第52話
「ついに……ついにあたしも念願の従魔を獲得できるのねっ……!」
平野迅華が目を輝かせるとともに勢いよく袖を捲ったかと思うと、スマホを取り出してこの上なく画面に顔を近付けた。なんとも気合入りまくりだ。これがフラグにならなきゃいいが……。
「こんっ? 従魔でしたら、ここに狐の亜人である私がいますよ、ジンカ様?」
「ヒラノ~、それなら魔女のわたしもいるよ~」
「あ、あんたたちは浦間透の従魔でしょっ! あたしは自分専用のが欲しいのっ!」
「「ほむ……」」
まあ平野の気持ちは痛いほど理解できる。従魔は端末さえあればいつでも手元に呼び出せるありがたい存在だからな。そういう意味では平野も……って、それ以上はやめておこう。
自分たちの周囲でも、『俺はドラゴンが欲しい』とか『僕は美少女のエルフちゃん!』等、歓迎する声が多い一方、『ゴブリンだったら処分するかも』とか『スライムは可愛いけど役立たずだから詰みそう』とか、不安げな声を口にする生徒も一部にはいた。
それに対し、食堂のおばちゃんが『何言ってんだい、なんだろうと取れりゃいいんだよ、取れりゃ。食わず嫌いはよしな』と、ごもっともな意見。ただ、『うちがもしオークをゲットしたらカレーの具にでもしようかねえ』と冗談とも本気ともとれる発言で【威圧】スキル関係なく周りをビビらせていた。
なお、保健の井上先生も来ていて、『そんなら独身の私を慰めるために一緒にお酒を飲んでくれる従魔がいいな』とかしみじみと言って微妙な空気を作り出していた。
そんな従魔の話題で持ち切りな彼らも、まさかここにいるシフォンやマジェリアがそうだとは夢にも思うまい。
「トール様の従魔といえば、私のことですよねっ。なんだか嬉しいです~。こんこんっ♪」
「いあいあ、旦那様の従魔といえばあ、憎たらしいくらい可愛くてセクシーなわたしのことだと思う~。あっはん……」
「はぁ? シフォンもマジェも何言ってんのよ、それはあたしよっ!」
「「「えっ……」」」
「な、何よ、みんな呆然としちゃって……あ……」
平野もようやく自分が何を言ったか気付いたらしく、見る見る顔を赤く染め上げていった。
「確かに、お前が一番従魔っぽいかもな、平野迅華」
「な、何よそれ、浦間透っ! どういう意味なのよっ……!」
「こう、グイグイ来るところとか」
「そ、それはあたしの性分だからしょうがないでしょっ! ふんっ……!」
「みゃ~。私もジンカ様みたいにトール様に認められたいです~」
「グイグイ来るってことはぁ、わたしもヒラノみたいに強引にいったほうがいいってことなんだあ? それなら夜這いも考えなきゃ! メモメモ……」
「は、ははっ……」
まったく、勉強熱心な従魔たちだ――
「「「「――あっ……」」」」
そこで、遂にスマホが選択画面に切り替わるのがわかった。いよいよだ。
想像を絶するスピードで従魔のアイコンが消えていくのがわかるが、自分の方針は今までと同じでまったく変えるつもりはない。
力まず焦らず慌てず騒がず、指先に自身の魂を詰め込んで、アイコンの輪郭を見ながら五感を駆使し、従魔を選ぶというよりも相棒と出会うようなイメージで、これだと思った瞬間にタッチしようと思う。
「――――っ!」
今だ。俺は何かを選択した直後、目を瞑った。
これは、怖いからとかあとのお楽しみとかじゃなく、選んだことを後悔しないための儀式のようなものだった。
残念な結果かもしれないが仕方ないというより、やるだけやったんだから絶対に良いもののはずだという究極の自己肯定に近いかもしれない。
「「「「……」」」」
自分と同じように従魔を選ぶべく集中している平野はともかく、シフォンとマジェリアは俺が何を選んだのか既に見ていると思うが、空気を読んでくれているのか無言だった。
さあて、自分は何を獲得したのやら。そろそろこの目で確認してやろうってことで、何があるかっていうワクワク感を楽しみたいのもあり、俺は徐々に目を開いていった……。
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