第54話
【異次元ボックス】内、新たに仲間に加わった虹色のネズミには、種族名はあるが個人の名前がないということで、みんなで相談した結果『レイン』と名付けることになった。
種族名のレインボーマウスから取った名前で覚えやすいっていうのと、体は小さいが雨粒が広範囲に渡って様々な降り方を見せるように、色んなことができるという意味合いもある。
そのあとレインから教えてもらったのが、主人から名前をつけられるまでは名を持たないようにしているとのこと。
喋るネズミ自体、異世界でも非常に珍しいそうで、貴族でも手が出せないほどの高値がついているんだとか。だから王室専用なんだな。そう考えるとかなりいいものをゲットしたわけだ。ついでに有用そうなスキル【改竄】も貰ったし。
「……そうだ。従魔の獲得で学校がどれだけ変わったか、みんなで様子を見に行こうか?」
「みゃっ、トール様、それいいですね~」
「旦那様ぁ、わたしも見たーい」
「では、ご主人様、参りましょうか」
「いいわね、浦間透。ピョンピョン」
「「「「……」」」」
兎耳をつけた平野の淡々とした台詞でその場が凍りつく。なんか、ちょっと病んだ兎の亜人に見えるな……。
「……平野迅華、まだそのキャラ設定続けるのか?」
「しょ、しょうがないでしょっ。そうでもしないと気が紛れないし、しばらくはこれで行くんだから……ピョンピョン……」
どうやら、従魔を獲得できなかったことを今でも引き摺ってるらしい。そういうわけで、ボックスをあとにした俺たちが向かったのは、3-Aの教室だ。よくいた場所なだけに変化の具合を楽しめるはずだ。
というか、既にそこへ向かう間にも見せびらかすように従魔を引き連れてるやつらがいて、俺ら以外にも通り過ぎる生徒たちから注目の的になっていた。
「はあ。わたしたちだっていちおー従魔なのに、注目してくれないなんて嫌になっちゃう。ねえ、シフォン?」
「こんん。ですね~……」
いつの間にかマジェリアのやつ、狐のおばさんから名前呼びに変わってる。まあシフォンは基本的にいつも優しくて大人しいからそうなるか。
「まったくよね。ピョンピョンッ……!」
「「「「……」」」」
平野の精神的な傷は思ったより深そうだ。
「「「「「――おおっ……」」」」」
まもなく目的地へ到着すると、ここが本当に自分たちの教室なのかと目を疑うほど様変わりしていて、サイズも見た目も多種多様な従魔たちの存在感が際立っていた。
そんな中でも、伝説のアイドル平野や学校中からいじめの対象になってる俺は目立ってるらしく、早速冷やかしの声があっちこっちから矢のように飛んできた。
「見ろ、いじめられっ子の浦間のやつだ」
「あいつの肩の上に乗ってるのって、従魔かしら?」
「かわいー」
「でも、色合いがなんかキモくね?」
「アレでしょ。どうせなんにも取れなかったから、ただのラットに色を塗ってそれらしく見せてるんでしょ」
「うわ、それかわいそー……」
「てか、一人陰キャ仲間増えてると思ったら、平野さんじゃん」
「なんで? どうして平野さんがあんなのとつるんでるんだ?」
「ある意味、オタクの真似をしてからかってるだけじゃね?」
「それな」
「…………」
相変わらず異次元の思考を見せてくる連中だ。
悪意というフィルター越しに物事を見れば、なんでも歪んで映ってしまうものかもしれないな。ああいう本当の意味で哀れな連中を救う手立ては殺すくらいしかないと思うが、その必要もない小物たちだってことで、俺は念動弓で軽く攻撃してやった。
「「「「「――うっ……!?」」」」」
精神を一つ上げたおかげか思ったより効き目があったらしい。
「ざまあないわね。ピョンピョンッ」
平野の心の傷に比べれば大したことはないと思うが、それ以上にダメージを受けてそうなのが、呆然と俺たちのほうを見やる岡嶋猛で、取り巻きの田中や佐藤、その従魔らしきゴブリンとともに、銅像のように固まってしまっていた。
「やーい、お前たちのペット、ゴブリーンッ!」
「「「「ピシッ……!」」」」
なんか今、変な効果音が返ってきたぞ? マジェリアの野次で皹でも入ってそうだな……。
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