流してきたから、周りは五月蠅かった。
でも、恥ずかしくてそんなに何度も言えないよ…。
クラスでの班は別々になっちゃったけど、こんな移動の時とか、話が出来るなら、何とかなるかな…。
別の班になったのも、2人の試練だと思って、頑張って乗り越えなくちゃ!
<次回へ続く>
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