第29話


「――お、そこにいるのは浦間じゃないか。いいところで会えたね」


 鋭い眼光に似合わず、爽やかな笑みを向けてくる男子生徒の葛城。意外というよりも、待ってましたとでも言いたげだ。


「ど、どどっ、どうも……」


 それに対し、俺はいじめられっ子らしくオドオドとした振りをしてみせる。


「驚いたなー。君みたいなよわっちいのが、こんな物騒な場所に来られるなんて思いもしなかった。結構いいスキルとか貰えたのかな? でも、自分に逆らったらどうなるかは、よくわかってるよね?」


「あ、は、はい。えっと、か、葛城……さん」


 少し噛んでしまったものの、葛城は俺に対して一切警戒する素振りを見せなかった。こういうものだ。いじめっ子はいじめられっ子の心を100%支配できていると確信しているし、実際に弱い立場にいる人間にとっては強大なモンスターのように見えてしまうものなんだ。バカげた妄想だが。


「あ、そういえば噂で聞いてたけど、本当に仮装した子と知り合いなんだね。ま、君みたいな雑魚じゃ相手にもされてなさそうだけど……」


「こ、こんっ!? それは違いま――」


「――シフォン……」


 俺はシフォンを見て目配せした。


「……あ、は、はい。私、こんな人、本当は相手にしてません……うみゅぅ……」


 なんとも苦しそうな顔で発言するシフォンだが、咄嗟に相手に合わせたので俺が言わんとすることを理解してくれたようだ。


「やっぱりね。自分もそういうこったろうって思ってたのさ。どうせ女の子の気を引くために壮大な法螺でも吹いてたんだろう。ただの惨めないじめられっ子の分際でね」


「……う、うぅ……」


 俺は泣きそうな表情を作って項垂れた。いじめられっ子がここで憤慨して殴りかかったら不自然だからだ。さて、この葛城ってやつはどんな陰湿ないじめを見せてくれるのやら。


「浦間、悔しいかい? 君は、自分の踏み台になるために産まれたんだよ。前にも言ったね。いかに自分が優れていて、君が劣った存在なのかを力説したはずだ。あのときも君は泣きながら聞いていたけど、思い出したかい? あれこそがこの世の真実であり、勝者と敗者が生み出す鮮やかなコントラストなんだよ……」


「…………」


 なんだこいつ。あれか、言葉の暴力で延々と攻撃してくるタイプか。それにしてもなんかナルシストっぽいから本当に気味が悪い。


「そこにいる子に言いたい。何をやってもダメな浦間と違い、自分は最高のスキルを二つも持っている。だから、自分についてくれば間違いない。自分には皇帝になれる資格があるのだから……」


 まあ、確かに二つともかなり上位のほうのスキルだと思うが、皇帝って……。いくらなんでも自分に酔い過ぎだ。


 一方、こいつにターゲッティングされてしまったシフォンはというと、とある方向を矛先で指し示しつつ、ガクガクと震えていた。どうやら大蛇が迫ってきているようだ。


「フフッ。震えるくらい感動するのもわかるよ。これからは自分が君を守ってあげるからね……」


 ご覧の通り、葛城は大いに勘違いして自分の能力が凄いからだと思ってるようだが。


 だが、こんなやつでも今死なれたら困るってことで、俺は怯えた振りをしつつ大蛇が来る方向を指差してみせた。


「あ、あ、あっちから、何か来るみたいだ……」


「はあ? 浦間は察知スキルでも持ってるのか? 道理でクソ弱くても今まで生き残れたわけだね。ま、自分がなんとかするから問題ない」


 葛城は余裕ぶってるものの、スキルの性能が凄いためかすっかり油断してたみたいだし、やつの背後から来るようだから奇襲で食われてた可能性が高いけどな。


 まもなく大蛇が勢いよく俺たちの前に現れたが、葛城の目前で何もできずにストップしたかと思うと、倒れて消えてしまった。なるほど、【先制攻撃】【瞬殺】と言うだけあって物凄い性能だ。


「はっはっは! どうだい、自分の力は――」


「――そこまでだ」


「うぇっ……?」


 俺はやつの背後に回り込むとともに、その目を左手で覆い隠し、右手に持った剣を喉元にあてがうことに成功した。さあ、拷問タイムの始まりだ……。

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