第12話 初戀

 どうしたら上井くんと両思いになれるかなぁ…。


 実はね、林間学校の後にずっと考えてたことがあってね。


 班の編成は、1学期が終わるまでそのままだっていうから、週明けに班の中でアタシの机を、上井くんの横にしてもらったの(〃∇〃)


 それまでは黒板に向かって、上井くんが右側の一番前で、アタシは左側の前から3番目だったんだけど、アタシも左側の一番前にしてもらったの。

 交渉相手は、林間学校で上井くんが靴を貸したユンちゃんだから、頼みやすかったよ。


「えっ?上井くんの横に席を移すの?それってもしかして…」


「う、うん。もしかするの」


 多分、アタシの顔は真っ赤だったと思うわ。


「わ、チカちゃんがそんな大胆な行動するなんて…。アタシも上井くんって、靴を貸してくれたりして優しいな、気になるなと思ってたけど、チカちゃんの思い立ったが吉日的アクションには負けたわ」


 お昼休みにユンちゃんと席を交換して、流石にこんなことしたらバレるかな?と思ったけど、上井くんは鈍感なのかなぁ、何か気付いた様子なのに、アタシに何も言ってこないんだよ…。


 アタシやユンちゃん以外、同じ班の子にもバレバレな行動なのに。


 女の子がもう1学期が終わるって週に、わざわざ机の位置を変えるなんて、本当は凄い勇気がいることなんだから、せめて何か聞いてほしかったなぁ。


 もう、上井くんの鈍感‼️


 でもね、これじゃしばらくアタシの片思いかな、上井くんが、アタシを好きだと思ってたのは勘違いかな、次に告白出来るチャンスは、吹奏楽コンクールの時かな?って色々思ってたんだけど、上井くんに近づけるチャンスが突然やって来たの。


 それは木曜日の理科の授業の時。


 理科は、理科室まで移動して授業を受けるんだけど、理科室でもクラスの班単位で大テーブルに座るの。

 だから上井くんが座った真向かいに、アタシが座ったの。


 その日、上井くんは何を考えてたのか分かんないんだけど、何故か隣の席の松田くんをやたらと弄ってて、誰が好きなんだ?ってやたらと問い詰めてるの。

 それも結構しつこいくらいに(笑)

 笹木さん、って言わせたいのかな?でも理科の授業中はマズイでしょ。


 だからアタシ、松田くんを助ける意味も少しあったけど、上井くんについ聞いちゃった。


「そういう上井くんは、好きな女の子は誰なの?」


 そしたら上井くんは途端に真っ赤な顔をして固まって、


「えっ?い、いや、あのー、えっと、ええっ?そ、それは、その…」


 なーんて答えに詰まっちゃったの。

 ね、これってアタシの会心の一撃じゃない?

 もしアタシ以外の女の子が好きなら、ここまで慌てないよね?


 上井くんたら、急に松田くん弄りを止めて、顔を真っ赤にしてシドロモドロになっちゃったの。


 この反応は、もしかしたらアタシのことが好きなんじゃないかな?そう確信したから、もっと攻めてみたよ。


 理科の授業が終わった後、教室に戻る途中にも


「ねえ上井くん、誰が好きなの?」


 って聞いたけど、真っ赤な顔で、


「えっ、ひ、秘密!」


 掃除の時間にも、部活で音楽室に向かう時も、上井くんに声掛けたんだよ。


「上井くん、好きな女の子っているの?いないの?いたら、誰が好きなの?」


「いや〜、知らない!分からない!」


 逃げる上井くん…。


 今思えばアタシ、ちょっとしつこいよね。反省しなくちゃ…。




 その日の部活は、上井くんは真面目に練習してたけど、アタシはケイちゃんとお喋りばっかりしちゃった。


「アタシ、上井くんのことが本当に好きになったんだ」


「えーっ、ついにチカちゃん、前の彼氏の影を吹っ切れたんだね!」


「前の彼って、小学校の時の話じゃん。アレは付き合ったと言えるのかどうか、アタシも分かんないし、影ならとっくに吹っ切れてるよ!」


「そっか、そうだよね、エヘヘ」


 ケイちゃんってば、何を言い出すの?


「でね、今日上井くんに、好きな女の子はいるの?って、話しかけたら、上井くんたらシドロモドロになっちゃって、逃げてばっかりなんだ」


「分かる。分かるよ~、上井くんの気持ち」


「ちょっと、なんでアタシより上井くんの気持ちに寄り添ってるのよ、ケイちゃん!」


「まあ、男子と女子には色々あるからね、えへへ」


「なんかケイちゃんはアタシの味方なのか敵なのか分かんないよ」


「もちろん味方に決まってんじゃん!かなり上井くんを追い詰めたんでしょ?そしたらさ、今日中に決着つけたいよね」


「ま、まあね…」


「いつもチカちゃん、クラリネット片付けたらとっとと帰ってるけど、今日は上井くんが音楽室の鍵を閉めるまで待ってて、最後に2人切りの状況になって、答えを言わなきゃ帰さない!って攻めてみたらどう?」


「そうだね、いつもアタシは早々に帰ってたから…。うん、そうするよ!」


「応援してるよ、チカちゃん!」


「うん、頑張るね」


 さて部活も終わって、みんな楽器を片付けだしたわ。

 アタシは逆にゆっくりと片付けてるの。みんなの様子を見ながらね。いつもならアタシも早く楽器を片付けて、早く帰ってるんだけど、今日は上井くんと対決するんだ。


 と思ったら緊張してきたよ~。

 もし上井くんの意中の女の子がアタシじゃなかったらどうしよう…。


 ふと上井くんを見たら、アタシの方を見てた。

 目が合った途端、慌ててまた顔を赤くして、上井くんは目を逸らしたの。


 これってどう思う?


 なんでいつもは早く帰るアタシが残ってるんだろうっていう意味もあると思うし、やっぱりアタシのことを好きでいてくれるから、目が合ったのが恥ずかしいともとれるし。


 きゃっ、アタシも心臓がドキドキしてきたよ神様、上手くいきますように!


 最後に、いつも片付けが遅いクラの後輩女子が帰って、遂にアタシと上井くんの2人切りになったの。


 上井くんったら照れてるのは丸分かりなのに、平静を装って音楽室の鍵を掛けようとするから、アタシから声かけたの。


「上井くん!上井くんの好きな女の子は誰なの?言わないと、帰さないよ~」


 こんな言い方してるけど、心の中は凄いバクバクしてるのよ。


「あ、あのさ、神戸さん、もうここまで追い詰められたら言うしかないとは思うんだけど…」


「うんうん、誰が好きなの?」


「あのね、俺が好きなのは…、好きな女の子は、同じクラスで、同じ部活の…」


「うん…」


 上井くん、アタシ、覚悟は出来てるよ。その先を教えて!

 上井くんがアタシの名前を言ってくれたら、アタシも上井くんが好きっていうから!


「同じクラスのね、あのね、同じ班の出席番号が……3番の女の子!」


 上井くんはそれだけ言うと、逃げるように職員室へ音楽室の鍵を返しに行っちゃった。


 えーっ、上井くん、今のはアタシなの?


 でもアタシの出席番号は33番だけど、女子の3番・・・。


 アタシだよね?上井くんの好きな女の子は、アタシでいいんだよね?


 ワーイ!\(^o^)/


 って言いたいけど、なんか消化不良…。


 そこに、階段の下に隠れてたケイちゃんが来てくれたの。


「チカちゃん、頑張ったね!」


「あれ?ケイちゃん、聞いててくれたの?でも、しっかりアタシの名前を言ってくれた訳じゃないし、アタシは上井くんのことが好きって伝えられてないし…」


「なに言ってんの、まだ上井くんは学校の中にいるんだから、上井くんの帰り道に先回りして、しっかり最後まで告白し合わなきゃダメだよ!ほら、早く行かなきゃ!」


「うん。ケイちゃん、ありがとう!」


 アタシは上井くんがいつも職員室で先生と駄弁ってるのを知ってるから、学校から出てくるのがちょっと遅いのも知ってるの。

 だからケイちゃんに言われた通り、上井くんの帰り道に先回りして、上井くんを待ち続けたの。


 10分くらい待ったかなぁ。

 ガヤガヤと、男子の後輩と一緒に帰り路を歩いてる上井くん発見!

 アタシは男子の後輩くんたちのことは気にせず、上井くんに声を掛けたよ。


「上井くん!」


「え?あっ、神戸さん!あっ、あのさ、さっきは、あの…」


 って、また顔を真っ赤にしてシドロモドロになっちゃってたから、一言だけ上井くんに言ったの。


「アタシは2番だからね!おやすみ!」


 2番は、上井くんの出席番号なの。

 それだけ言ったらアタシも恥ずかしくなっちゃって、上井くんから逃げるようにして、家まで走っちゃった。


 上井くんに、ちゃんと伝わったかなぁ…。


 お家に帰ってからもなんだか心配で、思わず上井くんの家に電話しそうになっちゃったけど、お父さんが電話の近くにいたから、電話も出来ない。


 でも電話までしたら、しつこい女って思われちゃうよね。


 明日の朝の練習で上井くんに会えたらいいな…。

 そしたら、今度こそお互いに気持ちをちゃんと確認し合えると思うんだ!


 だから愛しの上井くん、明日またお話ししようね♪


 お・や・す・み💖


<次回へ続く>

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