第11話 アフター林間学校

 昭和60年7月12日、緒方中学校3年生のイベント行事、林間学校が終わっちゃった。

 この林間学校のために編成された班で、6月の終わり頃から授業も一緒に受けてきたけど、林間学校後もしばらくこの班で活動するんだって。


 ちょっと嬉しいかも。


 実はね、アタシ、やっと林間学校で好き!って言える男の子が出来たの🎵


 その男の子は、同じ吹奏楽部で、同じクラスの、今だと同じ班の、上井純一くん💖


 林間学校で見た上井くんの働きって、格好良くて、優しくて、頼もしくて…。


 前から気になる存在で、友達以上の気持ちは持ってたんだけど、3年生になって同じクラスになってからは、毎日クラスや部活でお話とかしていく内に、少しずつ彼に惹かれていって…

 林間学校に行って、決めた!上井くんが好き!にグレードアップしちゃったの。


 決定打は、登山中に小川に靴が流された松下のユンちゃんに、1日ずっと靴を貸してあげて、上井くんは裸足で過ごしてたこと。


 最後は、ユンちゃんのお母さんが学校に靴を持ってきて、閉会式後にユンちゃんから上井くんに靴を返してオシマイになったんだけど、上井くんは、松下さんが怪我しないで良かったよ!だって。


 カッコいい〜💖


 うーん、ひょっとしたらアタシだけじゃなくて、ユンちゃんまで上井くんを好きになる可能性もあるよね。

 戦略も考えなくちゃいけない…かな?




 さて林間学校の次の日は土曜日。

 この日は3時間目と4時間目をホームルームに変更して、林間学校の反省会をすることになったの。


 竹吉先生からプリントが配られたんだけど、それを見てビックリ!


【異性から見たあなたの頑張り】


 だって!


 この学校主催のお見合い企画みたいなの、一体何?


 で、先生は誰と誰が交換してもええぞ〜って言ってたから、瞬間的にアタシは上井くんを取られちゃいけない!って思って、


「ね、上井くん!アタシと交換しない?」


 って、アタシから誘っちゃった。


「あっ、うん…。俺でいいなら…」


 やった、ラッキー!


 でも上井くんは優しいから、一班で男子3人、女子4人だから、女子が1人余っちゃうって思ってか、アタシとペア組むのが決まっても、最初に割り振り決めてた。


 松田くんは笹木さんと、山本くんは松下のユンちゃんと組むようにして、芝田さんは上井くんが班長として相方になることで、上手くまとめてた。


「じゃ、お互いに話し合いながらでもええし、秘密にしながらでもええし、プリントを交換して3時間目中に書いてくれ。スタート!」


 竹吉先生のゴーサインで、一気に教室の中が賑やかになったよ。


「じゃ、ヤマさんと松下さん、松田くんと笹木さんのペアは、やり方は話し合って決めてね」


「ん?やり方って?」


 山本くんが聞いてた。


「先生がさっき言っとった、話し合いながら書くか、秘密にしとくか、ってこと」


「あー、そのことな。了解。じゃ、松下さん、プリントくれる?…」


 上井くん、まだまだ班長の仕事が残ってるね。


「柴田さん、俺にプリントちょうだい?」


「えっ、アタシの?」


「うん。俺が昨日の芝田さんについて書くけぇ、芝田さんは昨日の俺について書いてよ」


「うっ、うん…」


 芝田さんもおとなしいから、自分からはなかなか積極的にはいかないのよね。それを見越しての、上井くんの采配なのかな?


「くれぐれも帰りのバスで変な替え歌歌ってたことは秘密でね」


 芝田さんが、クスッと笑った。うーん、上井くん流石だわ。

 そして上井くんと芝田さんでプリントを交換したあと、上井くんは竹吉先生にもう1枚プリントをもらって、今度はアタシを見た!


 なんてことない、いつもと同じ行動なのに、なんで今日はこんなにキュンと来るの?


「神戸さん、プリント交換しよう?」


「えっ、う、うん…」


 何故かアタシは照れちゃった。


「どしたん、さっきは元気じゃったんに」


「あ、いや、大丈夫よ。交換しよう!」


「うん。はい、これによろしく」


 上井くんとプリントを交換して…


「上井くん、変なこと書かないでね?」


「真面目に書くってば」


 上井くんは女子2枚分書かなきゃいけないから、早くも書き始めてた。

 先に芝田さんのプリントかな?


 他のペアは、松田くんと笹木さんが黙々と書いてて、山本くんとユンちゃんはワイワイ言いながら書いてた。


 他の班も楽しそうだな。

 アタシも上井くんの良かったところを書かなくちゃ。


(えーっと…。今回は上井くんが班長の班になり、いつも吹奏楽部で部長をしている上井くんとは違った一面を見れました…)


 上井くんをチラッと見てみたら、一生懸命にプリントを書き続けてた。そして、


「はい、芝田さん。書いたよ〜」


「え、ホント?上井くん、早い〜。アタシ、まだだよ」


「ええよ、ゆっくりで。まだ3時間目が終わるまで、30分くらいあるけぇね」


「うん、ありがと、上井くん…」


 芝田さん、少し照れてた。

 なんかアタシの中で、上井くんが同じ班の女の子に話し掛けるだけで、焦る気持ちが生まれるのが分かった。


(えっ…。なんでこんな気持ちになるの?)


 アタシ、芝田さんに嫉妬したの?

 上井くんを取られる、って思ったの?


 こんな気持ちになったのは初めてだわ。心臓がドキドキしてる…。


 上井くんは引き続きプリント書いてるから、今度はアタシのことを書いてくれてるんだよね。どんなこと書いてくれるんだろうな。いつも冗談ばっかり言い合ってるから、ちょっと不安になっちゃう。

 アタシ、書き直して、もっと女の子らしさをアピールしようっと。


「よし、書けた…。神戸さん、書けた?」


「え、ごめーん、まだ終わってない…」


「ええよ、待っとるけぇ」


 上井くん、早すぎるよ〜。でも待ってくれてる。同時に交換しようってことかな?アタシは必死に書き直して、やっと書き終わった。


「ふう、アタシも書いたよ」


「ありがとう。じゃ、交換しようよ」


「うん。笑わないでね」


 アタシは上井くんとプリントを交換した。上井くん、アタシのこと、なんて書いてくれたんだろう?


(神戸さんは女の子を引っ張る存在で、料理とかも的確に指示してくれたり、役割分担も上手くて、お陰で調理実習がスムーズに進みました。それととても細かい所に気が付いてくれて、班のみんなも神戸さんのお陰で楽しく過ごせ、美味しいカレーライスを食べられました。色々ありがとう!)


 わ、わ、照れちゃう…。顔が熱いよぉ。

 でも上井くんに顔を見せたら、どうしたの?って言われるから、下を向いとこう…。


 でも、気になって上井くんをチラッと見たら、アタシが書いた上井くんに関する部分を読んで、俯いて照れてた。


 …ウフッ、やったぁ♬


(上井くんは班長さんとして、アタシ達をまとめて引っ張ってくれました。松下さんの靴が流されたら、靴を1日貸して上げる優しいところや、班のみんなが活躍出来るように積極的に声掛けしたり、昼ご飯の時も面白い話をしてくれて班を盛り上げてくれました。一日頑張ってくれて、お疲れ様でした。ありがとう、上井くん♡)


<次回へ続く>

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