第47話


「「「「……」」」」


【異次元ボックス】内は、なんとも気まずい沈黙に包まれていた。


 それも当然といえば当然か。俺は彼女たちに対して、今まで見せたことのない別の顔を見せてしまったわけだからな。


 そのせいか、お互いに言いたいことがあるのに言い出せない、そんなもどかしさが続いていたんだ。


 いっそ自分がかつて殺し屋であったことを打ち明けてしまおうか。これ以上仲良くなる前に告白したほうがいいような気もする。じゃなきゃ、この先もっと深く仲間を傷つけ、自分自身も返り血を浴びてしまいかねない。


「なあ……」


「ねえ……」


「「っ……!?」」


 切り出すタイミングが、平野と被ってしまった。


「「どうぞどうぞ――はっ……」」


 今度は台詞まで重複してしまい、シフォンとマジェリアを含めて俺たちは苦い笑みを向け合うことに。でも、これで少し緊張が解れて話しやすい空気になったような気がする。


「浦間透――いや、その中の人って、一般人じゃないわよね……?」


「……わかるか」


「そりゃそうよ。だって、あんたのお父さんが元ヤクザの幹部だって聞いてたし……」


「あぁ、そういやそんなことも話したんだったか。そりゃ察するよな」


「それで、どんな仕事をしてたわけ?」


「殺し屋だよ」


「「「っ!?」」」


 俺の台詞でみんながはっとした顔になる。


「ただ……言い訳するつもりはないが、殺し屋といっても頼まれたからってなんでも手を出すわけじゃない。大金に釣られてしまうやつもいるが、どうしようもないクズしか殺さない俺みたいなのもいる」


「ってことは、ダークヒーローみたいなもん?」


「みゃぁ、なんだか格好いい響きですねっ」


「旦那様、素敵ぃ~」


「い、いやいや、そんな褒められたようなもんじゃない。毒を以て毒を制するみたいなもんでな、人を平気で殺めるようなアウトサイダーのやる仕事だ」


「でも、人間のクズよりはマシでしょ」


「こんっ、私もそう思います」


「クズなんて、みんな殺しちゃって!」


「ははっ……。でも正直いうと、怖いだろ?」


「そ、そりゃ、少しはね。あのとき、あんたの怖い顔見て漏らしちゃうかと思ったわよ」


「こんんっ? 私はそんなことないですよ?」


「わたしも~」


「ちょっ、それじゃあたしだけ臆病者みたいじゃない!」


「まあ、それはあるかもな。平野は一角獣に対してビビりまくってたし」


「もー! そんな前のこと持ち出さないでよ……。でも、これでスッキリしたわ。得体の知れない怖さのほうが嫌だったし……」


「そんなもんか」


 確かに、ボックス内の空気は大分穏やかになってる気がするな。


 平野は知ってると思うが、シフォンとマジェリアは知らないだろうから俺はここまでの流れを簡単に説明することにした。


「俺は元殺し屋で、心臓発作によって倒れたんだが、いじめを苦に自殺したこの浦間透ってやつの体に転生することになってな……。んで、浦間はイニシャルが書かれた紙を上履きの中に残していて、それが自殺まで追い込んだ連中の名前だと判明したから始末しているところなんだ」


「じゃあ、あの変な男もその一人だったの?」


「ああ。やつが死んだからこれで残り6人になったが、まだまだ黒幕がいそうだ」


「黒幕って……。やたらと大がかりないじめなのね。てかもう、それっていじめっていうより犯罪みたいなものでしょ。わざわざイニシャルにしてるし、よっぽど怖かったんだね……」


「報復されるのを恐れたんだろう。イニシャルの背後には不良グループの影も見えるし、ただのいじめじゃないことは確かだ。耐えられなくなって自殺を図るのもしょうがないくらいのな……」


「……ごめんね。守ってあげられなくて……」


「お、おい。もうここにはいないんだからそんなこと言っても意味ないって。それに、前にも言ったがもしかしたら生きてるかもしれない。俺と入れ替わりになって」


「……そうだといいけど……」


「…………」


 ここまで説明した以上、俺は言わなきゃいけない。


「そういうわけだ。俺と一緒にいれば、この先とんでもない危険が待ち受けてるかもしれないし、おそらくそうなるっていう予感もある。だから、もしそれが嫌なら俺から離れてくれないか?」


「はあ? 何言ってんのよ。そんな話聞いたらむしろ率先して手伝いたくなるわよ!」


「こんこんっ! 私もジンカ様と同じ気持ちです。トール様、どうか手伝わせてください!」


「わたしも旦那様のお手伝いするっ! 悪党どもを皆殺しにしてやるんだから~!」


「平野、シフォン、マジェ……」


 俺は胸が熱くなるのを感じた。みんなを守るためにも、もっと強くならないとな……。

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