第55話


  ホームである3-Aの教室の雰囲気や、意地悪な連中の反応等、従魔を獲得したことによる変化を一通り楽しんだ俺たちは、次にその足で【覗き】スキルを使いつつ学校内を見て回ることになった。


 廊下を歩くだけでもいつも以上の賑わいを感じられ、個性的かつ魅力的な従魔たちをちらほら見かけるのでまったく飽きが来ない。


「あらあら、人間さんたち、欲求不満なのかしら……?」


「「「「「ゴクリッ……」」」」」


 従魔の中でも特に目を引いたのが、サキュバスとかいう色っぽい悪魔で、その周りにはわかりやすく人だかりができていた。【魔眼】で調べると特殊能力が『チャーム』ってことで、ありゃ完全に魅了されちゃってるな。それでプレゼントとか貰いまくってるもんだから、傍らで高みの見物をしている従魔の持ち主はホクホクって寸法だ。


「そこの方も一緒にどお? あたしのナイスボディ、近くで見ていかない?」


 俺もサキュバスからウィンクされつつ誘われたが、逆に殺気を放つことで相殺してやった。


「あああん、いけずぅっ……」


「…………」


 いけずって、確か意地悪って意味だったか。まあ少しは当たってるかな。


「いやはや、ご主人様。殿は実に人が多いですなあ。ズズッ……」


 サキュバスの誘惑に対してびくともせず、レインが俺の肩の上で茶を啜る。宮殿ときたか。たかが学校だしそこまで格式は高くないものの、ここまで騒々しい中でこのネズミの落ち着きっぷりはそれに値するかもな。たまにシフォンとマジェリアにキラキラとした殺気立った視線を向けられて、全力で顔を逸らしつつ咳き込んでるが。


「「「「「――うあっ……」」」」」


 すれ違う従魔たちの中には、屈んだ状態で窮屈そうに歩く一つ目の巨人や、目や口が幾つもついた赤黒いドロドロ系の特殊なスライムなんかもいて、驚きが上書きされっぱなしだった。


 とはいえ、こうした色んな従魔を目の当たりにするうち、楽しいとは思いながらも一つ気懸りなことが出てきた。


「なあ、みんな。思うんだが、これだけ従魔が我が物顔で闊歩してたら、校内に侵入してきたモンスターと区別するのが難しくなるんじゃないか……?」


「こんんっ……。そ、それはそうかもです、トール様。モンスターが侵入してきたとき、間違えられて攻撃を受けたらどうしましょう……」


「そんなの、全然心配いらないもん。わたしみたいな可愛いロリっ子だったら、誘拐を企む人はいても、モンスターと間違える人なんているはずないしっ」


 マジェリアのやつ、自分で言っちゃうか。


「……そう考えるとなんか怖いわよね。見た目が人間寄りでもヤバいのだっているかもしれないし、従魔を使ってテロを仕掛ける生徒がいたらもう区別なんて無理よ。ピョンッ……」


「平野迅華、その通りだな……って、その語尾、もういい加減やめろよ」


「そ、そんなに睨まなくたっていいでしょ。悪かったわよ。ふんっ!」


 まあピョンが一回のみになってるし、若干ためらいがちになってるしで大分精神の傷も癒えてそうでよかった。それにしても、シフォンたちが言うことには一理ある。


 もしこれで、モンスター侵入の報告があった場所で本当に従魔によるテロを仕掛けられたら、俺たちは二種類以上のモンスターと同時に対峙するという非常に厳しい状況になりかねない。ただ、それは従魔を持つ者にとってもリスクが高いわけで、杞憂に終わってくれたらいいんだが――


『――お前たちに報告することがある。学校の外側、前庭付近にモンスターが出現した』


「「「「「っ!?」」」」」


 まるで俺たちの声が聞こえたかのように、時空の番人の声が降り注いできた。それでも、階段の踊り場のときみたいに俺たちのすぐ近くに出現させなかったのは、今までのことが意図的ではないと思わせるため……?


 まあそれについてはどう考えても真相なんてわかるわけがないし、モンスターが出現した場所へ急ぐとしよう。俺たちは互いに神妙そうな顔を見合わせ、ほぼ同時にうなずくのだった……。

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