第51話


「うみゃみゃっ。コロッケパン、とっても美味しいですっ」


「このタラコおにぎり、たまんないわねえ」


「わたしは断然パスタ……じゃなくて、今はグラタン派だもん。はふはふっ……!」


「…………」


 俺たちは今、食堂にて朝食を取っている最中なわけだが、目移りしたのかシフォンたちの好みが微妙に変化してるのは置いておくとして、このほのぼの具合……前回の修羅場からいくらなんでも落差がありすぎた。


 もしみんながあの場にいたら、どんな反応をしただろうか?


 用心棒をやってたシフォンなら耐えるとしても、アイドルの平野迅華はショックで気絶してそうだ。マジェリアであれば、好みのバイオレンス風ってことで喜ぶかもしれないが。


 とにかく、谷口翔也と山野辺春香をこの世から消してやったことで、イニシャル連中は残り4名となった。今回は何も情報を得られなかったものの、それ以上にターゲットが鬱陶しかったので殺しただけでもよかったといえる。


 どんな相手であれ、自身の手を血に染めたあとっていうのは多少なりとも痞えのようなものが胸に残るものだが、あのバカップルに関してはそういうものはまったく感じなかった。


「「「――じーっ……」」」


「はっ……」


 ふと我に返ると、シフォン、平野、マジェリアの三人がじっと興味深そうに俺の顔を見つめているところだった。


「な、なんだ、みんなどうした? 俺の顔に何か変なものでもついてるか……?」


「こんっ♪ そうではありません。トール様、とってもキリッとした渋いお顔をされていたので見惚れていたんですよ~」


「うんうん、いかにも殺し屋のおっさんって感じだったわねえ」


「ああんっ、素敵なの~。わたしも旦那様に殺されてみたい! ねえ、今すぐ昇天させてみて~!」


「「「こらこら……」」」


 マジェリアのぶっ飛んだ台詞のおかげで、冗談っぽさが増してオチがついたみたいでよかった。なんせ、チラチラとこっちの様子を覗き見してるやつらもいるので妙な発言はなるべく控えたい。俺も油断して無意識に殺し屋時代の雰囲気を滲ませてたみたいだから気を付けないと。


 まあ自分は学校内でも有名ないじめられっ子のようだから、それイコール殺し屋というのは俄かには想像できないだろうし、そこまで心配しなくても大丈夫だとは思うが念には念を入れる必要がある。俺があの黒田龍一に勝てたのは、もちろん運もあったがこの慎重さの賜物でもあったはずだから。


 さて、朝食も済んだことだし、みんなレベル20になってるしで、これからどうしようか。そうだな……学校内をあてもなくブラブラと散策するのもいいかもしれない。まず食後の運動になるし、色んな景色を目にする機会があるので気分転換にもなる。


「シフォン、平野迅華、マジェ、これから散歩でもするか?」


「みゃっ。それいいですねー」


「そうねえ。食べたあとは健康のためにも運動しないと」


「わたしも賛成~。だって、この二人みたいにデブになりたくないしっ」


「こ、こんっ……!? マジェさん、私のどの辺がデブだっていうんですか~?」


「そうよっ! マジェリア、あんたね、何を根拠にそんなこと言うわけ?」


「わたしと比べたらおデブだもん。やーい、デブデブ~!」


「「このおっ……!」」


「お、おいおい……」


 憤慨した様子のシフォンと平野がマジェリアを追いかけ始めたせいか、食堂のおばちゃんが俺に近付いてきて、『モテる男は大変ねえ』と声をかけてきた。いや、そう思うのなら得意の【威圧】スキルで彼女たちを止めてほしいんだが……。微笑ましいやり取りくらいに受け止められてそうだ――


『――たった今、時空の歪みが最大に達したゆえ、お前たちに報告する……』


「「「「「あっ……」」」」」


 それなら自分が止めてやると言わんばかりに天の声が鳴り響いた。


『今回、お前たちが端末で獲得できるものは……付き従う異世界の仲間、すなわち従魔だ』


「「「「「ザワッ……!」」」」」


 周囲から強めのどよめきが発生する。それだけインパクトが大きかったんだろう。従魔を選べるのなら当然か。しかも、時間帯的には朝食後っていう絶好のタイミングなだけに、起きている生徒も多いはずだから今まで以上に熾烈な獲得合戦が繰り広げられそうだな……。

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