第41話
「な、なんなのよ、これ……。あたしが寝てる間に一体何が起きたの……」
【異次元ボックス】内にて、さっき起きたばかりの平野が戸惑った様子を見せるのも無理はない。
「ひゃっほー!」
今しがた、ボックスの中では魔女っ子のマジェリアがホウキに乗って楽し気に飛び回ってるんだからな。ちなみにあの狐色のホウキはシフォンのものだったが、自分のほうが似合うからと取り上げられてしまった格好だ。
とりあえず、俺は平野にこれまでの経緯を説明することに。
「――へえ、そういうことがあったんだ……って、それじゃ、あたしはなんにも手に入ってないってことになるじゃない!」
「ま、まあそういうことになるが、仲間が一人増えたんだから、ここは大目に見てやってくれ」
「見てください、なのです。みゃう……」
「何よそれ。いくらあのマジェって子の見た目がお子様だからって、浦間透もシフォンも甘やかしすぎよ!」
「んー?」
地獄耳なのか、それまで飛び回っていたマジェリアが俺たちの前に舞い降りてきた。
「誰がお子様だってえ? こんなに色っぽいわたしがお子様だっていうなら、ヒラノ、色気の欠片もないあなたは赤ん坊ねぇ」
「はぁっ!? あんたね、その防具とホウキはあたしとシフォンのものなんだから、今すぐ返しなさいよね!」
「おいおい、平野迅華、まさかあれを自分で着る気なのか?」
「そ、それは……。あ、あんたがどうしても着てほしいって土下座して頼むなら着てあげてもいいわよっ!」
「おいおい、なんで俺がそんなことを頼むために土下座しなきゃならんのだ……」
「旦那様の言う通りだもん。それに、これはもうわたしのだから返さないよ。べーっ!」
「あっ、バカにしたわね!? 返して!」
「ここまでおいでっ。間抜けなヒラノッ」
「い、言ったわねえ!? お尻が腫れあがるくらい引っ叩いてやるんだからっ!」
魔女っ子と平野迅華の追いかけっこが始まる。この二人、仲が悪そうに見えて意外と相性が良いかもしれない。
個人的には、平野やシフォンみたいな年頃の子にあんな格好をされたらさすがに目に悪いし、マジェリアにずっと着けてもらってたほうがいいかな。
平野は何故か返してほしそうだが、そういうこともあって俺は内心マジェリアのほうを応援していた。
というか、いつの間にか二人ともボックスからはみ出して、出たり入ったりの繰り返しだしどんだけ必死なんだか。
「きゃあああぁっ!」
「あっ……」
そうだった。平野の悲鳴で思い出した。周りの景色を見ようと思わないと見えないから忘れてたが、今は男子トイレになってたんだった。しかも個室には死体も置いてあるし踏んだり蹴ったりだな。まもなく、平野が真っ赤な顔で詰め寄ってきた。
「――はぁ、はぁ……。う、浦間透、よくも騙したわね……!? 用を足してる男子と遭遇しちゃったわ。なんで男子トイレなのよ! せめてそこは女子トイレでしょっ!」
「…………」
そこかい。というか、彼女の口振り的に例のやつが死体だとは気付かなかったみたいだな。死臭が強くなるまでにはまだ時間がかかるし、ほぼ一瞬の出来事だろうからそこまで見る余裕はなかったのかもしれないが。
それでもう一つ思い出したが、黒田龍一が本当に転生しているとしたら、相当に厄介な相手になるのは間違いない。これから先、やつと邂逅する可能性が少しでもあるとして、そのときまでなるべく力をつけておきたいものだ。もしかしたら、黒田のほうもそう思ってリベンジを誓っているかもしれないが……。
ん、みんなやけに静かになってると思ったら、三人とも固まって何やらヒソヒソと会話している様子。さっきまであんなに争ってたのに一体なんの話をしてるのか、俺は凄く気になったのでそっと近付いてみることに。
「私の一推しは、焼きそばパンですっ」
「あたしとしては、鮭の入ったおにぎりを推すわっ!」
「ど、どーしよ……。わたしが好きなのはパスタなのだけれど、涎が止まらないからみんな食べたいっ」
「…………」
ただのご飯談義だった。そういや、朝食もまだだったな。
「みんな、お腹すいたみたいだからこれから食堂へ行くか?」
「「「賛成っ!」」」
平野、シフォン、マジェリアの三人からほぼ同時に歓声が上がる。それまで不協和音だらけだったが、雨降って地固まるってやつでようやく一つにまとまってくれた感じだな。飯と食堂のおばちゃんの力は偉大なんだと改めて思わされた格好だ。
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