第44話


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 名前 立原たちはら いつき

 性別 男

 年齢 17

 レベル 5


 生命 1

 身体 1

 精神 1

 技能 1


 所持装備

 棍棒

 アイアンシールド


 所持スキル

【俊敏】【跳躍】


 所持マップ

《風の草原》


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「…………」


 やつの背中を追うついでにステータスと例の紙をチェックしたわけだが、その中にI・Tという文字があったので、立原樹がイニシャルのうちの一人であることがほぼ濃厚となった。


 オリジナルの浦間透を自殺まで追い込んだ一人なだけあって、どんな凄惨ないじめを披露してくれるのやら。ただ、所持スキルや装備を見る限り、そこまで警戒する必要性はなさそうだ。


 こいつが項垂れながら無言で《風の草原》マップを縦横無尽に駆け回り、兎かなんかを追い回してる姿を想像すると正直怖いものはあるが。


 というか……なんだか妙だ。さっきから露骨にこの男が周りの生徒たちから避けられているのがわかるのだ。


 その事実だけでもう、こいつが相当に危ない人物であることが伝わってくる。


「あ、3-Bの立原樹だ。それに、3-Aの浦間君」


「浦間のやつ、有名ないじめられっ子とはいえ、ほんっとヤベーのに絡まれちゃってるよな」


「うあっ、可哀想……」


「浦間って立原にも目をつけられてるのか。俺ならとっくに自殺してる」


「前にもあいつにどこかへ連れていかれるの見たぞ」


「そんときも滅茶苦茶落ち込んでたよな。浦間はそれでも生きてるんだから、相当にメンタルがタフなのかね」


「…………」


 それも、俺に対して同情するような声がほとんどだ。それだけこの立原ってやつが異質な存在で、かつ嫌われてるってことか。


「こんんっ……。さっきからあの人、何か呟いてますけど、大丈夫なのでしょうか……」


「シフォンの言う通りよ。なんか辛気臭いし、よく聞こえないわね。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよね」


「ほんっと、みょーなやつ! わたしの魔法で燃やすか、ホウキで頭かち割ってもいい?」


「「「マジェ……」」」


「だ、だって、なんかむかつくんだもん……」


 まあ、マジェリアはやりすぎだとしてもみんなの言いたいことはわかる。立原という男は下を向いたまま廊下をどんどん歩きつつ、ブツブツと呪いのような言葉を吐いていて、あまりにも異様だったからだ。


 お、ようやく立ち止まったと思ったら、そこは三階の突き当たりの壁の前だった。なんだ? ここに何があるっていうんだ?


「――もう終わりだ……」


 やつは振り返るとともに、凄みのある暗い笑みをぶつけてきた。いや、何がもう終わりだっていうんだよ。主語はどこだ、主語は……。


「……この世は、現実は……終わりなんだ……。夢も希望も花も恋も、全て枯れ落ちるんだ……」


「「「「……」」」」


 な、なんだ、この陰気すぎるポエムは……?


「終わりだ、終わりだ、もう何もかも終わりだってんだよおおおぉっ!」


「ぐっ……!?」


 やつは何を思ったのか、俺の髪を掴むと壁に打ち付けてきた。


「う、浦間透っ!?」


「トール様!」


「旦那様ぁっ!」


「…………」


 次々と額に衝撃が走る中、俺は手だけを後ろにやってみんなを制止した。これぐらい大したことはないし、この男のいじめっぷりを最後までじっくり味わってからでも遅くはない。


「どうだ、どうだっ、どうだああっ! 痛いか、苦しいかっ!? でも、それこそが僕が今まで味わってきた苦痛なのだっ!」


 ……なんのことやら。


「前にも言ったと思うけどね、足りないっ。これくらいじゃ足りっこない! 僕の痛みはこんなもんじゃないんだ。死ね、底辺っ……! エリートである僕の痛みは、たとえどんなに些細なことであっても、愚鈍な底辺の君よりずっと大きいんだあぁぁっ!」


 ……この発狂振り。一体何があったのか。こいつも普段から除け者にされ、いじめられてるとかか?


「……はぁ、はあぁっ……。ふう。これくらいでいっか。あー、すっきりした。勉強も運動もできて、両親がエリートで可愛い彼女もいる僕だけど、大したスキルや武器が取れないのはさすがにストレスが溜まるんだよ。ま、それでもいじめられっ子のスクールカースト底辺の君よりは遥かにマシなんだけどねえ」


「…………」


 なるほど。要するに鬱憤晴らしをしていたわけだ。それも忍耐力のないプライドだけ異様に高い男が、些細なことで目くじらを立て、ストレス発散のはけ口として俺をターゲットにしていたってことだ。これは絶対に許せんよなあ。俺は壁に付着した自分の血痕を見て、思わず笑みが零れた。


「それじゃ、また何かあったらサンドバッグ役を頼むよ」


「……ちょっと待て……」


「え?」


 俺は殺気を解放するとともに立原の肩を掴んだ。


「今度は俺のストレス発散のために協力してくれ」


「こんっ。協力してくださいっ」


「協力しなさいよね」


「協力してねぇっ」


「……え……え……?」


 さすがエリートの立原だ。俺の殺気を存分に浴びて、さらにこうして仲間に囲まれたことで、いつもとは様子が違うことに気付いたらしい。ただ、少し遅かったな。お前の真似をするつもりはないが、もうお前はだ……。

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