第34話
「危ないところだったな……」
「……う、うん……」
というか、平野がやたらと恥ずかしそうに俺から目を逸らしてるのでなんでかと思ったら、彼女と抱き合っている状態だったのですかさず離れた。
「あ、ありがとうね、浦間透」
「べ、別に、お礼はいいよ、平野迅華。そりゃちょっとくらいは肝を冷やしたが」
「へえ、あんたでもそういうことあるんだ。てか、絶対中身はフツーのおっさんじゃないでしょ。いくらなんでも冷静すぎよ」
「……まあ、話せるときがきたら話す」
「うん」
彼女は勘の鋭い子だし、いずれはバレると思うので言っても問題ないとは思うが、それでも殺し屋だったことを口にするのは何故か躊躇してしまう。
さて、どれくらいレベルが上がったのか、自分のステータスを確認してみたら、レベル10から16まで上がっていた。それだけ美味しい相手だったってことだ。
「そういえば、シフォンはどこにいるの?」
「ああ、別の場所で寝てるよ」
「別の場所?」
「ここだ」
「わっ……!?」
【異次元ボックス】スキルを使ったことで、周囲の景色が急に変化したから平野がびっくりした様子で周りを見渡していた。
「な、何なのよ、ここ……」
「【異次元ボックス】だ。そういや平野は知らなかったんだったか」
「し、知るわけないでしょ! てか、こんな便利なもの持ってたなら、真っ先にあたしに教えるべきでしょっ!」
「えっ、なんで?」
「じょ、冗談よ。ほんっと、浦間透ってば真面目なんだから……」
「そ、そうか」
確かにそういうところはあるかもしれない。
「みゃぅ……」
「それにしても、シフォンはよく寝てるわね」
「あぁ、それだけ疲れてるってことだよ」
「まさか、手出してないわよね!?」
「はあ? 出すかよ!」
「ふふっ。怒っちゃって、冗談よ冗談」
「あっ……」
俺としたことが、平野のやつにすっかり翻弄されちゃってるな……。殺し屋を引退していたとはいえ、それまでは戦ってばかりだったからこうしたお喋りには慣れてないんだ。
って、そうだ。戦ってばかりという言葉で今思いついたが、この【異次元ボックス】スキルさえあれば、彼女もそれを介して《大蛇の洞窟》の中へ入ることができるかもしれない。
そういうわけで、俺は試しにこのスキルを使った状態でマップをタッチして周囲を窺うと、思った通りそこは捻じ曲がった岩肌が連なる薄暗い場所だった。
「浦間透、さっきからどうしたの? こんな何もない場所でキョロキョロしちゃって……」
「え? あ……」
そうか。周りを見ようと思わないと見られない仕組みだったな。
「平野迅華、この部屋の周りに何があるか見たくないか?」
「へ……? 何があるかって、図書室でしょ? あんなところ、もうトラウマだから見たくないわよ」
「今は別の場所に切り替わってるから、騙されたと思って見てみろって」
「わ、わかったわよ……って!?」
平野が跳び上がるような反応を見せるのもうなずける。周囲が図書室だと思ったら暗い洞窟だったわけだからな。
「な、何ここ……?」
「俺がこの間スマホで手に入れたマップだよ。【異次元ボックス】スキルがあれば、それを介して平野みたいな赤の他人でも入れるみたいだ」
「へえ、便利なのねえ……って、あたしは赤の他人なの!?」
「冗談」
「や、やり返されちゃったわけね……」
「まあそういうことだ。どうだ、入ってみるか?」
「で、でも怖い場所なんでしょ? 幽霊とか出てきそう……」
「幽霊? お化けは出ないが、大きな蛇とならエンカウントするぞ」
「そ、そうなんだ……」
「ああ、そういうわけだから、嫌なら無理にとは――」
「――やるわっ!」
「えっ……」
意外にも、平野は剣を構えてやる気満々な様子。
「あたしね、蛇とか全然怖いって思ったことなくって、むしろ可愛いから好きなほうなのよ」
「……そ、そうなのか。蛇は蛇でもただの蛇じゃないけどな……。で、どっちのスキルに【飛躍】をかける?」
「もち、【武闘家】よっ!」
「…………」
【武闘家】ってことは、【飛躍】を使うと【武神】に変化するはずだから身体が暴走するほうのスキルか。どうやら平野が蛇を恐れてないのは本当らしい……。
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