第33話
図書室に出現したモンスターは透明であり、大きめの音に反応する。
これらの事実を並べたことでもう一つわかったのが、この怪物は意外にも視力に頼れないということだ。まったく目が見えないのかどうかはともかく、すぐ見つかるような場所に隠れている平野が未だに無事でいられるのはそういうことなんだろう。
なので、俺は高く積もった本の山越しに【覗き】スキルで周囲をしばらく注意深く窺ってみると、やがて何かが動いたような気がした。
そうだ、あの場所……何もないはずの宙にありえないものが浮かんでいる。やはり、俺の思った通りだった。
「う、浦間透、そんなはっとした顔してどうしたの? もしかして、何か手掛かりとか見つけた?」
「ああ、見つけたよ。平野迅華。血だ」
「血……?」
「これだけの殺戮行為をしたなら、必ず返り血を浴びているはず。それこそがモンスターの目印ってわけだ」
「な、なるほど……。ゾッとするけどよくわかったわ……」
「俺は今から殺気を溜めつつ、やつのステータスを確認する。平野はそこでじっとしててくれ」
「……ひっく……」
「平野、どうした?」
「……ご、ごめん。あたしって、ずっとあんたに頼ってばかりで……。情けなくって……」
「そんなの気にするな。逆にお前に助けられたことだってあるんだから」
「……う、うん……」
平野は精神的に少し不安定になっているようだ。なんせこういう状況だしな、仕方ない。
俺は改めて、宙に浮いた不気味な血を見失わないように凝視しつつ【魔眼】スキルを使用した。
___________________________
名前 オーガブレイド
レベル 40
サイズ 中型
生命 1
身体 3
精神 1
技能 3
特殊能力
『透明化』『超速斬り』
弱点 眼
___________________________
「…………」
獲物がいないと判断して『透明化』を解除したのか、モンスターの全体像が薄らと浮かんできた。人間の子供サイズの剣の刀身部分にかなり目立つ眼球が一つ付着し、瞬きを繰り返しているのが確認できる。
あれこそが急所なのはステータスを覗いたあとだけによく理解できるが、剣そのものが本体ということもあり、弱点の目以外に命中させたところでダメージはほとんど通らないはず。あれだけ目がでかいっていうのに、そこに留まって獲物を探そうともしないってことは、視力が悪いという意味でも弱点なのかもな。
向こうが動かないのなら却って好都合だってことで、俺は念動弓を構えつつ殺気を溜めていく。狙うのはもちろん、剣の腹にしっかりと埋まっている目玉だ。
「あ、あたしも手伝う――あっ……」
平野がそう声を震わせながら言いつつ、ゆっくりと中腰になって剣を手にしたときだった。緊張のあまり手元が滑ったのか、武器を落としてしまったんだ。その際に発生した硬質な音は、図書室内ではっきりと響いた。これはまずい。
「平野っ……!」
彼女がしまったという顔で剣を拾った直後、俺はその体に覆い被さるようにして飛び掛かった。強めの音を立てたこの場所に留まっていたら危険だと判断したからだ。
「シャシャシャシャシャシャッ!」
「「っ……!?」」
俺たちがそれまでいた場所に聳え立っていた本の山が、シュレッダーにかけられたかのように細切れになって舞い上がる中、紙吹雪の間からやつの赤黒い眼が覗いた。
「きゃ――もっ、もがっ……!」
咄嗟に平野の口を塞がなければ、今度は俺たちが『超速斬り』によってミンチになっていたかもしれない。
「……大丈夫……大丈夫だ……」
自分の言葉に対し、平野が少し経ってコクコクとうなずいたので俺はそこでようやく安堵し、おもむろに念動弓を構え直す。それまで溜めていた殺気は台無しになってしまったが、二人とも無事なら問題ない。むしろ、今ので一層気持ちを引き締めることができた。
「――くたばれ、剣野郎……」
目の前にいる剣の目玉に向かって念矢を放出すると、やつの瞳孔が開くとともにその姿が見る見る消失していった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます