第31話
「みゅ~♪ トール様、ここって、なんだかとっても落ち着く場所ですね~」
「ははっ……。殺風景なところだからどうかと思ってたが、気に入ってくれたならよかった」
「このなんにもない感じが、私には却っていいんです~」
シフォンも【異次元ボックス】を気に入ってくれたらしく、壁をホウキでこんこんと叩いてみせる等、上機嫌の様子でおどけていた。
もしここに平野迅華がいたら、『アイドルのあたしの前でいちゃつかないでよ』っていう台詞とともに怒鳴ってきそうだ……って、なんで俺はこんなところに来てまであいつのことを考えてるんだか。
そういや、異次元という名がつくのに外部の声が聞こえてくるのは、学校自体も異次元の中に閉じ込められてるからだろうかと思ったら、例の悲鳴以降、何も聞こえなくなった。あれ?
その代わりに周辺の様子がわかるようになったことから、どうやらボックスの中で見聞きしたいと思えば、いつでも使用した場所の周辺の様子がわかるようにできてるらしい。ってことは、四方の壁をすり抜けて移動しようとすれば普通にできそうだ。緊急避難にも使えるわけだし本当に便利なもんだな。
時空の番人の声がここまで届くかどうかはまだわからないものの、あれは脳裏に直接響く感じだし、聞こえることを拒むどころか望んでるのでおそらく大丈夫だとは思う。
それと、紙に書かれたイニシャルが残り7名になったところで、浦間をいじめていた黒幕の尻尾が見えてきた。どういうわけか組織的ないじめをやっていた不良グループの一人、2年の小塚ってやつを叩けば埃が出そうだが、まだこっちから積極的に動くつもりはない。
わざわざこっちから動いて警戒させる必要もないからだ。浦間をいじめていたやつらを一匹ずつ始末していることもあって、いずれは黒幕らにこっちの狙いがバレるとは思うが、手の内を明かさないほうがその分焦燥感や恐怖感を味わわせることになるはず。
さて……とりあえず現状を把握するためにも自分のステータスを確認するか。
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名前 浦間 透
性別 男
年齢 17
レベル 10
生命 2
身体 2
精神 1
技能 1
所持装備
ナイフ(改)
手投げ矢(改)
念動弓(改)
所持スキル
【飛躍】【覗き】【魔眼】【異次元ボックス】
所持従魔
『シフォン』
所持マップ
《大蛇の洞窟》
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よしよし、どんどんいい感じになってきている。あのとき、咄嗟の判断で生命を2にしたのは大正解だった。それとやはり、【飛躍】スキルの影響が非常に大きいんじゃないか。これのおかげで何を選択するにせよ、より良いものが一つ追加されるわけだからな。まさにチートスキルってやつだ。
『お前たちに至急、知らせることがある。図書室にモンスターが発生した』
お、時空の番人の声だ。やっぱりここにいても問答無用で聞こえてくるんだな。今回は次元が開いてから、かなり遅れてモンスターが出現した格好だ。今度は図書室か。
「シフォン、そういうわけだから行こうか――?」
「――みゃぁ……」
「ありゃ……」
シフォンはいつの間にか横たわって寝息を立てていた。随分と気持ちよさそうに寝ちゃってるなあ。まあしょうがないか。苦手な蛇のいる《大蛇の洞窟》で精神的にも肉体的にも激しく消耗しちゃったんだろうしな。彼女も連れていこうかと思ってたが、このまま寝かせておいてやるとしよう。
それにしても、こんなところでこうもすぐ眠れるもんだろうかと思って俺も試しに横たわってみたんだが、どうしてなのか即座に理解できた。床は硬くも柔らかくもなく、気温までもがちょうどいいことも相俟って、快適すぎて自分まで寝そうになってしまったのだ。いけないいけない……。
そういうわけで、俺はシフォンを【異次元ボックス】の中に残し、《大蛇の洞窟》アイコンをタッチすることでそこから脱出して単身で図書室へと向かうことにした。
いずれは誰かがモンスターを倒すだろうから放置しても問題ないと思うんだが、強敵を倒せばそれだけレベルが上がる可能性もある。
それに戦闘訓練にもなる上、残り7名のイニシャル連中や例の不良グループがモンスターに殺されるリスクも考えたら、俺が倒したほうがいいという結論に至ったってわけだ。
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