第2話 ちょっとイメージと違わない?
「ゆ、雪男だと!?」
「雪男ったらお前、あれだろ、ヒマラヤにいる毛むくじゃらの……」
「何つったっけ。……ええと、そうだ、そうイエティ!」
説明しそびれたが、この話、全然現代の話である。何なら令和の話である。令和の時代に『
茂作と美濃吉は自ら切り出した材木で家具を作る職人の
「そうです、皆さんそれを言うんです」
二人の反応に、雪男はがくりと項垂れた。
「雪山にいるのは、美しくも恐ろしい雪女であるべきだ、って」
「まぁ……。なんていうか、俺らとしても、その、何だ。イメージっていうかな?」
「だなぁ。だって昔読み聞かされた絵本では、なぁ?」
少々気まずい空気の中、顔を突き合わせて言い訳を並べる。
「いやいや、おかしいでしょ。何で女だけなんですか。いますよ、男だって! いても良いでしょう!? いくら妖怪でも、女しかいなかったら繫殖出来ませんからね?!」
「お前、そんな綺麗な顔で繁殖とか言うのやめろよ」
「どんな顔で言ったって良いでしょう! それに、『雪男』と名乗ったら名乗ったで、『何で雪男なのに毛深くないんだ』だの『何か思ってたのと違うんだけど』って言われるんですよ!?」
「そう言われても……。雪男って言ったら、何かこう、猿人みたいな感じっていうか、そういうイメージが」
「ハイ出た! まーた出た! イメージ! もうね、イメージばっかりですよ! いや、よく考えてみてくださいって。雪山ですよ? 寒冷地対応ってことで男の方が毛むくじゃらになるんだったら、女だってそうならないとおかしいでしょ? 女性は皮下脂肪が多いから? だとしたら細身の雪女だっておかしいでしょうよ!」
「ま、まぁ確かに……」
「一理、あるな」
小綺麗な顔をした雪男は、口角泡を飛ばしつつ力説した。茂作も美濃吉もはっきり言ってドン引きである。えっと、吹雪が収まったんなら、そろそろお暇しようかな? などと考えた。現在、夜中の三時である。
「それでもね、まだ昔は良かったんですよ」
さっきまでの勢いを萎ませて、雪男はぽつりと語り出した。
***
僕の名前は、
雪男の雪雄なんて、まぁ捻りも何もない名前ですけど、それを言うなら雪女だって『お雪』だの『雪子』辺りですからね。妥当ですよ。
それでですね、まぁさっきも言った通りで、僕は冬になると、こうしてこの山小屋に避難してきた方を襲って精気を吸ったりして暮らしてるんですけど――、あっ、大丈夫、死んだりはしません。ちょっともらうだけですから。ていうか、人間の精気はですね、完全に嗜好品なんですよ。なんていうんだろ、冬にだけ食べられる……冬季限定のお菓子みたいな。それしか食べられないとかだったら普通に夏になったら餓死しますって。そうでしょう? 普段は普通に木の実とかそういうのを食べてますし、里に下りてお買い物したりもしますよ。コンビニのパンとか大好きです。
――収入? あぁ僕、パソコンを使って、デザインとか、校閲の仕事してるんです。これなら在宅で出来ますから。
――電気? やだなぁ通ってますって。失礼ですねぇ。ちゃんと電気料金だって口座引き落としで払ってますからね?
あぁ話が逸れちゃいましたね。
昔はですね、まぁさっきのあなた方と同じで、雪男と名乗るや、「雪女じゃないのか! 雪女を出せ!」ですとか、「違う! 雪男っていうのはもっと毛むくじゃらのやつなんだ!」って憤慨されるパターンが多かったんですよ。なのでこっちももう正直面倒ですから、本来はもっとこう、吹雪を操って派手に登場し、人間が恐怖で腰を抜かしている隙に精気をいただく、というのが正しいスタイルなんですけども、こっそり忍び込んで、寝てる間にこっそり吸ったりして。もう、蚊とかコソ泥ですよ、気分は。
ところがですよ。
どこかから噂が流れたんでしょうね。
この山には雪女じゃなくて、『雪男(※ただし毛むくじゃらではない)』が出るらしい、って。
その結果、どうなったと思います?
そう言って、雪男の雪雄は、クソデカいため息をついた。
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