第20話 初めて聞く話…

 これまで3日間、部活の帰りは、途中までだけど上井くんと一緒に帰ってた。


 だけど今日はアタシの隣に、副部長の船木さんがいる。


 まあ普通に女子2人で帰ってるだけだから、なんの違和感もないと思うけど、これまであまり船木さんとは話したことが無かったから、意外な一面にビックリさせられつつの帰り道になっている。


「アタシね、1年の時、上井くんと同じクラスだったんよ」


「へぇー、そうだったの?」


「横浜から来た転校生ってことで、注目浴びてたのを思い出すな~」


 上井くんが中学に上がる段階で、お父さんの転勤で広島の大竹市にやって来たのは、上井くんから聞いてたし、アタシもクラスは違ってたけど、横浜から転校生が来たってちょっとした話題になってたから、その頃に耳にしたことはあった。


「最初はやっぱり知り合いもいないからさ、静かに黙って過ごしてたんよね。そんな上井くんに一番初めに出来た友達が、村山くんだよ」


「それは聞いたことがあるよ。共通の趣味を持ってたとか…」


「そう。それが鉄道模型なの。上井くんが自己紹介で、趣味は鉄道模型です、って言ったの。そしたら村山くんが反応して、声を掛けて…って感じね」


「だからなんだね。上井くんに富山へ行くからしばらく会えないって言われた時、富山がどこなのかも知らなかったから、どれくらい掛かるの?って聞いたの。そしたら新幹線とナントカっていう特急を乗り継いで6時間だっていうから、遠いね~って言ったのよ。でも上井くんは、沢山電車に乗れるのは嬉しいって言ってたわ」


「6時間も普段と違う列車に乗るなら、嬉しいだろうね、鉄道が好きな男子としては。アタシは女だからそんなに興味ないけど。神戸さんは?上井くんに影響されて、鉄道に興味持ったとか、ある?」


「いや~、その話したの、ほんのちょっと前じゃけぇね。でも夕方から夜に掛けて、東京に向かって機関車が引っ張ってる青い寝台列車は、カッコいいなって思ってるよ」


「あ、寝台列車ね。それくらいならアタシも分かるよ。あれは別格だよね。一度乗ってみたいな~。起きたら東京なんて、憧れない?」


「うんうん、いいよね!憧れる~」


 そんな話をしていると、船木さんと今までそんなに喋らなかったのはなんでだろ?って思うほど…。


「あ、話が脱線しちゃった。鉄道だけに…」


「フフッ、船木さん、上手いんだから」


「1年の時の上井くんの話に戻すと、彼は新聞部に入ってたの。これは聞いてる?」


「えっ、新聞部?初めて聞くよ?」


 上井くん、1年生の時は単なる帰宅部じゃなかったんだ?


「そっか~。多分上井くんの中でも、黒歴史なんだろうな。だから神戸さんには話してないんじゃろうね」


「そんな酷い部活だったの?確か音楽室の真下の図書室が活動場所だったよね?」


「うん。噂では男子が上井くん1人だから、女子の先輩にイジメられてたとか…」


「えぇっ、本当に?」


 上井くんが苛められてたって?まさか…。本当に?


「噂だけどね。でも確かに放課後、上井くんは部活に行きたくなさそうだったな」


「そうだったの…」


「だから、秋に新聞部が何の活動もしてないって廃部にされた時は、凄い喜んでたのよ。思い出すな〜」


「なるほどね。そして上井くんは正式に帰宅部になって、竹吉先生の猛烈な勧誘が始まったんじゃね」


「そうそう。もう先生ってば、上井くんの顔を見る度に吹奏楽部へ誘いよったからねぇ。上井くんも最後は根負けしたような感じで入ってくれたけど、やっぱり同期に男子がいるのといないのとじゃ、違うよね。そう思わない?」


「うーん、確かに」


「じゃけぇね、アタシは上井くんが吹奏楽部にバリトンサックス担当で途中入部してきた時、嬉しかったんよ」


 アタシは意外だった。

 今は上井くんが部長をしてるけど、上井くんが途中入部する前は、船木さんが次期部長候補の一番手だったはずだから。

 船木さんとしては部長になれるはずだったのを、途中入部の上井くんに奪われたわけで、あまり上井くんのことをよく思ってないのかと、アタシは勝手に想像していた。


「船木さんさ、上井くんが途中入部する前は、北村先輩の次は船木さんが部長って言われてなかった?」


「アハハ、神戸さん、結構ストレートに聞いてくるねぇ。確かにそんな噂もあったけどさ」


「やっぱり船木さんも意識してた?」


「まあ、そんな噂が出回るけぇ、意識はしとったけどね、本当は嫌だったの」


「えっ、本当?」


「北村先輩みたいな人の後に部長なんてやりたくないよ。それにアタシ、そんなにリーダーシップがある方じゃないし。なんでアタシが部長候補なの?って、噂を流した人を探したかったもんね。じゃけぇ、上井くんが途中入部してきた時は、待望の同期男子ってことで、まだ全然バリサクも吹けん時から、次の部長は上井くんで決まりだね、って思ってたもん」


「えっ!本当に?」


「うん。ただ先生と先輩達の話し合いで、アタシも副部長にはならされたけどね。でも今まで部活の事は殆ど上井くんに任せっぱなしだし。アタシがした仕事らしい仕事って、冬の練習の時に女子はジャージを穿いてもいいかどうかの、女子だけの話し合いの仕切りと、上井くんが休んだ時の音楽室の鍵閉め…これは今もまさにやってるけどさ、それぐらいだもん。あとは同期の女子の愚痴の聞き役かなぁ。後輩の面倒は上井くんが引き受けてくれとるけぇ、アタシは同学年担当ってことで」


 結構船木さんと、深い部分まで話したなぁって気がする。


「じゃけぇ、あんまり上井くんと2人で話し合ったりしたことはないけど、なんとなくお互いが感じてる、思ってることって、分かるんよ。カッコつけると、以心伝心?なんてね。アタシは上井くんは今はこんなことを考えとるんじゃないか、って思うし、きっと上井くんもアタシのことを信頼…って自分で言うと照れるけど、してくれとるって思っとる。じゃけぇね、上井くんに対する同期女子の不満は、アタシが聞き役になって解消させとるんよ」


「そうなのね…。結構、同期の女子って、上井くんが部長になるのに、やっぱり反対じゃったんかな?」


「いや、そんなに人数は多くないんよ。上井くんが楽しそうに話してる同期の女子もおるじゃん。ただその他の反対派が嫌味を吐き出しに来る回数がねぇ…。しつこい女子は、アタシも相手したくないんよね、本当は。表では上井くんに従うけど、裏ではネチネチと陰口を言ったりするような…。そんな熟語もあるらしいんじゃけど。とにかく去年の役員改選の時に、一部の同期の女子の反発が心配の種じゃけぇ、上井くんに対する防波堤になってくれって言われたんだよね。竹吉先生から」


「そうだったんじゃね…」


「まあ副部長の役割ってそんなもんでしょ、と思ってたから、はい、分かりましたって引き受けたけどね」


 サバサバした船木さんが副部長で、上井くんが助かってる部分も結構あるんだろうな。

 今頃上井くん、富山でクシャミしてたりして。


「でも上井くんがこんなに化けるとは思わなかったなぁ」


 船木さんは少し空を見て、そう言った。


「え?化ける?」


「うん。1年の時のオドオドしてた上井くんとは、今は別人みたいだもん。神戸さんの存在も大きいかもしれんけどね」


「あっ、アタシは…そんな…」


「あー、照れてる。神戸さんもさ、パッと見だと凄い頭が良くて、何でも出来る子ってイメージなんだよね」


「えー、そんなことないよ」


「うんうん、実際話したらさ、そんな照れてる顔になったり、上井くんのことを話す時は目が輝いたりして、女の子だよね~って思うよ、アタシは」


「そっ、そう?」


 何だかアタシの顔が熱くなってきちゃった。


「結果的に、上井くんと神戸さんは、お似合いの2人ってことだよ〜。照れ屋な所が似てるし」


「アタシ、照れ屋かなぁ?上井くんはどう見ても照れ屋じゃけど」


「十分に神戸さんも照れ屋だよ。アタシが見た時の2人で帰ってる場面では、神戸さんがちょっとだけ上井君の後を歩くようにして、斜め後ろから上井くんを見上げるようにしてて、でも上井くんが神戸さんの方を向いたら、サッと下を向いたりしてて」


「よっ、よく見てるね…」


 再びアタシの顔が火照るのが分かった。やっぱり照れ屋なのかな。


「ハハッ、見てたのがバレちゃったね。でもアタシは他の子と違って、言いふらしたりしないから。アタシはそんな2人が初々しいな、羨ましいな、って思ってるの」


「もしかして船木さん、上井くんのことが好きだったことってある?」


 アタシは何故かそんな質問を、唐突に投げかけた。


「えっ、なんで?アタシが?」


「あ、あのね、アタシも知らない上井くんのことを沢山知ってるし、今もさり気なく上井くんを部活で支えてるし…」


「うーん、まあ、好きか嫌いかの2択なら好きに入るけど、恋愛感情ってよりも、友情に近いかな?共にコンクールで頑張ろうっていう戦友かもね」


「そっかぁ」


「だから神戸さんから奪ったりしないから、そこは安心してね!」


 そこまで話して、互いの自宅への分かれ道に着いた。


「じゃ、また明日ね。バイバイ…って上井くんなら神戸さんをずっと見守ってるかもしれないけど」


「んもう、船木さんってば!」


 最後はいい雰囲気で船木さんとお別れして、帰宅出来た。


(でも、船木さんは1年生の時の上井くんを見てるから、アタシやケイちゃんが知らない上井くんの一面を色々知ってるんだね…。ちょっと羨ましいかな)


 早く上井くんが富山から帰ってきますように♪


<次回へ続く>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る