第27話


「シフォン、洞窟ダンジョンをゲットしたから、食べ終わったらあとで一緒に入ろう」


「はいっ。もしゃもしゃ……」


 俺はついさっき起きたばかりのシフォンと、焼きそばパンを頬張りつつお喋りしている最中だった。


「何があっても俺が守ってやるからな」


「みゃっ……!? わ、私のこと、そんなに大事に思っていただけるのですね。トール様、なんだか胸がポカポカします……」


「「「「「……」」」」」


 周りからこれでもかと鋭い視線を集めるが、狙い通りだ。自分の台詞はいじめっ子たちを煽り、誘き寄せるためのものでもあるからな。


 その中には、元殺し屋の俺の魂が宿っている浦間透を自殺まで追い詰めた連中、すなわちあの紙に書かれたイニシャルのうちの一人がいる可能性もある。


 それに、もしやつらが罠にかからなかったとしても、洞窟内でレベル上げはできるから問題ない。


「さて、そろそろ行こうか」


「はいっ」


 マップのアイコンをタッチした途端、周囲の景色が仄暗い洞窟の内部に切り替わった。おお、それまで明るい体育館だったこともあって、かなり落差があるな……って、シフォンが青ざめつつ俺の背中に抱き付いていた。


「シフォン、どうした?」


「ご、ご、ごめんなさい。わ、私、蛇さんだけは苦手なんです……」


 あー、そういや、大蛇の洞窟とまでは言ってなかったな。彼女にとっては一番肝心な部分を省略してしまっていた。


「シフォンだけ帰そうか?」


「い、い、いえ、私もトール様のお側にいます! こ、こんこんっ……!」


 シフォンが涙目になりながらも、槍を構えてファイティングポーズを見せる。彼女のこういう勇ましいところは、コヌヌ村で使用人のみじゃなく用心棒を兼ねていただけある。


「で、でもやっぱり怖いので、しがみつかせてくださいっ……」


「…………」


 まあいいか。これなら嫉妬に駆られた連中がさらに手を出しやすくなるかもしれないしな。


「……ぐすっ……。トール様、迷惑をかけてごめんなさい……」


「いやいや、いいんだよ。シフォンが側にいるだけでいいんだ」


「うみゃあっ。そんなこと言われたら、顔から火が出ちゃいます……!」


「ははっ……」


「こ、こんな役立たずな私ですけど、匂いで敵を感知できるので、わかったらお知らせします」


 おお、そりゃいい。シフォンは側にいるだけでも役に立ってくれるタイプだ。


 大蛇の洞窟と呼ばれるだけあって、洞窟内はどこも先が見えないほど大きく曲がりくねり、この上なくジメジメしていてまさに蛇の住処といった様相を見せていた。


「トール様、どうか私から離れないでくださいね……」


「大丈夫だ、ちゃんと俺が側にいるから」


「みゃんっ……。コヌヌ村から離れて少し不安な気持ちもありましたけど、トール様って本当に頼もしいので一生ついてゆきますっ……」


「そ、そりゃよかった」


 そういや、いきなり故郷からシフォンを引き剥がした格好だからな。ホームシックにならずによくついてきてくれると感心してたが、やっぱり内心では寂しかったのか。


「――あっ、あっ……」


「シフォン?」


「きっ……ききっ、来ます、へ、蛇さんが、おっきいのが、む、向こうのほうから……!」


「な、なんだって?」


 シフォンの尻尾や槍の矛先が大きく震える中、俺は【覗き】スキルを使って岩壁のずっと向こうを見やることに。


「っ……!?」


 すると、ほんの一瞬だが道を埋め尽くす銀の鱗のようなものが見えた。シフォンの言う通り、大蛇が曲がった道を猛スピードで進み、俺たちのほうへと向かってきてるってことだ。すぐさま【魔眼】でステータスをチェックする。


___________________________



 名前 ホワイトサーペント

 レベル 29

 サイズ 大型


 生命 1

 身体 3

 精神 1

 技能 1


 特殊能力 なし


 弱点 特になし


___________________________



 あの桁外れの速度だと、身体の3はほぼスピードに偏ってるな。おそらく残された時間は少ないってことで俺は既に念動弓を構えて殺意を溜め始めていた。頼む、どうか間に合ってくれ……。


 これは賭けだった。安全を確保するためにもやつの姿が見えた瞬間打ちたいが、それではまだ殺気が不十分だと思い、俺は目を瞑ると圧がすぐそこまで迫るまで待って念矢を放ってみせた。


「…………」


 なんとも恐ろしいことに、目を開けた時点でやつの糸を引いた牙が目睫にあった。もうダメかと覚悟したが、大蛇は獲物の俺たちを前にしてピクリとも動かず、まもなく横倒しになって消えていった。よかった、なんとか間に合った……。

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