第14話 アタシ達、カップルだよね!
体育の時間の大縄跳びでは、結局上井くんとは近付けないままだった。
そのまま体育は終わってお昼休みになったんだけど、アタシはやっぱりブルマ姿を上井くんに見られるのが恥ずかしくて、体育が終わったらすぐに教室に戻って、スカートを履いた。
後から戻ってきた他の女の子から、何かあったの?もしかしてあの日が始まっちゃった?って聞かれちゃったほど…。
「どしたんねチカちゃん、警察から逃げる犯人みたいな速さで教室に戻って…って、もうスカート履いとるし」
ユンちゃんが戻ってきて、ユンちゃんらしい言い方でアタシにそう言った。
「ふぅ…。だってやっぱり、上井くんにアタシのブルマ姿、出来るだけ見られたくないもん」
「別に気にしなくてもいいのに」
「だって…」
「この先の体育、毎回そんなことするの?体育祭なんか、一日中上井くんから逃げ続けるの?無理でしょ。同じ吹奏楽部なんじゃけぇ。女子はみんな体育の時、ブルマなんじゃけぇ、上井くんに見られてもイチイチ気にしなきゃいいじゃん。仮に上井くんがチカちゃんのブルマ姿をジーッと見てたら、その時はさすがにジロジロ見ないで!って怒ってもいいと思うけど。ね?チカちゃん、自意識過剰になってるよ」
「…うーん、そうだよね。体育の時、女の子はみんなブルマだもんね。考えすぎてた…のかな」
「そうそう、考え過ぎ!早くお弁当タイムにしよう?ね!」
クラスのみんなも男女共に、殆ど制服に戻ってた。
アタシもブラウス着なくちゃ…。
お昼休みは班毎に向かい合って、食べることになってるの。
だからアタシの向かいは、上井くん💖
何かお話しながら食べられるかな?
…残念ながら、アタシも上井くんもお互いを意識しすぎて、昨日までのようには話せなかったの。
アタシは隣の笹木さんと、上井くんは隣の松田くんとずっと話してて、時々お互いの目が合うんだけど、目が合った瞬間にお互いに照れて逸らしちゃうんだよね…。
昨日の今頃は、上井くんは誰が好きなの⁉️って問い詰めながらお弁当食べてたのに、たった1日でこんなに状況が変わるなんて…。
でもまだ付き合えて初日だもん。
学校は明日で一学期が終わりだけど、夏休みも部活で上井くんに会えるから、その時に色んなお話とかしてみたいな…。
そして放課後…
「チカちゃん、ええ顔しとるねぇ。やっぱり上井くん効果?」
部活に行ったら、ケイちゃんがそう声を掛けてきた。
「そ、そんなこと、ないでしょ?アタシは普通だよ?寝不足じゃけど」
「うん、確かに眠そうな顔しとるね。上井くんのことを考えてたら、寝れなかった?」
ケイちゃんってこんなに突っ込んでくるタイプだったっけ…。
「…それは、素直に認めるけどさ。なんでも上井くんと結び付けられるのも…」
「チカちゃん、初々しくて羨ましいな!彼氏が出来るって、本当に女子には劇的変化をもたらすよね…」
「えっ?どうして?ケイちゃんには一応、北村先輩がおるじゃん」
「…アタシは一秒でも早く北村先輩とは、別れたいんだ」
「えっ、そこまで…」
アタシは北村先輩は苦手な先輩だったけど、ケイちゃんとは上手く付き合ってた時もあるだろうから、ケイちゃんに男の子と付き合う方法とか、聞こうと思ってたのに。
「…チカちゃんだけね、このことを言うのは。もう別れようって手紙も送ったし、電話もしてるの。だけど手紙の返事はないし、電話しても居留守だし」
「そうだったんだ…。ゴメンね、一応とか言ってケイちゃんを困らせて」
「なんでチカちゃんが謝るのよ。悪いのはチカちゃんじゃないじゃん。チカちゃんは全く悪くない…よ」
ん?ケイちゃん、最後に変な間があったのはなんだろうな。
「でもケイちゃん、北村先輩と別れたいってアタシが聞いてから、かなり経つよね?それだけずっと悩んでたら、他の男の子に気が移ったりしない?」
「……」
ケイちゃんは黙っちゃった。せっかくアタシが上井くんと付き合えて良かったね、って始まった会話なのに、ケイちゃんを追い込んじゃった。
あっ!アタシが上井くんと付き合えたことで、アタシの想像の世界だけど、ケイちゃんは上井くんのことを好きなはずだったから、アタシに言わないだけで失恋したのと同じ心理状態のはずなんだわ…。
「ゴメンね、ケイちゃん。そこまでは聞かないことにするわ。アタシは北村先輩とケイちゃんの関係が、円満に解決するように祈ってるね」
「う、うん。ありがと。ね、チカちゃん、絶対上井くんのこと、大切にするんだよ!離しちゃダメだよ!」
「え、そ、それは彼女になったんだから、頑張るよ」
「仲良しカップルになって、アタシと北村先輩みたいにならないようにね!」
「うん、ありがとう」
ふと上井くんは今、何してるのかなと思って、サックスパートの方を見てみた。
そしたら昨日までと変わらない、練習熱心な上井くんがそこにいた。
間違えやすいフレーズを、何度も何度も繰り返してる。
(上井くんも頑張ってる。アタシも頑張らなくちゃ)
アタシもクラリネットを組み立てて、練習開始!
と思ったら、竹吉先生が元気よくやって来て、
「久々に合奏しようぜ〜」
と、部員に指示を出した。それを受けて上井くんも、
「じゃあ皆さん、合奏の体系を組んで下さい」
と声を掛けていた。
「合奏もいつ以来かのぉ?3年生が山に行く前じゃけぇ、10日ほどぶりになるんか?みんな上達しててくれよ。まず課題曲いくか。『波の見える風景』から。準備してくれ」
この「波の見える風景」は素敵な曲なの♬
ただクラリネットは16分音符の続くフレーズがあるから、ちょっと大変…。
そのクラリネットは、パートリーダーが同じ1組の川野さん。その川野さんと、ケイちゃんと、アタシの3人が、コンクールのクラリネットの1stパートを吹くんだ。
とにかくクラリネットだけで3年生が沢山いるから、割り振りも大変なの。
曲によって、1st、2nd、3rdを入れ替えたりしてるんだけど。
上井くんは合奏の準備が整うのを、ずっと立って見守ってる。なかなか集まらないパートには、もっと早く、って声掛けしてるけど…。
よく考えたら今日の部活は、付き合い始めて最初の部活なんだよね!
昨日の今頃は、まだ上井くんの態度がハッキリしてなかったから…。
だから上井くん頑張れって、つい応援しちゃう。
「そろそろいいか?上井、どうや?」
「大体揃ったかなと思うんですが…。ペットが足らんかなぁ」
「またアイツらか。しゃーない、いつ来るか分からんのはほっといて、始めるぞ」
トランペットは4人いるんだけど、真面目な子と不真面目な子2人ずつに分かれてて、いつも上井くんは困ってる。
その不真面目な方の3年生は、上井くんが部長になる時に、露骨に不満そうな態度だったから、部活にもあまり出てこないんだよね…。
逆に上井くんも注意しようにもしにくいみたいで、悩みの種みたいなんだ。
これからはアタシが上井くんのそんな悩みを聞いてあげて、少しでもいい方向に部活が向かえばいいな…。
そしてこの日の部活が終わって、みんな楽器を片付けてる時に、竹吉先生が夏休みの練習予定表をパートリーダーに取りに来いって言ってた。
川野さんが取りに行って、クラリネットのみんなに配ってくれたけど、夏休みもほぼ毎日、朝9時から夕方4時まで練習になってた。
「去年の夏休みより、ちょっと厳し目かもしれん。でも今年はA部門に出るけぇ、去年より2倍以上頑張らにゃあ、結果が付いてこんのじゃ。その分、土曜は半日、日曜は完全に休みにしとるから、そこで体を休めてくれや。あと個人的に何日から何日までご両親の実家に帰省するとか、予定が決まっとる時は、俺か上井に言ってくれ」
ハーイと、少し元気がない返事だったからか竹吉先生も苦笑いしてたけど。
「じゃ、上井部長、何か一言あるか?」
「あっ、はい…。コンクールでは金賞を目指すのは当たり前なんですけど、その前に各パート内の意思疎通をしっかり取れるようにして下さい。誰かが休んでて、出てきてる人にその理由を聞いても知りませんとか、そういうのは俺は嫌なんで」
上井くんが珍しくユーモアを交えずに話したからか、みんな緊張してた。
「今、部長も言ってくれたが、出欠はしっかり確認するから、パートリーダーはメンバーの出欠状況、休むなら必ずパートリーダーか学校へ連絡するようにしてくれ」
ハイ、という返事がアチコチから不規則に上がっていた。
今年の夏休み、出来たら上井くんと何処かへ行けたらいいなって思ってたんだけど、難しいかなぁ。
「じゃあ後は、片付けたら解散じゃ。上井、鍵頼んだぞ」
「あ、はい。分かりました」
アタシもクラリネットを片付けて、帰らなくちゃ…って、誰がアタシの手を引っ張るの?
「チカちゃん、上井くんと一緒に帰らないの?」
ケイちゃんだった。
「えっ、上井くんと?」
「そう。今日から2人はカップルでしょ?カップルが初めにやることは、やっぱり一緒に帰ることじゃん」
「えーっ、でも上井くんは鍵閉めがあるし…」
「昨日は鍵閉める時まで粘って、上井くんの本音を引き出したじゃん。今日も鍵閉めまで待てばいいのに」
「でっ、でも…。まだそんな話、何もしてないし…。いきなりアタシが待ってても上井くん、驚くだけだし…」
「なーにを借りてきた猫みたいなこと言ってんの?彼女なんじゃけぇ、事前に話し合いが…とか言ってたら、他の女の子に取られちゃうよ?アタシとか」
ん?ちょっと気になる言葉だったけど…。
「うん…。分かってるけど…。今日は朝しか2人で話せとらんけぇ、心の準備が出来てないの。だから、来週!来週から、ちゃんと上井くんと帰るように、明日話し合うから」
「話し合うって…。まだ告白してない2人みたいだよ。『上井くん、一緒に帰ろう?』の一言でいいんだよ?アタシなら迷わず上井くんの腕引っ張って、そうするけどな」
また気になる言葉が…。ケイちゃん、上井くんを諦めてないのかな…。
「ありがとう、ケイちゃん。でも今日のアタシはもう一杯一杯なの。だから、許して」
アタシは上井くんが彼氏になったからって、早速今日から一緒に帰ろうとは思ってなかったから、ケイちゃんの突っ込みにシドロモドロになっちゃった。
でもアタシは上井くんが好き、これは変わらないもん。
そんな、直ぐに誰かに奪われるなんて、思ってないし、奪わせないよ!もちろん、ケイちゃんにだって…。
だからお互いに落ち着いたら、少しずつカップルらしい2人になっていきたい。
上井くんの考えもあるだろうし。
とりあえず今日は先に帰るね、上井くん。また明日ね、バイバイ!
<次回へ続く>
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