第28話


「――ふう……」


「す、凄いですっ! トール様っ!」


 シフォンに抱き付かれながらも、俺は三匹目の大蛇を仕留めてみせたところだった。


 ここまで来ると慣れたもんで、シフォンが大蛇を嗅覚で察知したあと、その方向に念動弓を構えて殺意を溜めに溜め、間近に迫ったら射撃するだけだった。少し時間がかかるとはいえ一発で倒せるので、やはりこの武器がいかに強いかってことだ。


 お、スマホの画面を見ると、『おめでとうございます、浦間透さんのレベルが10になりました』という文字が表示された。そういや、一匹で3レベルも上がるから効率がいいと思ってたところだったんだ。


「あ、トール様、レベルが上がったのですね。おめですっ!」


「ありがとう、シフォン」


 さて……10レベルまで到達したってことで、これで念願のステータスポイントを1つ獲得できたわけだが、ステータスは何を上げるべきかな。順当に生命に振るか、あるいは身体か。でも精神や技能も捨てがたいな……。


 って、別にここで振らずに保留することもできるのか。じゃあ今はなんにするか考え中ってことでやめておこうかな――


「――はっ……すんすんっ……」


「ん、どうした、シフォン、また大蛇の匂いがするのか?」


「いえっ、今度は蛇さんではなく、人間さんが一人、ここへ近付いているようです。こんっ」


「人間、か。まあ十中八九、俺を狙ってるやつだな」


 しかも、一人で洞窟内をうろついてるんなら相当に強いスキルを持ってそうだ。


 ってことで、俺はシフォンが矛先で示す方向に【覗き】を使い、対象の姿を確認することに。


 お、いたいた。まだ距離があるので多少ぼやけているが、眼光の鋭い感じの男子生徒が丸腰で歩いてくる。おいおい、こいつはやたらと余裕がありそうだな。天田のようにナックルをつけてるわけでもないし、どこからそんな自信が来るのか。やはり、相当に強力なスキルを持ってるらしい。早速【魔眼】で調べてみよう。


___________________________


 名前 葛城かつらぎ 健人けんと

 性別 男

 年齢 17

 レベル 7


 生命 1

 身体 1

 精神 1

 技能 1


 所持スキル

【先制攻撃】【瞬殺】


 所持マップ

《大蛇の洞窟》


___________________________



「…………」


 こ、これは……所持スキル欄を見ればよくわかるが、滅法危険な相手だ。【魔眼】でスキルの効果を調べてみると、【先制攻撃】は相手を目にした場合必ず先に攻撃が出来、【瞬殺】は相手の顔を把握できる状況で殺すと念じるだけで始末できるんだそうだ。なるほど、こんなスキルを持ってたら武器も必要ないわけだな。


「わわっ……この人、怖いですね……」


「あ、ああ……」


 シフォンが俺のスマホを覗き込みながら呟く。異世界にもこういう端末っぽいのが存在するんだろうか? まあ石板みたいなものならありそうだな……って、そんなことを考えてる場合じゃなかった。今はこの物騒すぎる男をなんとかしないと……。


 しかも、だ。K・Kという文字が例の紙に書かれているため、やつが残り8名のイニシャルのうちの一人なのは確定的だった。


 一気に始末しないとこっちがやられる危険性があるが、拷問する必要性もある相手なので対処が難しいんだ。


 それでも、まったく手立てがないわけじゃなかった。見てろ……。


「あ、あの、トール様、私が囮になりましょうか?」


「いや、やつは俺がなんとかするから大丈夫だ。シフォンは大蛇が近付いてきたら知らせてくれ」


「はいですっ」


 なんせ今回の相手は危険すぎるので、シフォンをタッチして消したり【異次元ボックス】に収納したりすることも考えたが、その間に大蛇が迫ってきたら詰むのでなるべくここに残しておきたかった。


「も、もうすぐです、トール様……」


「ああ、大丈夫だ、シフォン」


 俺は前を向いたまま呟き、子供のように体を震わせるシフォンを宥める。いつ来るかもわからない大蛇に加え、一瞬で殺せるスキルを持つ相手と戦わなきゃいけないという状況だが、どんな苦境に立たされても冷静さを失わないことが肝要だ。

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