第56話


「「「「「――くっ……!?」」」」」


 学校の玄関口から前庭へと出た俺たちに襲い掛かってきたのは、意外にもモンスターではなく、噛みついてくるかのようなだった。


 最早まともに目を開けていられないほどの強風に見舞われたかと思えば、嘘のようにピタリとやむ。


 これは……明らかに自然のものではない。人為――いや、辞書には載ってないがなものだ。


 猛獣のような風の出どころを確かめるべく、俺たちは強風がやんだのを見計らってその方向にあった大樹のほうへと走り、木陰で【異次元ボックス】スキルを使って周囲の様子を探ることに。


 ボックスの中にいても攻撃はできないが、ここからなら安全に周囲の様子を探ることが可能だからだ。


「スウウウゥゥゥッ……」


「「「「「はっ……!」」」」」


 あ、あれは……一人の生徒が従魔らしきリザードマンとともに校門のほうへと走っていく中、大きく息を吸い込むような音がしたかと思うと、校門付近に見る見る膨らんでいく物体があった。あれが侵入したモンスターなのか? 早速【魔眼】でチェックしてみることに。


___________________________


 名前 バルーンスライム

 レベル 50

 サイズ 超小型~大型


 生命 1

 身体 3

 精神 1

 技能 4


 特殊能力

『浮遊』『サイズ変化』『スーパーブレス』


 弱点 口


___________________________



 なるほど……敵は宙に浮いた状態で、息をたっぷり吸うことで凄まじい風を吐き出して攻撃するタイプか。弱点は口ってことで、それが露になるのはおそらく吐き出すタイミングのみなんだろう。まさに危険と隣り合わせの戦闘になりそうだ。


「「ぎゃあああああぁっ……!」」


 例の生徒と従魔が膨らんだスライムから『スーパーブレス』を食らったかと思うと、校舎の建物に激突してそのまま落下し、息絶えてしまった。


 これって、もしかしたらがあるな。生命が2あってもダメってわけだ。末恐ろしい……。


 その一方で、どこにいるかわからないくらい小さく萎んでいったスライムは、『浮遊』によってどこかへ移動したようだ。こりゃ想像以上に厄介な相手だといえるだろう。


 いざ攻撃しようにも、やつの現在地を予測して走らないと、息を吸い始めてからじゃ到底間に合わないことがわかる。あの突進して散った生徒とリザードマンの動きはかなり俊敏だっただけに、尚更そう思う。だが、それは近接攻撃しか手段がなかったらの話で、念動弓を持つ俺には関係ないってことで殺気を溜め始める。


 さあ、とっとと姿を現して弱点の口を出せ。そしたら俺が念矢をご馳走して破裂させてやるよ、……。


「「「「「……」」」」」


 だが、どれだけ待っても一向にスライムが膨らむ気配が見えない。


 もしかして、やつはターゲットが近付かない限り息を吸うどころか、姿を見せることさえないっていうのか。これじゃ当然、スライムが弱みである口を見せることもない。


 いつの間にやら、学校の玄関口から多くの生徒たちが従魔とともに姿を見せてはいたが、例の惨状を目にしたせいか突っ込む者は一人もおらず、入口近くで状況を眺めているだけの様子。


 ステータスを調べてみると、彼らはいずれもレベル20付近の精鋭たちなので、おそらく侵入したモンスターを倒せばレベルが上がると見たんだろう。それでも他人のために犠牲にはなりたくないはずで、誰かが突っ込むのを今か今かと待ってる感じだ。考えることはみんな同じか。


「もー、もどかしいわね。浦間透がなんとかしてくれるんだから、誰か行きなさいよね!」


「みゃあぁっ、まったくです。トール様がいるのに……」


「そうだよ! 旦那様のため、わたしたちのため、大人しく犠牲になればいいのっ」


「ご主人様がおりますゆえ、安心して突入するべきかと」


「ははっ……」


 みんな中々えげつないことを言うが、正直でよろしい。俺は自分のためだけじゃなく彼女たちのためにも頑張らないと。


 それにしても、この膠着状態をどうやって乗り越えていけばいいのか……って、あ、はなんだ……?

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