第15話 初めての2人の…
夏休みに入って、最初の日曜日。
もしかしたら?もしかしたら!
上井くんから電話でもあって、何処かに行かない?って誘われるかも…って少し緊張してたけど、流石にまだアタシと上井くんの関係は、そこまで進んでなかったかな…。
でもプールにでも行かない?なんて言われたらどうしよう!スクール水着しか持ってないから、恥ずかしいわ…。
そんな感じで、お家でソワソワしてたら、妹の久美子に指摘されちゃった。
「お姉ちゃん、電話の前を行ったり来たりしてる。なんで?何かあるの?ねぇ、お姉ちゃーん」
「な、何もないよ」
「ウソ。お姉ちゃん、何か隠してる」
妹だからか鋭いわ…。運悪くお母さんがこの会話を聞いてて、すぐ参入してきたのよ。
「久美子、お姉ちゃんが何か隠してるっぽい時は、男の子のことかもしれないよ?」
「えーっ、本当?ねぇねぇお姉ちゃん、お母さんが言ってること、本当?」
アタシは困り果てて、お母さんを少し恨んじゃった。
でももう何もないとは言えない雰囲気を作られちゃったから、白状したわ。
「はい、じゃあお姉ちゃんは素直に言います。お姉ちゃんに、彼氏が出来ました」
母と妹が一緒になって
「きゃー!ホントに?」
と大騒ぎ。日曜日だから家にいたお父さんまで2階から降りてきて、臨時家族会議みたいな展開になっちゃった。
「お父さん、千賀子に好きな男の子が出来たんですって!」
「ほぉ…。千香子もそんな年になったか…。相手の男の子は、どんな子だい?」
「あ、あのね…。同じクラスで、同じ吹奏楽部の、上井純一くん」
「上井くん?やっぱりね。バリトンサックスを吹いてて、部長もやってる男の子でしょ?」
「う、うん、そうだけど、なんでお母さんがそんなに知ってるの?」
「去年の文化祭の演奏を観に行ったから、かな。男の子が少ない中、途中入部した同級生唯一の男の子、上井くんって子がバリトンサックス吹いてるの、って貴女が教えてくれたじゃない。それでバリトンサックスを吹いてる男の子ってどんな子かな?って見てたから。マジメそうな感じだったわよ。それと一学期の学校からのお便り。PTAだよりだったかしら?それに部活紹介が載ってて、吹奏楽部は竹吉先生が顧問で、部長は3年1組の上井純一くんって出てたもの。それで結び付いてたの、お母さんは。この前の林間学校の時も、前の日の買い出し、本番の日の出来事、もう、貴女から出てくる男の子の名前は上井くんばかりで。相当好きなんだね、って見抜いてたわよ。でも良い男の子を選んだじゃない、貴女は」
「えっ、そ、そうかなぁ」
お母さんの洞察力、推理力ったら凄すぎるわ…。
「ねぇねぇお姉ちゃん、そのウワイクンとお姉ちゃんは、どっちが先に好きって言ったの?」
そしてまだ小6の久美子の直球すぎる質問に、アタシは苦笑いしつつも答えを戸惑っていた。
「ねぇ、クミちゃんは、男の子をカッコいいな、とか思ったこと、ない?」
ちょっとアタシが攻められるのを鎮めてみようと、久美子に話を振ってみた。
「えーっ、ないよ!男子なんていつも女の子に意地悪ばっかじゃもん。6年生にもなってスカート捲ってくる男子がおるんじゃけぇ、ブルマ忘れた子なんか、この前パンツ見られたって泣いてたもん」
「そ、そうなの…」
一応アタシは小6の時に、同じクラスの男子に告白されて付き合ったことがある。
って言っても2人で遊んだことなんかないし、一緒に帰ったこともないし。
バレンタインデーには一応チョコを上げたけど、卒業式直前のホワイトデーには、お返しは来なかったなぁ。
そして私立の中高一貫校に進学しちゃったから、その彼とは自然消滅。
だからケイちゃんは上井くんが2人目の彼氏とか茶化すけど、アタシは初めての彼氏のつもりだもん。
でも久美子の話を聞いたら、アタシはちょっと進んだ女子だったのかな、って思っちゃうね…。
スカート捲りする男子なんて、低学年の時だけだったし。
「ところで千賀子、そのウワイクンという男の子は、真面目な男の子なのかい?」
今度はお父さんが聞いてきた。
「う、うん。吹奏楽部では部長なの。この間、林間学校に行ったでしょ?その時も班長さんになって、リーダーシップを発揮して班をまとめてくれたし、それにアタシのお友達の靴が流されたと聞いたら、自分の靴をその子に貸して、上井くん本人はずっと裸足でいたのよ?学校に帰ってくるまで。バーベキュー広場だから小石がゴロゴロしてて足が痛いはずなのに。こんなに、女の子に優しい男の子なんだから」
アタシはお父さんに対してだからか、つい力説してしまったわ。
「そ、そうなのか。千賀子はしっかりした男の子を選んだんだな。いい彼氏くんだね」
お父さんはアタシの圧力に気圧されたのか、すんなりとアタシと上井くんの交際を認めてくれた。お母さんも、
「上井くんなら、間違いないと思うわ。ただお母さんの見立てでは、ちょっと上井くんは照れ屋さんじゃないかな?って思うから、そんな時は千賀子がリードしてあげるのよ」
「うん。分かった」
上井くんが照れ屋ってことまで見抜いてるアタシのお母さんって、一体何者なの?
とりあえずその日はアタシに上井くんって彼氏が出来たってことで、我が家は賑やかだったわ。
そして夏休みが始まって最初の月曜日。
朝登校して音楽室に直行したら、上井くんがもう来てた。
「おはよ、上井くん」
「あっ、神戸さん、お、おはよう…」
朝の挨拶を交わすだけで、上井くんってば、顔を真っ赤にして照れちゃってる(*´艸`*)
付き合う前は、おはようなんて全然大した事ない挨拶だったのに。
だから逆に、会話が弾まないの。
お互いに照れちゃうから。
でもずっとこんなままじゃ、全然先に進めないわ。
アタシから何かアクション起こさなきゃいけないかなぁ。
と思ってその日の練習をこなしてたら、昼休みに2年生の竹田君が、アタシに声を掛けてきた。
「神戸先輩、あのぉ、上井先輩が図書室の前で待ってるから来てくれ、だそうです」
「え?上井くんが?」
「はい。なんでも伝えたいことがあるそうで」
「わ、分かったよ!ありがと、竹田くん」
アタシは急いで音楽室の真下にある図書室へと駆け下りた。
そこには、アタシが来るのか来ないのか、何となく不安気な表情をした上井くんが汗をかきながら立っていた。
「上井くーん!」
「あっ、神戸さん!来てくれたんだね、良かった〜」
上井くんは一転して、照れながら嬉しそうな表情になった。
「うん。竹田くんから聞いたよ。こういう手段でくるか〜って思っちゃった。ウフフッ」
「うん、ゴメンね。直接声掛けたいと思っとるんじゃけど、そしたらみんなにバレそうで…。まだバレたくないよね?」
「え?アタシはバレてもいいよ?」
「えっ、本当に?」
「アタシや上井くんから積極的にアピールはしないけど、付き合ってればいつかは分かることだし…。だから、そんなに隠れてコソコソとはしたくない、かな。でもすぐに広まるのもちょっと…って感じなんだ」
「ホンマに?まあ、そのうち自然と広まればいいよね。でね、あの、一つお願いがあるんよ…」
「うん、なーに?」
アタシは敢えて小首を傾げるようにして、アピールするようにしてみた。
効果はバッチリ!
上井くんたら、やっぱり照れて真っ赤な顔になっちゃった。
「あっ、あのさ、彼女が出来たらやりたかったことなんじゃけど…」
「うん、うん」
アタシはきっと、一緒に帰りたいってことかな?と予想してた。するとやっぱり…
「出来れば、学校から信号までほんの少しの距離じゃけど、神戸さんと一緒に帰りたいな、って思って。ダメかな…」
顔を真っ赤にして、汗まで流しながら、上井くんは必死にそう言ってくれた。
「うん!いいよ!一緒に帰ろ?」
「えっ、いいの?ホンマに?やったー!」
上井くん、凄い嬉しそう💓
アタシまで嬉しくなってきたわ。
「じゃ、帰りはアタシが先に下駄箱で待ってるね。上井くんは鍵閉めがあるじゃろ?」
「そ、そうじゃね。でも出来るだけ急ぐけぇね。クラの2年の、いつも最後まで掛かる2人に、早く片付けろって言っといてよ」
「アハハッ、それは流石に言えないよ。なんでですか?って聞かれたら、答えられないもん」
「そうか、そうじゃね。じゃ、ちょっとだけ遅くなるけどなるべく急ぐから、待っててね」
「うん、待ってる」
「じゃあ、昼からも頑張ろう、練習」
上井くんはそう言ってから、俺が先に行くね、と音楽室に向かいかけたから、アタシは上井くんを引き止めた。
「なに?」
「こういう時は、女のアタシが先に戻った方がいいよ。だからアタシが先に行くね。それと、コレ。アタシからのプレゼント…。受け取ってね」
「う、うん。ありがとう。なんじゃろう…」
「あ、後で開けてね。じゃ、先に行ってるね」
アタシは女が先に動いた方がいいとか言ったけど、別にそんな決まりはなくて…。
単に、部長としての上井くんより後に音楽室に戻るのは、部員として変だと思ったから…。
音楽室への階段を上がってたら、上井くんが、わっ、嬉しい!と呟いたのが聞こえた。
アタシからの初めてのプレゼントは、汗かきな上井くんに使ってほしいと思って選んだ、ミニタオルなの。
いつも玉のような汗をかいて練習してるのを見てたから、初めてのプレゼントはタオルにしようって決めて、昨日買っておいたんだ。
いつ上げられる日が来るかな?って思ってたから、意外に早く上げられて良かった♬
使ってくれたら嬉しいな♪
そして午後の練習は合奏をこなして、4時には練習が終わり、いよいよアタシと上井くんのミニデートの時間!
上井くん、下駄箱で待ってるね💖
<次回へ続く>
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