第10話 林間学校本番

 いよいよ今日は7月12日、林間学校当日!


 昨日はみんなで買い出しに行った帰り、ちょっとアタシが調子に乗っちゃって、上井くんに嫌な思いをさせちゃった…。


 なんでアタシは男の子の心理を読めないんだろうな。まだまだ恋愛初心者なのかな。


 でも朝早めにグランドに集合した時、思い切って上井くんにおはよう!って声を掛けたの。それで無視されたらオシマイだけど…


「あ、おはよう、神戸さん。昨日はゴメンね。なんか、女の子に対する態度じゃなかったね、俺。ムキになっちゃって」


 良かった~。上井くん、照れながらだけど、アタシの目を見て、そう言ってくれたの。


「ううん、アタシこそごめんね。なんか上井くんをいじめちゃったみたいで、昨日は嫌われたかなって思って、寝れなかったんだよ」


「ホントに?嫌いになんかならないよ。あんまり寝とらんの?バスに酔ったりしないようにね」


 って、酔い止め薬をくれた。優しいな、上井くん…。上井くんもバスに弱いんだって。また一つ、上井くんのことを知れたよ。 


 でも寝れなかったのは本当で、日付が変わってもまだ目が冴えてたから、好きな曲を入れたカセットテープを聴いてたの。そしたらいつの間にか寝てたけど…。


 最初は全体で集まって、開会式をやるんだ。

 どのクラスのどの班も、これから始まるイベントにワクワクしてる感じが凄いよ!


 アタシは…今日は上井くんのことをもっとよく知って、好きな男の子は上井くんって、誰に聞かれても言えるように、もっと近付きたい。これを目標にしてるんだ。


 あ、校長先生が話してる。校長先生も登山されるのかな?格好が山登りする格好なんだけど…


「とにかく怪我がないように!これを一番守ってほしいと思います」


 校長先生は毛が無いとか、誰かが冗談言ってたけど、竹吉先生に怒られてた。


 そして最初はバスに乗って、山腹まで上がるの。


「笹木さんはバレーで鍛えとるけぇ、登山くらい大丈夫じゃろ?」


 上井くんが声を掛けてる。


「どうじゃろうね?ま、体力はある方じゃけぇ、上井くんがダウンしたらオンブしたげるわ」


 アハハッ!笹木さんも一学期の初めに転校してきたのに、もうずっと前からこの中学校にいるみたいに、みんなと仲良しなの。


 この前、授業の合間に笹木さんと話したら、転校してきて一番最初に声を掛けてくれたのが、上井くんなんだって。

 笹木さんは千葉からの転校だけど、上井くんは横浜からの転校経験があるからって、声を掛けたみたい。

 そのことが嬉しかった、って言ってたよ。


 上井くんはみんなに優しいんだなぁ…。


 まさか上井くん、笹木さんを狙って同じ班にしたとか、ないよね?

 急に不安になっちゃった…。


 開会式も無事に終わって、まずはクラス毎にバスに乗り込むんだ。

 昼食の材料も、各班毎に段ボール箱に分けて、バスの荷物入れに積んで…。

 そしてバスが登れる所まで登って、そこからは歩いて登山するんだよ。

 登山も班単位で動くように言われてたから、上井くんがリーダーシップを取って、アタシ達を引っ張ってくれてる。

 テキパキとしててちょっとカッコいいかな?


 でも登山の途中で、松下のユンちゃんが小石に躓いて、その弾みで靴が脱げちゃったの。場所が悪くて、靴はそのまま脇の小川に流されちゃって、ユンちゃんは裸足で登山しなくちゃならなくなったの。


 ユンちゃんは大丈夫って言ってたけど、女の子に山道を裸足で歩かせる訳にはいかないって言って、なんと上井くんがユンちゃんに靴を貸して上げたんだよ❗


「松下さん、俺の靴、使いなよ!汚いけど」


 ユンちゃんは、そんなの申し訳無さすぎるって断ってたけど、上井くんの、女の子を裸足で歩かすわけにはいかんから、って説得に応じて、靴を借りることにしてた。

 代わりに上井くんが裸足になったんだけど。


 アタシ、なんだかジーンとしちゃった。


 上井くんって、優しくて頼もしくて…やっぱりカッコいい💖


 アタシは遂に上井くんのことを、友達以上恋人未満の存在から、心から好きな男の子って実感して、本当の恋心が芽生えたの。


 その後も登山隊のリーダーとして班のみんなを小ネタで笑わせながら、グイグイと引っ張ってくれて、お陰で楽しく山頂に着いたんだ♫


 上井くん…。好き❤

 もう、ケイちゃんに遠慮しないよ、うん!


 登山も終わって、バスの駐車場へと戻り、材料をバスの荷物入れから取り出して、お昼ご飯の時間。

 アタシ達の腕の見せ所よ。


 男子のみんなは、水を運んでくれたり、火を点けてくれたり、力仕事を頑張ってくれてる。

 女子も美味しいカレーライスを作って、みんなで楽しく美味しく、お昼ご飯を食べたいね🎶


「昔の人って、毎回こんな大変な思いして米を炊いとったんかね?」


 上井くんがそう言ったけど、丁度みんなの持ち仕事が大変なタイミングだったから、誰も返事出来なかった。ゴメンね、上井くん…。


 でもみんなで力を合わせて、カレーライスはやっと完成したよ!


「美味そうじゃね!じゃ、頂きますをして、みんなで食べようや」


 山本くんがみんなのカレーライスを取り分けてくれて、木のテーブルにカレーライスとサラダが並んだ。


「ではせーの、いっただきま~す!」


 アタシ達の作ったカレーライス、大好評であっという間に完売になったの(^o^)

 上井くんは美味しい、美味しいって言ってお代わりしてくれたよ♪

 こんなちょっとしたことが嬉しいな💖


 ちょっと休憩してから、後片付けはみんなでやるんだけど、近くの小川でお皿を洗ってた時に、なんと上井くんとアタシの、二人だけの時間が訪れたの!


 もしかしたら上井くん、アタシに告白したりして?なんて思ったけど、アタシの考えすぎだったみたい…。上井くんがアタシに話し掛ける素振りを見せたから、急に緊張しちゃったんだけど…


「洗ったお皿、持っていってあげる」


 だって。アタシの方が浮ついてたのかも。

 っていうより、アタシから何か話しかければ良かったのかなぁ…。


 各班とも、荷物を出来るだけ1つにまとめて、バスに積み込んで、林間学校は終わっちゃった。


 帰りのバスの車内は、何故かみんなのかくし芸大会になってて、上井くんは水戸黄門の歌のリズムでどんぐりコロコロを歌い、大ウケしてた!

 ホント、みんなを楽しませようとしてネタを仕込んでくる辺りは、流石だわ。


 でもバスで学校まで帰った時に、上井くんは自分の荷物と班の荷物を2つ持つっていう、大変な状態だったから、思わずアタシ、


「上井くんの荷物、貸して。持ってあげる」


 って言っちゃった。


 上井くんはビックリしてたけど、でも嬉しそうにアタシに荷物を預けてくれて、照れながら

「ありがとう」

 って言ってくれたの。


 だって、まだ上井くん、裸足のままだったんだよ❗


 こんなこと出来ないよ、普通…。


 アタシの中で、上井くんの存在がドンドン大きくなっていくのが分かる。


 アタシ、上井くんのことが本当に好き…。

 いつから好きなの?って言われたら、今日からって言えちゃう。


 上井くん、同じ班にしてくれてありがとう。


 今日はとっても楽しかったよ!


 それと普段はクラスでは隠してるリーダーシップや優しさ、いざという時の対応とか、凄く格好良かったよ。


 上井くんはアタシのこと、どう思ってるのかな?


 …両思いになれたらいいな…💖


<次回へ続く>

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