第39話


『今回、お前たちが獲得できるものは防具だ。今からおよそ5分後に――』


 へえ、今度は防具か……って、なんか大事なことを忘れてるような……?


 あ、そうだ。一瞬忘れてしまってた。平野のやつに時空の番人の声がしたことを知らせないと。そういうわけで、場所は男子トイレだが急いでるってことで俺は即座に【異次元ボックス】を使った。


「――こんっ、トール様、おはようですっ」


 中へ入るとシフォンが座った状態で起きていたが、平野はその尻尾を枕にして未だに眠っている様子だった。


「こん……じゃなくておはよう、シフォン」


「早速ですがぁ、朝ご飯食べたいですっ」


「あぁ、そうだな……って、今はそれどころじゃないんだ」


「みゃっ? どうなされたのです?」


「もうすぐアイテムの選択画面が来る。その前に平野を起こさないと……」


「こんん……。それは難しいと思います、トール様……」


「え……? どういうことなんだ?」


「私も何度かジンカ様を起こそうとしたのですが、この通り、ずっと私の尻尾を放してくれなくて……」


「……うふふっ。尻尾を掴んだからには、もう逃さないわよ……」


「「……」」


 俺はシフォンと困惑した顔を見合わせる。平野は今頃一体どんな夢を見てるんだか……。


「もう時間がない。こうなったらビンタしてでも……って、そうだ。起こす必要もなかったんだ。シフォン、頼みがあるんだが」


「こん? なんでしょう?」


「平野迅華の代わりに、スマホを操作してアイテムを獲得してほしいんだ」


「みゃ、みゃあっ……!? ス、スマホとは、あの小さな石板のことですよね? 私にできるでしょうか……」


「大丈夫。すぐやり方を教えるから。ここをこうして――」


「――みゅー、なるほどです。こうして、指で優しく触れて、撫でる感じで動かせば良いのですねっ」


「そうそう、いい感じだ。選べる時間は少ないけど、なるべく良さげなものを獲得してやってくれ」


「はいですっ。ジンカ様のためにも、とっておきの防具を選んでみせます! こんこんっ♪」


 シフォンが食い入るように平野のスマホ画面を見つめている。なんか力が入りすぎてて逆に心配になってくるが、俺も自分の防具を獲得しなきゃいけないし、代理の彼女が良いものを選んでくれることを願うのみだ。


「――来たっ」


「みゃっ……!」


 それから少し経って、スマホの画面が防具の選択画面に切り替わる。相変わらず物凄い勢いで防具のアイコンが消えていくが、もう慣れてることもあって冷静さを維持できていた。


「こ、こんっ!? どんどん消えていきます! んもうっ。バカァ、どうしましょう? みゃああっ……!?」


「…………」


 一方、シフォンはうろたえまくっていた。まあ彼女が自分で選ぶのは初めてだからな、仕方ない。ってことは、やはり異世界ではこういうことはできないってことか。多分、冒険者ギルドにありそうなカードとか石板とかで自分のステータスくらいは把握できるんだろうけど……っと、人のことを気にしてる場合じゃなかった。俺も早いとこ選ばないと。


 そうだな……。できれば、動きやすいように軽めの防具を選びたい。その上でそこそこ防御力も高めなものが理想だ。スマホ上で手に入れたアイコンをタッチすれば解除できるとはいえ、重量感のある防具だと戦闘において咄嗟の対応ができそうにないからな。【飛躍】スキルでより良いものが一つ追加されるとはいえ、だからといってそこで手を抜きたくなかった。


「――これだ……あっ……」


 選ぼうとした防具が寸前で消えてしまった。軽そうでしかもお洒落な感じの服だったから惜しかったが仕方ない。午前中とはいえもう九時に近い時間帯なわけで、スマホを見ているやつもそれだけ多いのかアイテムの消える速度がいつも以上に凄まじかった。


 こうなったら目についた軽そうなものを片っ端から選んでやろうと、俺は指先に全神経を集中させて、早押しクイズに近い感覚でタッチしてみせた。それでも適当にではなく、アイコンのシルエット的にフワッとした感じのものを選んだつもりだし、ちゃんと手応えもあった。よしよし。


「――こ、こんっ……!?」


 シフォンの驚いたような反応を見ると取れたかどうか微妙だが、そのタイミングで選択画面が消失した。さあ、果たして俺たちはどんなものを手に入れることができたのやら……。

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