第48話
「「「くー、くー……」」」
「…………」
あくる日の朝のこと、【異次元ボックス】内で起きたのは俺だけで、みんなスヤスヤと眠っていて目覚める気配は微塵もなかった。
まあこうなる予感は多少なりともあったから驚きはあまりない。昨晩、《大蛇の洞窟》マップでマジェリアのレベルを俺たちと同じ20まで引き上げるべく、みんなで手伝った影響もあって疲れ切ったんだろう。
ちなみに、彼女もシフォンと同じようにレベル20になるのが感覚で理解できたあと、リッチを一発で倒せなかったのが悔しいからと魔法攻撃力を上げるべく精神にポイントを振ろうとしていたが、俺が頼んで生命に振ってもらうことになった。
あの黒田龍一がもしこの学校の生徒に転生しているとしたら、命なんて幾つあっても足りないのでもしものときに備えておきたかったんだ。
なんせ、殺しの腕では右に出る者はいないとされていた男だからな。これでみんな生命が2になったので、一日のうち一度は死んでも大丈夫ってわけだ。
さて、行くか……。
とりあえず、ここにいても何もすることがないので、俺一人だけボックスを出て校内を歩くことに。
今回は3-Aの教室へ向かうのではなく、適当にその辺をぶらぶらしようと思う。前回、あそこでヘイトを溜めてしまったばかりというのもあるし、万が一のときのためにもなるべく体を動かしておきたいんだ。
もちろん、自分の目的はそれだけじゃない。散策するついでに、通り過ぎる生徒たちに対してさりげなく【魔眼】を使った。これはステータスを見るためだが、その中でもあることを調べたかったからだ。
「――こ、これは……」
その結果に対し、思わず声が出てしまう。やはり、そうだったか……。
俺が覗いたステータスの中で最も注目したのは、そのレベルの部分だ。今のところ30人ほど見させてもらったが、レベル20以上の生徒は一人も確認できなかった。思っていた通り、現時点ではこれ以上レベルが上がらないように調整されているとしか思えない。生徒たちが強くなりすぎると困るわけだ。
もし、時空の番人が意図的にこの学校を時空の狭間に閉じ込めた上、ネットゲームの運営者気取りだったとして、ゲームバランスを容易く崩してしまうようなチートプレイヤーを果たして好むだろうか? いや、むしろ邪魔だからと徹底的に排除しようとするだろう。
そう考えると、狙いを定めたかのように屋上や踊り場でモンスターが出現したのは、俺たちへの妨害行為の一環とも考えられる。当然、これらのことは確定したわけではなく、あくまでも一個人の推測に過ぎないんだけどな。
ただ、俺が持っている【飛躍】スキルが学校内のパワーバランスを破壊するほどの効果であるのは間違いないし、警戒するに越したことはないだろう。
今頃、時空の番人は俺に強力すぎるスキルを与えてしまった、このままではゲームバランスが崩壊してしまうと嘆いているのかもしれない――
「――あれっ、そこにいるのって、もしかして透さんじゃない?」
「……えっ……?」
考え事をしていた俺が少し間を置いて振り返ると、そこにはいかにも清純派といった感じの女子生徒が立っていた。
「やっぱりっ……。ああいうことがあったから仕方ないけど、あれからあまり会えなくなって寂しかったよ……!」
「…………」
しかも、いきなり涙ながらに抱き付かれたので、俺は面食らって声も出すことができなかった。
おいおい……オリジナルの浦間透にはガールフレンドがいたっていうのか? 今まで自分に声をかけてきた生徒はほとんどが男な上、どうしようもなく陰湿なやつらばかりだっただけに、これはあまりにも意外すぎる展開だった。
自分の体の元の持ち主に関しては、いじめというよりは組織的な犯罪行為に巻き込まれている可哀想な被害者というイメージしかなかったが、まさかのまさかで実は女泣かせでそれで嫉妬されていたとか?
まあそれはさすがにないとして、様々な可能性が脳裏に浮かんでくるが、とりあえず彼女が知っている浦間透として話を聞いてみるとしよう……。
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