第2章 中3の1学期

第5話 Romanticが止まらない

 今日は3年生に進級して、一学期始業式の日!


 アタシはどんなクラスになったんだろう。

 気になる上井くんは何組かな?

 親友のケイちゃんは何組かな?

 担任の先生は誰かな?


 登校して、新2年生と新3年生のクラス分け表が貼り出されてるボードにすぐに向かったよ。


 先に来てた子達は、一緒のクラスになれて良かったねーって喜んでたり、別々のクラスになっちゃった、って悲しんでたり。


 アタシは…


(あっ、3年1組だ。担任は竹吉先生!?やったぁ♪それと、クラスメイトは…えっ、上井くんと同じクラスになってる!わわわ、ど、どうしよう…)


 アタシ、上井くんと同じクラスになってた!

 勿論、嬉しかったんだけど、心のどこかで山神のケイちゃんに申し訳ないな、って思いがあった。


 結局ケイちゃんと上井くんを、なんとか仲直りさせたいなんてアタシが願っても、なかなかそんなの上手くいかなくて、2人は喋れない関係のまま3年生に上がり、クラスもケイちゃんは3年3組になってたから、ますます喋れなくなっちゃった…はず。


 そんなことを思ってクラス分け表を見てたら、後ろからおはよう!って声を掛けられた。


「あ、ケイちゃん。おはよう」


「おはよう、チカちゃん。アタシ、何組になってた?」


「えっ、えーっとね、3組…」


「3組かぁ…。誰か話せる人がおるかなぁ。あの…上井くんは?」


「上井くんは1組。ケイちゃんとは離れちゃったね」


「そうかぁ…。上井くんとはクラスも離れちゃったんだ…。1年間しか同じクラスじゃなかったんだ。これからは部活でしか会えないんだね」


 ケイちゃんは少し寂しげだった。


「あ、肝心のチカちゃんは何組なの?」


「あの、アタシはね、1組…」


「えっ?上井くんと同じクラスってこと?」


「う、うん…」


「良かったね、チカちゃん!」


 ケイちゃんは笑顔を作って、そう言ってくれた。


「え?なんで?」


「またぁ。隠さないでもいいじゃん、アタシの前で。上井くんのこと、好きなんでしょ?」


「いやっ、あの…。好きか嫌いかでいうと、好きに入るけど、まだそんな、熱烈に好きってわけじゃなくて、友達という関係よりはちょっと上っていうか…」


「んもうチカちゃんは相変わらずストレートじゃないなぁ。同じクラスになって、嬉しいの?嬉しくないの?」


「…嬉しい…」


「よろしい!これからはアタシに代わって、上井くん…上井部長と、クラスでも仲良くするんだよ!」


 ケイちゃんはそう言って、先に校舎の中に入っていった。何かを吹っ切るかのように。

 アタシもいつまでもクラス分け表の前にいても意味がないし、教室へと向かった。


 そしたらもう結構なクラスメイトが集まってて、上井くんももう来てた。一応部長さんに挨拶しなくちゃね…。


「上井くん!これからは部活だけじゃなく、クラスメイトとしてもよろしくね!」


「おぉっ?あ、神戸さん。こちらこそよろしくね」


 今まで上井くんのことは、部活中にしか見たことがなかったけど、教室にいる時は男子の友達と結構喋ってるんだね。


 あ、当たり前か。


 吹奏楽部では同期の男子がいないから、そんなに喋ってる姿を見ないだけかぁ…。


 あと部活中は部長モードになってるしね。


 後輩と接してる時は優しい口調で話してるけど、そうじゃない練習時は納得いくまで練習をやめないし、部内が弛んでたり理不尽な事が起きたら、少し怒り気味の口調で練習前に部員に話をするし。


 そんな騒然としてる新しい3年1組に、竹吉先生が入ってきた。


「みんな、おはよう!そして進級おめでとう!」


 そしてグルッと教室内を見回すと、


「えーっと俺もみんなが入学してきた時に1年生の担任を持たせてもらって、去年は2年生、今年は3年生と、みんなと一緒に進級してきたつもりじゃ。じゃが、これまでの2年で、俺のクラスになったことがないってヤツ、おるか?」


 何人か手を挙げていたけど、アタシもそうだったから、同じく手を挙げた。


「わー、結構おるなぁ、分かったよ。ということは、省略しようかな?と思っとったんじゃが、やっぱり自己紹介から始めんにゃあいかんのぉ」


 えーっ、という明らかにみんなの嫌そうな声が響いた。


「まあまあ、みんなも嫌かもしれんけど、逆に今日初めて顔を見たっていうクラスメイトもおるはずじゃ。じゃけぇ、自己紹介して、存在をアピールしてみな?そこから恋が生まれるかもしれんしのぉ」


 何言いよるんね先生は!と、生徒会長で野球部エースの谷村くんが言っては、クラスのみんながウケていた。確か谷村くんは、ずっと竹吉先生のクラスだから、そんな軽口も許されるんだろうね。


「まあまあ谷村、とにかくやってみようや。体育館での始業式は9時半からじゃけぇ、それまではホームルームなんよ。9時…そうじゃな、25分くらいまでに終わるように、自己紹介してみようや。順番は廊下側から男女男女の列になっとるじゃろ?とりあえず出席番号順なんよ。そのまま、まず男子の列、次は女子の列…と進んでいこう。じゃ1番目は出席番号1番の味村から…よろしくな。あ、前まで出てこんでもええからな。自分の席で起立して、一言喋ってくれ」


 1番が味村くん…上井くんは…2人目に座ってる。アタシの右斜め前だわ。出席番号2番だもんね。


 味村くんの自己紹介は、名前と部活と2年何組だったか、だけで終わって、すぐ上井くんの番が来た。どんな風に喋るんだろう?


「えーっと、出席番号2番の上井純一です。1年間よろしくお願いします。俺は部活は吹奏楽部なんですが、担任の先生と部活の顧問の先生が同じということで、学校にいる間はずーっと竹吉先生に監視されているような気がしています」


 みんなが笑った。さすが、お喋りが上手いなぁ。


「他に女子の皆さんも半分…は大袈裟ですが、吹奏楽部の方が結構多いので、このクラスでは悪いことは出来ないなと自覚しています」


 また笑いが起きた。上井くんの後に喋る男の子は、大変だよ…。


「ということで、文化祭では吹奏楽部の演奏を是非聞いて下さい。以上です」


 今度は笑いながら拍手が起きた。上井くんと初めて同じクラスになった女の子は、上井くんってあんな楽しいお喋り出来るんだね~とか言ってたけど、アタシは去年から知ってるんだ、上井くんのお喋りの才能。ちょっと自慢したくなっちゃった。


 自己紹介は、上井くんがユーモアを交えて喋ったのが影響してか、続く男子も何か一言付け加えて話そうとして、一転して楽しい雰囲気の時間になったよ。上井くんはそう導いてしまったのを自覚してるのかどうなのか分んないけど。


 男子の1列目が終わって、女子の列に回ってきたわ。アタシは出席番号33番なの。だから右斜め前に上井くんがいるんだけど、アタシからは上井くんはよく見えるのよね。だけど、上井くんからアタシのことは、見難いだろうな…。


 さ、アタシの番だわ。


「はい、出席番号33番の神戸千賀子と言います。1年間、よろしくお願いします。部活は上井くんと同じ吹奏楽部です。上井くんは部長さんなので、クラスで悪いことしないか、アタシがちゃんと監視したいと思います。以上です」


 男子が笑ってくれた!嬉しい~。

 そして上井くんも、突然名前を出されたからか、アタシの方を見て、何とも言えない顔をしていた。


 その後の女子も、吹奏楽部の女子は、みんな上井くんの名前を出して、面白おかしく自己紹介してた。

 一通り全員の自己紹介が終わった後、竹吉先生が、


「上井、このクラスにはお前の監視員が沢山おるけぇ、可哀想じゃのぉ」


 と言ったほど…。みんなは大笑いしてたけど。



 その日は体育館での始業式の後、一度教室に戻ってホームルームをして、明日以降の予定を確認してオシマイになった。

 明日が入学式だから、もちろん吹奏楽部は部活があるよ。


 ホームルームのあと、何となく足取り重く音楽室に向かう上井くんを見付けたから、後ろから声を掛けてみたんだ。


「ウ・ワ・イ・クン!」


「わっ!驚いたぁ。神戸さんか…」


「どしたん?いつもみたいに軽やかな足取りじゃないよ?」


「いやぁ、明日は入学式じゃん。また卒業式の時みたいな緊張に襲われながら、みんなに指示出さなきゃいけないのかなって思うと…」


「うんうん、緊張するよね。でも大丈夫よ。さっきクラスで自己紹介した時、上井くんのお陰で自己紹介が、みんなの自己アピールの場みたいになって、楽しくなったじゃない?」


「え?俺のせいなの?」


「当たり前じゃん!上井くんの前の味村くんは、型通りの自己紹介じゃったけど、上井くんが竹吉先生に見張られとるとか、クラスの女子にも見張られとるから悪いことが出来んとか、突然まだ春なのに文化祭のPRするし、破天荒な自己紹介するけぇ、みんな真似しだしたんよ」


「俺、自己紹介でそんなに秩序を乱したんかな?」


「ううん、楽しかったからいいの。アタシも上井くんの名前、使わせてもらったし、他の吹奏楽部の女子も、遠慮なく上井くんの名前を出してたじゃん」


「確かに。誰かは忘れたけど、変なことしたらプロレスの技を掛けるとか言ってたよねぇ…」


「だから、明日の入学式もみんなを、特に新一年生を楽しませようって感じでいけばいいんじゃない?あまり重たく考えちゃ、ダメよ」


「そうかな?うん、プラスに考えるようにするよ。ありがとう、神戸さん」


「ううん。これからは同じクラスなんじゃけぇ、なんでも言ってね。アタシもなんでも言うかもしれんけど」


「わっ、俺、攻撃されるのは弱いんよ~。なんでも、じゃなくて、たまーに何か言うかも…程度にしてほしいな」


「アハハッ、分かったよ。とにかく明日を乗り切ろうね!」


 そんな会話をしながら音楽室に入ったけど、アタシ、上井くんとこんなに楽しく会話したのは、初めてな気がする。

 卒業式の後もお話ししたけど、あの頃はまだこんなに何でも言えるような感じじゃなかったから。

 上井くんとお話しすると、会話のテンポもいいし、何より楽しいの。

 照れ屋さんだから、時々アタシの顔を見れなくなったりするけど。やっぱり同じクラスになることって、凄い効き目があるんだね♫


 …昭和60年の始業式の日、アタシの中で上井くんの位置付けは、更に変わったよ。もちろんその位置は…


<次回へ続く>

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