第30話
「な、な、なななっ……? う、浦間、これは一体、なんの真似、だい……?」
「なんの真似だと? 見ればわかるだろう。あぁ、今は俺の手で視界が遮られてるんだったな」
こうして葛城の視界が閉ざされていることで、やつの二枚看板である【先制攻撃】も【瞬殺】も意味を持たない。俺はやつの置かれた状況をわからせるべく、血が滲むほど喉元に強く刃を当ててやった。
「あ、た、タンマッ。ご、ごめん。自分が悪かったから、ね? そんなに怒らないでくれよ……」
やつのしょうもない台詞に噴き出しそうになる。これが怒ってるように見えてしまうのか、こいつには。まあ、いじめられっ子がまかさの反撃に転じた格好だからしょうがないか。
「死にたくなければ質問に答えてもらう。お前は何故俺をいじめていた? 誰に紹介されたんだ?」
「え、え、そ、それは、えっと……。2-Bの小塚ってやつだったかな。そいつが、自分に言ったんだ。3-Aにいる浦間透について、ボスが痛い目に遭わせろって言ったから徹底的にやれって……」
「ボスだと?」
「じ、自分もよく知らないけど、この学校の不良グループのボスみたいで、小塚はその下っ端だって話。このことは絶対に誰にも言うなよって釘を刺されたよ……」
「なるほど……」
不良グループのボス、か……。やたらと大がかりな事態になってきて、これが単なるいじめではないことがはっきりした。おそらく、当時の浦間透が何かのきっかけでろくでもないグループのボスに目をつけられ、2年の小塚とかいうやつを介してヤバい連中が送られた結果、自殺まで追い込まれる羽目になったんだろう。
「――みゃ、みゃあっ、来ますっ!」
「「っ……!?」」
シフォンがそう叫んでからまもなく、一匹の大蛇が猛然と襲い掛かってきた。突然のことで、もう今から何をやっても間に合いそうにない状況下、俺は無条件で葛城を解放するほかなかった。
「「「……」」」
俺たちの前で大口を開けた大蛇がピタリと動きを止め、僅かなときを挟んで横倒しになる。
さすが、【先制攻撃】と【瞬殺】という強力なスキルを持つだけある。葛城にとっても俺を助ける格好になるのは不本意だと思うが、大蛇をここで殺さないと三人とも死ぬわけだからな。
「――うっ……?」
俺は視界が真っ暗になるのがわかった。心臓発作で倒れたときと似ている。葛城の【瞬殺】で俺もやられたってわけだ。
……これが、死か。妙に眠い……。
「フッ……。強者は生き残り、弱者はこうして滅び去るのみ。自分の強さには本当に痺れるし、恋焦がれる。そこにいる君もそう思うだろう?」
「う、うみゃあぁっ! トール様あぁっ!」
「ププッ……。君にとって浦間は異性としては取るに足らない人間でも、ペットのような存在ではあったのだろうね。まあ、そこまで悲しむ必要はまったくないとは思うけどね……」
「こんん……。ひっく……ぐすっ……」
「そんなに泣かないで。あとでたっぷり慰めてあげる。さあ、一緒にここから出よう。自分が皇帝なら、君には皇后になってもらうのだから……」
「……ひっ……」
「んん? どうしてそんなに怯えてるんだい……って、そうか。また大蛇が来るんだね。大丈夫。自分の敵ではないから――ぐはっ!?」
俺は横たわったまま葛城の足を蹴ってバランスを崩してやると、立ち上がるとともにやつの顎に頭突きを食らわせ、あっさり気絶させてやった。
「トッ、トール様!? 生きておられたのですねっ!」
「ああ、こんなこともあろうかと生命に1ポイント振っておいたんだ」
「みゃ、なるほどですっ……あ、そうでした、大蛇がもうすぐ来ます!」
「大丈夫だ」
「こんっ?」
大蛇が現れるとともに、俺たちはその場から消えた。そうだ、あれを忘れてたってことで【異次元ボックス】スキルを使ったんだ。
「――だっ、だじゅげでくれええええっ!」
お、箱の外側から葛城の悲鳴が聞こえてきた。ってことは、大蛇に飲み込まれて目を覚ましたっぽいな。さすがに腹の中からじゃ【先制攻撃】も【瞬殺】も通じないだろうし、詰んだな……。
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