第38話
俺は【異次元ボックス】を出ると、単身で3-Aの教室へと向かっていた。
特に何か用事があるっていうわけじゃないが、自分のホームともいえる教室だし、そこにいれば残り7名になったイニシャルの連中も天田や葛城のように近付いてくるんじゃないかと睨んだんだ。
「「「「「――ザワッ……」」」」」
ほどなくして到着したら、朝の時間帯から3-Aの教室はやたらと賑やかだった。
別にここで授業が行われるってわけでもないのに、これだけ生徒たちが揃っているのはあれか、帰巣本能か何かだろうか? みんなスマホやタブレットに夢中の様子だったが、俺が教室に入ったことで流れが変わるのがわかった。
平野迅華みたいな現在進行形で伝説を作りまくってるアイドルじゃあるまいし、やたらとこっちに注目してくるんだ。俺自身、ほかのクラスのやつからもいじめの標的にされていたこともあって、それだけ悪い意味で有名なのかもしれないな。
『あのケモっ子がいない』、『どうせフラれたんでしょ』、『あの陰キャ、まだ生きてたの?』等、冷やかしの声が幾つか飛んできたものの、俺が自分の席に着く頃には弄るのも飽きたのかピタリと収まっていた。
ほとんどの連中は自分が手に入れたスキルや武器、マップのことで会話が弾んでいて、俺どころじゃないみたいだな。まあ普通はそんなもんだろう。一部、岡嶋猛のいる席からは鋭い視線を貰いっぱなしだったが。お返しの意味で目配せしてやるか。
「う、浦間ぁ、舐めてんのかこの野郎っ――!」
「「――お、抑えて、岡嶋さん……っ!」」
岡嶋が激怒した様子で顔を真っ赤にして立ち上がったが、取り巻きの佐藤と田中に制止されていた。ここで暴れたら周りに迷惑がかかるし、自分たちの立場がより悪くなると判断したんだろう。あいつら、なんだかんだいって仲が良いんだな。
「――ふあぁ……」
それからしばらく経って自分の口から欠伸が飛び出したものの、そこに挑発の意味合いはまったくなかった。どれだけ待っても何も起こらないこともあって、退屈すぎて眠くなっただけだ。
もしかしたら、紙に書かれたイニシャルの連中や不良グループも、今は俺のことまで気が回らない状況なのかもしれない。それでもここまでいじめというより組織的な犯罪行為をやってる連中だし、目につけばさすがに動くかもしれないってことで、俺は学校内をウロウロしてみようと思い立って教室をあとにした。
「…………」
ん……? 突き当たりの階段を目指し、三階のトイレ前を通ったときだった。何か妙な気配を感じた俺は、慎重に中を覗き込むことに。
気のせいだといいが、この怪しげな雰囲気は、おそらく……いや、ほぼ間違いなく何かが起きている――
「――――っ!?」
中途半端に開いた個室の中では、一人の男子生徒が項垂れた状態で座っていて、微塵も動く気配がなかった。首の後ろには深い刺し傷があり、事切れてからほとんど時間が経過していないのがわかる。まだ死後硬直が見られないだけでなく死臭もそれほど強くないからだ。
ステータスを覗こうとするも、死体には効果がないのか何も見られず、足元に転がっているスマホは強く踏まれたのか完全に壊れていた。
その中でも特に異様なのが、その頬にべったりと血の跡がついていることだ。これは、まさか……。
元殺し屋時代の俺のライバル――黒田龍一の異名が《血涙》で、血の付着したナイフを被害者の頬で拭い、あたかも血の涙を流しているように見えることからそういう二つ名が定着したんだ。
あの男も俺と同じように学生に転生したっていうのか? おいおい、そんな偶然がありうるっていうのかよ……。いや、待て、落ち着くんだ。殺し屋の黒田のやり口は、有名人も被害に遭ったことで一般的にも知られており、模倣犯の可能性だって充分に考えられる。ただ、延髄に的確に命中させているのを考えると――
『――お前たちに報告することがある』
「うっ……?」
そのタイミングで時空の番人の声が響いたこともあり、肝を冷やした俺は思わず舌打ちするとともに天を睨むのだった……。
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