第2話 世界樹

蔓で作られたゆりかごの中で重い瞼を何とか開けると目の前に羽の生えた小人が三人、悠真のことをのぞき込んでいた。三人は悠真が目を開けたことに驚き、悠真から距離をとったが話し声が聞こえてくる。


「あの赤ん坊どこから来たのかな?」


「きっと世界樹の子供さ。あの緑色の髪、ドリアードじゃないのかな」


「・・・なら世界樹がきっと育ててくれる」


三人は話し終わると、そっと物陰から悠真のことを覗き見ては話すことを繰り返す。そのうちにゆりかごの上から木の実が落ちてきた。


「やっぱり世界樹の子なのかな。今までそんなことなかったけど」


「木の実が落ちてきたのは偶然かもしれない」


「・・・世界樹が実をつけたのは何十年も前」


落ちてきた木の実は金色に輝いており、甘い匂いが周りに漂っていた。そのため、悠真はお腹が空いてしまった。しかし、まだ赤ん坊の悠真には木の実を口に運ぶことも、ましてや動くこともできない。何度も口をパクパクさせているとまたもや三人の声が聞こえてきた。


「あの子、お腹が空いているみたいだよ」


「でも、体を動かせなくて世界樹の実を食べられないみたいだね」


「・・・食べさせてあげる?」


三人目の言葉に残りの二人は顔を見合わせる。一時の間、どうするか悩んでいたが食べさせてくれることに決めたようで三人で顔を見合わせて頷きあった。三人は物陰から出てきて木の実を持ち上げ悠真の口へと運んだ。


悠真も大人しく口を開けたままにして置き、木の実が口に入ると、その実は自然に口の中ではじけた。

「見てみて。世界樹の実を食べたよ」


「食べたね。これから異常がなければ世界樹の子という証明になるね」


「・・・何かあの子の魔力が膨れ上がってない?」


世界樹の実は伝説の木の実であり、普段は実をつけることはない。その実をつける時には世界に何かが起こる前触れとされており、その実を食べたものには力を与えるとされている。三人は世界樹の妖精、所謂ピクシーであり普段世界樹が実をつけることがないことは知っていた。しかし、おっちょこちょいであるため後半の力を与えるという部分は忘れてしまっていた。


悠真は世界樹の実を食べた瞬間から前世の死ぬ間際の感覚を思い出していた。悠真の体内の魔力が高まり、魔力の放出方法を知らない悠真の小さな体は魔力に侵されて行っているのだ。その時、ゆりかごが動き出し悠真は地面へと降ろされた。そして目の前には前世で見たどんぐりがポツンとおかれていた。


悠真は途端に懐かしくなり、どんぐりの木が成長した姿を思い浮かべた。するとどんぐりは急に芽を出しはじめ、荒野とかしていたどんぐりの周りには雑草が生え始めた。そして、悠真の身体を侵していた魔力は地面へ吸い込まれるように消えていった。


悠真の魔力が枯渇した後、世界樹はゆりかごに悠真を戻して持ち上げた。残された地面には、小さなどんぐりの芽と背の低い雑草の絨毯ができていた。

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