第7話 林間学校の班分け

 1学期の終わりには、3年生にとっては最後の一大行事かもしれない、林間学校があるんだ。

 6月に入って制服も衣替えした頃から、少しずつ概要が発表されて…。


 まず日時は昭和60年7月12日(金)って発表があったの。

 場所は学校からひたすら西側へと登っていくんだけど、三倉岳キャンプ場って所なの。

 途中まではバスで登って、バスが登れなくなる所からは歩いて頂上を目指すんだって。


 その次に発表されたのが、当日の日程と、班編成を行うってこと。

 今もくじ引きで決まった班にいるんだけど、林間学校では班長を立候補で募って、班長会議を開いて、各班平等になるようにするとか。

 それって多分、男の子の力仕事とか、女の子の料理の腕前ってことよね?


 そして6月下旬、林間学校用の班換えを明日実施するんじゃが、班長立候補者はいるか?って、帰りのホームルームで竹吉先生がみんなに聞いたの。


 上井くんはどうなんだろうって様子を見てたら、一番に手を挙げてたよ!班長になって、誰か取りたいクラスメイトがいるのかな?それがアタシなら嬉しいな〜♪


 先生も勢いに押されたのか、黒板に、❴決定した班長❵と書いて、その下に「上井」って書き込んでた。

 その後も次々立候補が出て、6班作る必要があったんだけど、すぐに6人の班長が決まっちゃった。


「じゃあこの6人の班長に、この後、班編成の会議をしてもらうけど、結果は明日の朝に発表するからな。あの班長の班に入りたいわって気持ちがあったら、その班に入れるように、七夕に短冊でも飾っておけよ〜。賄賂はダメだぞ」


 先生らしい一言で締めたけど、なんかクラス中がザワザワしてるよ。

 アタシはもちろん、上井くんの班に入りたい…。

 上井くんに料理の腕を見せて、胃袋掴まなくちゃ。


 とりあえず班長会議の行方も気になるけど、アタシは部活に行かなくちゃ。夏のコンクールで演奏する曲も決まったし。


 音楽室に入ったら、早速先に来ていたケイちゃんが話し掛けてきた。


「今日って、どのクラスも一斉に林間学校の班決めやるんだってね」


「えっ、そうなんだ?」


 アタシはそこまでは知らなかった。各クラスが独自に動くのかな?と思ってたから。


「上井くんがまだ来てないってことは、班長に立候補したんだね?」


「うん、一番に立候補してたよ」


「一番に?凄ーい!それはやっぱり、神戸千賀子を逃がさないよ作戦なの?ねぇねぇ、チカちゃん、ねぇってば」


「そっ、そんなの、アタシには分かんないよぉ」


 ケイちゃんってば、上井くんと仲直りしてから、アタシへの攻撃が凄いんだけど。


「そういうケイちゃんは、誰か気になる男の子はいるの?」


 アタシはつい逆襲しちゃった。


「アタシ?アタシは全然…。今のクラスの男子には幻滅しとるもん」


「幻滅って、そんなに魅力ある男の子って、いないの?」


「うん…。去年のクラスに戻りたいなぁ…」


 去年って、2年4組のこと?暗に、上井くんみたいな男の子を求めてるってこと?


「だからアタシは、チカちゃんが上井くんと一緒の班になって、いっそのこと付き合っちゃえ!って応援するのが、林間学校の楽しみかな。神戸千賀子の本音はどうなの?真面目に聞くけど…」


「う、うん…。あのね、内緒の話だけど、本音は、まずは上井くんがアタシを同じ班にしてくれないかなって思ってるの」


「うん、やっと本音を教えてくれたね。チカちゃんも結構隠すタイプ?照れ屋さん?アタシには隠さないでもいいじゃん」


「だ、だって…。恥ずかしいもん…」


「そうか、そうだよね。事実上、チカちゃんにとっては初恋になるのかな?ほら、6年生の時に一応付き合った男の子がいたじゃん」


「ああ、あの男の子は…。彼氏なんて言えるようなレベルのお付き合いなんて何もしてないもん。小学生だよ?どこにも遊びにも行ってないし。一応6年のバレンタインにはチョコ上げたけど、お返しは返ってこなかったし」


「じゃあ上井くんが事実上の初恋相手みたいなもんじゃん」


「そうなるのかな…」


 アタシは顔が火照るのが分かった。もう、ケイちゃんってばアタシをこれ以上照れさせないで!


 さて吹奏楽部の部長、上井くんは、班長会議が長引いたみたいで、今日の部活に来たのはもう終わりそうな頃だったよ。


「部長、遅刻~」


 って、後輩にからかわれてたけど、ちょっと放課後に昼寝しちゃって寝坊したんよね~とか、わざと的外れな答えを返して、笑わせてた。

 真正面から班長会議があったから仕方ないだろ!とか怒ったりせず、その場の雰囲気を楽しくするところが、上井くんの良い所なんだよね。これが前の北村先輩なら、班長会議やっとったんじゃけぇ、仕方なかろうが!って怒鳴るだろうな…


 って、やっぱりアタシは上井くんのことばかり気にしてる。これが恋っていうものなんだろうね、きっと。




 そして次の日の朝。


 班長会議で決まった、班編成の発表が朝のホームルームで行われるの。


 竹吉先生が入ってきて、朝のホームルームが始まったわ。


「えー、みんなおはよう!多分俺の余計な喋りより、早く昨日の班長会議の結果を知りたいじゃろ、みんなは」


 もちろん!どんな班になるのかな…上井くんと同じ班になりますように…。


「じゃ、どういう方法で発表しようか。各班長、前に出てきて、自分の班に選抜した班員を発表するようにしようか。じゃ、上井、谷村、東城、長岡、橋本、真崎、前へ出てくれ」


 わー、何だかドキドキするよ…。呼ばれた班長さん6人は、何か鞘当てしながら少しずつ前へ出てきてた。上井くんも谷村くんに何か言われてた。何を言われてるのかなぁ。


「じゃ、班長の名前のアイウエオ順に、発表していってもらおうかな。最初は、上井班長からだな」


「え、俺からですか?」


 上井くんは明らかに動揺してた。


「何や、最初は嫌か?何か隠したいことでも…」


「なーんにもありません!じゃ、俺の班になった皆さんに、お願いがあります。嫌じゃって言わないでね!お願い!」


 もう上井くんってば…。やっぱり喋りで上井くんの世界を作っちゃってるし、みんなは笑ってるし。

 早く発表して…。


「えーっと、最初に発表させて頂くので、一応昨日の班長会議の概要をお話しますね。揉めました!みんなほしいってクラスメイトがようけ重なるもんじゃけぇ、長引きました!でも何とか調整して、6班各7名の班を決めたので、どの班も、みんなは選ばれた班員なんだ、と思ってくれたら、って思います」


 上井くん、まるで吹奏楽部の話し合いの時みたいに話してる。ホント、将来はアナウンサーとか目指したらどうかしら?

 谷村くんは上手いこと言うのぉって、横から言ってたけど。


「ではまず、俺の班ですが…。一気に言うので聞き逃さないで下さいね。せーのっ、松田くん、山本くん、神戸さん、松下さん、笹木さん、芝田さん、以上です!じゃ、次の谷村班長、よろしく!」


 アタシ、上井くんと同じ班になってた!


 やったー‼️


 男子3名、女子4名の、合計7名の班になったんだけどね、これって上井くんがアタシを同じ班にって指名してくれたからなのかな?それとも調整の結果なのかな?


 うーん、聞きたいけど聞けないよ〜。


 でも…どうあれアタシの夢は…叶ったわ♬


 その後も、各班長さんがメンバーを発表して、終わった頃にはかなりクラス中が賑やかになってた。

 他のクラスからも歓声が聞こえてきたから、どのクラスも今朝のホームルームで班分け発表してるんだね。


「おーい、そろそろ落ち着いてくれや。まあ上井が最初に、頼んでもいないのに喋ってくれたが、みんなは各班長に選ばれたメンバーじゃ。これから林間学校までに結束を高めてもらうために、今から早速席替えするぞ。班長の名前のアイウエオ順に発表した通り、黒板に向かって前側の左側に上井の班、真ん中は谷村の班、廊下側は東城の班、後ろ側は廊下側から長岡の班、真ん中は橋本の班、窓側が真崎の班になるように、席替えしてくれ。じゃあ今から1分以内で!」


 えーっ!と、悲鳴が沸き起こってた。1分で席替えなんて、無理よ先生ってば。


 …なんとか2分くらいで席替えは終わったけど、みんな疲れた顔してる。今日は体育がある日なのに、今疲れちゃったら、体育の時、体力無くなっちゃうよぉ。 


 そしてアタシは、3年になって同じクラスになってから、初めて上井くんと同じ班になったんだよ。

 上井くんは最初に


「えっと、皆さんよろしくね。林間学校、頑張ろう!」


 って一言だけ言ってくれた。初めて同じ班になったから、アタシは上井くんをジーッと見つめてみたけど、そんなアタシの視線を感じたのか、恥ずかしがり屋さんの上井くんに戻っちゃって、みんなの顔を見たりすることはなかった。


 そんな上井くんの様子を見ても、アタシと同じ班になったのは上井くんの考えでなのか、偶々なのか、読めない…。


 でも前向きに考えなくちゃ。上井くんはアタシを、選んでくれた!


 アタシ、頑張るからね。


<次回へ続く>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る