第9話 桃栗三年
グリフォンの提案があったその日の夜、悠真とデュラハンはグリフォンの背に乗り人間のコロニーを目指す。遠目に見えた人間のコロニーに明かりはなく、とても静かだった。それもそのはず明かりをつけるには燃やすものが必要だ。資源が枯渇している現状、無駄な資源の浪費は死を意味する。それが分かっての行動だろう。
それは悠真達には好都合だった。コロニー近くの湖のほとりにグリフォンは降り立つ。デュラハンに抱えられながら悠真は地面に降り立った。
「この辺りも荒廃しているけれど湖がある分、僕が来た時よりもずいぶん良いね」
悠真は率直な感想を述べた。それにグリフォンが言葉を返す。
「今はどの地も大雨が降ったおかげで地面に潤いが与えられている。湖や海の中では既に生物が誕生しているかもしれないぞ」
その言葉にドキドキを隠せない悠真だったが、グリフォンから催促され、仕方なく草木を芽吹かせることとした。選んだ樹木は桃と栗だ。ことわざにもある通り桃と栗は三年で実をつける樹木だ。時々は悠真が足を運び、成長を促進させる気ではあるがそれでも長い年月が必要となるだろう。それまで人間が生きながらえる根拠はないがどうしても必要な時間だ。それまでは頑張ってもらおうという結論に至った。
というわけで夜もふけ悠真は眠さを我慢できず草木を芽吹かせたところで眠ってしまった。デュラハンは悠真を回収してグリフォンとともに世界樹の下へ帰る。そしていつも通りにみんなで眠った。
五日後、グリフォンの報告によると人間が桃と栗の苗を発見したそうだ。人間たちは歓喜していたが草木には手を出さずにそのままコロニーに引き返していったそうだ。
それから三年、時折、悠真が樹木を成長させに向かった以外は自然のままに草木は成長していった。世界樹の周りの果樹も実をつけるまで成長したことでカーバンクルの数が12匹まで増えている。そして念願であった木材を思い通りに変形させる魔法技術を悠真は会得した。最初に作ったものはもちろん櫛である。毎日水浴びの後にグリフォンに乾燥させてもらい、カーバンクルたちのブラッシングをしている。そのため、三年前は所々毛が固まっており、不満を持っていたカーバンクルたちの毛が今では、モッフモフなのだ。大切なことなので二度いうがモッフモフなのだ。悠真は毎日その毛に包まれて眠りに落ちる。
そんな時にグリフォンから報告が入る。
「人間たちの住むコロニーの樹木が実をつけるようになった。その実を人間は涙を流しながら食べていたぞ」
その報告を悠真はモッフモフのカーバンクルの毛に夢中で聞き逃していたそうな。
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