第53話


「――こ……これはっ……!」


 俺のスマホ画面に表示されていたもの、それはカラフルなネズミのアイコンで、『虹色の鼠を獲得しました』というメッセージが添えられていた。


 な、なんだこりゃ……。確かに異世界にいそうな鼠だが、従魔というからにはもっと強そうなものを想像していただけに、拍子抜けを食らった格好だ。まあたまにはハズレも引くか。


 ただ、まだ絶対にそうだと決まったわけじゃないし、何より俺には【飛躍】スキルがある。虹色の鼠がどういう風に進化したか、その答えは隣のアイコンを見ればはっきりするはずだ。


 そこには、【改竄】というスキル名のアイコンがあった。なんと、従魔がスキルに変化したらしい。


 どれどれ……早速【魔眼】でその効果を調べてみると、体の一部やスキルの名称、ステータスの数字を、別の似たものに変えたり消したりして偽装することができるんだそうだ。


 これがあれば怪しまれないように自然に変装ができる上、誰かにスマホを覗かれても偽りの情報でごまかせるってわけだ。今までそういうことはなかったが、これからはあるかもしれないし後々役に立ちそうなスキルだ。これだけでもお釣りが来るレベルだな。


 さて、今度はこの小さな従魔を外に出してやるかってことで、色鮮やかなネズミのアイコンを優しくタッチする。


 おおっ、手の平サイズのモフモフだ。俺の顔を見上げて立ち上がったかと思うと、胸に手を置いて敬礼してきた。なんとも礼儀正しいっていうか、人間みたいなネズミだな……。


「ご主人様、私どもになんなりとご命令を……」


 おいおい、ネズミが喋った……?


「みゃあっ。可愛いっ。私のパン食べますかー!?」


「きゃわきゃわっ! わたしのグラタンあげりゅーっ!」


「ぶぁっ……!?」


 あっという間にネズミがシフォンとマジェリアの間で取り合いになってしまった。


「こんんっ、私のですっ!」


「違う、わたしのだもんっ!」


「ちっ、ちぎれるうぅっ!」


「お、おい、ちょっと待てっ!」


 なんとかネズミを救出したわけだが、かなり憔悴している様子だった。まあ普通に死にかけたわけだからな……。


「危なかったな。それにしても、異世界のネズミは喋れるのか……」


「はぁ、はぁ……。は、はい、ご主人様。稀ではありますが、そういう種類もおります。私どものようなレインボーマウスは、元来から喋るネズミとして王族等に重宝されていたそうでございます……」


「なるほどなあ。喋ること以外には何ができるんだ?」


「はい。空間を齧ることで穴を開け、そこに隠れることができます。穴が開いた空間はすぐに修復されるため、一時的なものですが」


「へえ、空間に穴を開けられるのか……」


 なんかよくわからないが、かなり重要な特技のような気がする。


「あとは、話し相手や小物等のお使い、掃除、密偵、そうした役目を担っております」


 見た目は頼りないが、このネズミって相当に優秀なんじゃないか? 一応ステータスを覗いてみるか。


___________________________


 名前 レインボーマウス

 レベル 1

 サイズ 小型


 生命 1

 身体 1

 精神 1

 技能 1


 特殊能力

『空間穿孔』『言語』


___________________________



 なるほど、戦闘だけは苦手なタイプか。


 そういや、平野のやつが全然反応してこないので変だと思ったら、スマホを手に呆然自失としていて非常に話しかけづらい空気を放っていた。


「ひ、平野迅華、どうした? まさか、従魔を取り損ねたのか……?」


「……取ったわよ。あんたの新しい従魔がお喋りできる可愛いネズミなら、あたしはこれ……」


「えっ……」


 平野が手元に何かを獣耳のようなものを出現させたかと思うと、それを頭部にとりつけてみせた。こ、これは……。


「……兎っぽい子が手に入ると思ったら、ただの防具だったのよ。少しだけ防御力と身体能力が上がる程度の……」


「な、なるほど……」


 そんなものが従魔のアイコンの中に紛れ込んでいたとは。あれか、武器の中に狐色のホウキが入ってたようなものか。


「……これのどこが従魔なのよ。時空の番人に小一時間ほど説教してやりたい気分……」


「ははっ……。ま、まあでも可愛いじゃないか。自分自身が従魔になったようなもんだと思えば……」


「……そ、そう? ピョンピョンッ……」


「えっ……? も、もしかしてそれって、自動的に兎っぽい語尾が生成される効果もあるのか?」


「……素よ。シフォンの真似してみただけ。悪い? ふんっ!」


「「「「……」」」」


 俺たちは、新参のネズミを含めて苦い笑みを向け合うのだった……。

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