第59話


「――ふあ……」


 自分の口から欠伸が飛び出したこともあり、スマホで時刻を確認すると11時ジャストだった。


 どうせなら零時過ぎまで粘って、時空の番人の声が聞こえてくるかどうか少し待ってから寝ようと思ってたが、どうしようか。レインも眠いはずだしな。


「なあ、レイン」


「…………」


「レイン……?」


「……はっ……。も、申し訳ありません。余所見をしておりまして……」


 さっきレインが眠そうに目を擦ってるのを見てるし、若干寝てたっぽい。


「そんなに眠いなら、もう寝るか――」


「――浦間先輩っ」


「……え?」


 すぐ近くから声がしたので振り返ると、いかにも不良といった感じの生徒がいつの間にか俺の後ろに立っていて、ニヤニヤと薄気味の悪い笑みを浮かべていた。


「へへっ……こんなところにいたんすねえ。元気だったっすか?」


 こいつ、いつの間に俺の背後を取ったんだ。イニシャルの一人か? それとも、気配を消せる感じだし、まさか黒田龍一……? 俺は得体の知れないこの相手に対し、警戒しつつ後退りする。


「大丈夫大丈夫。いきなりなんもしないっすから。相変わらず先輩って超ビビリっすねえ。そんなんでよく今まで生きてこられたなあって思うっす」


「…………」


 どうやら、警戒するがゆえの行動が怯えていると都合良く解釈されたらしいが、それはこちらとしても大歓迎だってことでとりあえず【魔眼】でステータスチェックだ。


___________________________


 名前 的場まとば 育郎いくろう

 性別 男

 年齢 16

 レベル 6


 生命 1

 身体 1

 精神 1

 技能 1


 所持装備

 茨の鞭

 レザージャケット


 所持スキル

【壁抜け】【不眠】


 所持従魔

『オーク』


 所持マップ

《呪われた湿原》


___________________________



 まず、俺はやつのスキルを見て、何故今まで気付けなかったのか納得した。少し眠かったのもあるが、【壁抜け】を使ったからか。


 もう一つの【不眠】っていうのは一切眠らなくていいスキルらしい。道理でこの時間なのにギラギラしてると思った。あれば便利だとは思うが、元々眠りが浅いタイプの俺にはあまり必要性が感じられないものだ。


 折角マップを持ってるのにサボっていたのかレベルもあまり上げてないし、警戒する必要が一切ない相手だとわかる。イニシャル連中の一人なのかどうか調べてみたら、的場育郎=I・Mってことでしっかり一致していた。さあ、どんな陰湿ないじめを見せてくれるのやら。


「さー、まずは先輩の持ち物検査から始めるっすよ」


「えっ……」


「ん? 何か文句あるっすかね?」


「い、いえっ……」


 的場とかいう後輩の男がギロリと睨みつけてきて、俺はたじろぐ振りをしつつ内心ではほくそ笑んでいた。元殺し屋としては、夜という時間帯なだけに妙にワクワクするんだ。殺したあとはあんまり楽しくないのに。


「――お、スマホみっけ♪」


「あ、それだけはやめてくれ、見ないでくれ……」


「これだけは見ないでくれって? 仕方ないなあ、先輩の頼みってことで、もちろん見てあげるっすよお。どれどれ……」


 鬼畜な後輩に俺のスマホ画面をばっちり覗かれる羽目になってしまった。さあ、一体どうなることやら……。


「ぶっ……! 先輩さぁ、これは一体なんなんっすかぁ……?」


 的場が噴き出したかと思うと、いかにも小ばかにした様子で俺のスマホ画面を見せつけてくる。そこには、レベル1でスキルも所持装備も所持従魔も全てにおいてナッシングという、なんとも惨めなステータスが表示されていた。


 こんなこともあろうかと、あらかじめ【改竄】スキルを使っておいたんだ。


「さすが弱虫先輩。ここまで雑魚なステータス、今まで見たことねえっすよ。ブフフッ……」


 段々と遠慮がなくなってきているのがわかる。それまでは、俺が強スキルを取得している可能性も頭に入れていたのか、若干警戒心を抱いていた面もあったんだろうが、全然大したことがないと判断した今、イニシャル連中らしい暴力性がその全貌を表してきそうだ。


 ちなみに、今は俺の髪の中に隠れているレインも【改竄】スキルを反映したのか鮮やかな色が落ちてただのネズミと化している。こうして偽の情報をきっちり本当のこととして見せてくれるから、余程のことがない限りバレることはないはずだ。


 さあ、見せてもらおうか。生意気すぎる後輩――的場育郎――の醜い本性を……。

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