第7話 カーバンクル

グリフォンとデュラハンが来た次の日から10日間、大雨が降り続いた。グリフォン曰くそれはこの世界中で降り注いだらしく、枯れた海や湖を再生させるほどだったという。それほどの雨であればなにか植物たちにも影響がありそうではあるが、世界樹が水をコントロールしてくれたため悠真達には何の影響もなかった。影響と言えば日がささなかったために、悠真や植物たちが光合成をすることができずこの間に新たに植物を芽吹かせることができなかった程度だ。


「この大雨は世界が作られた時に降ったという大雨と似ている。また、新たな生物が誕生するかもしれぬな」

とグリフォンが言う。悠真も前世で海から新たな生命が誕生したという話を聞いたことがある。それでこの世界の再生が少しでも進めばいいと考える悠真であった。


すると、目の前の草が揺れ、どんぐりの木の上に何か小さな生き物が昇っていくのが見えた。悠真はそれを目で追いながら疑問を抱く。


「今、あのどんぐりの木に何か登っていったけれど生物が誕生するには早すぎるよね?」


そう言うと、周りのみんなもどんぐりの木を凝視し始めた。


「あれは、カーバンクルだな。額に赤い宝石のような鉱物が付いているだろう。あれが目印だ。あやつは自然が破壊しつくされた時に餌を失い、仮死状態となって眠りについていたが昨日までの大雨で目が覚めたのであろう」


とグリフォンの話だ。カーバンクルはお腹が空いているのか、まだ熟していないどんぐりの実を木の上で齧っていた。その様子を悠真達はじっと見つめていると、不意にカーバンクルと目が合った。するとカーバンクルが話し出す。


「ドライアドの子よ。この度は貴重な餌を育ててくれて助かった。だがこの木の実は味があまりよくないのぅ。次は食べるのに適した樹木を育ててくれ」


その言葉に悠真は固まっていたが、ピクシー三人娘がカーバンクルに突撃し、それぞれ文句を言う。


「何偉そうに注文を付けているのよ」


「せっかく目覚めて、食べ物があるだけましだと思いなさい」


「・・・図々しい」


ピクシー三人娘の言葉はきつかったが、泣きながらカーバンクルへ抱き着いていた。一方、カーバンクルは笑っている。悠真は今まで妖精をピクシー三人娘しか見たことがなかったため他の妖精と再会できたことを喜んでいるのだろうと大人の表情で見守っていた。すると草むらから数匹のカーバンクルがどんぐりの木に登って行ってはどんぐりの実を齧り始める。そこへグリフォンから話しが入る。


「昔は精霊樹の周りには大量のカーバンクルがおった。それは人間から見るとカーバンクルの額の宝石は貴重な品らしくてな。人間にはたどり着くことの難しいここに避難してきたのだ。今話をしたのはおそらくカーバンクルの長で、一族を代表して毒見役をしていたのだろう。これからどんどんカーバンクルが寄ってくると思うぞ」


グリフォンの話が終わる頃にはカーバンクルたちは食事を終え、悠真に飛びついていた。カーバンクルの毛は少し硬くなっていたが小動物に群がられ嬉しい思いをした悠真であった。

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