第26話


『お前たちに報告することがある――』


「――はっ……」


 重々しい声が脳裏に響いてきて、俺は目を覚ました。この声は明らかに時空の番人のものだ。上体を起こしてスマホの時計を見ると、朝の4時を大分過ぎたところだった。どうやらそろそろ次元が開く頃らしい。


 俺が今いる場所は体育館の一角で、『夜は避難所としてここを使う生徒が多いらしいわよ』と平野迅華から聞いたので俺とシフォンも利用していたんだ。


 人目の多さが少々気になるものの、逆に犯罪や迷惑行為の抑止に繋がるっていう理屈はよくわかるしな。デスフロッグみたいなモンスターが出現したとしても、人がいっぱいいるからその分ターゲットが分散するし、数でゴリ押しできるので倒しやすくなるという利点もある。


『今回、お前たちにはマップを選んでもらう。草原や洞窟、廃墟や神殿等、様々なものが選べるが、同一の異世界から拝借しているゆえ、重複しているものも多い。しかし被ったからといって無効になるわけではなく、そのマップを共有することになるだけなので安心するように』


「…………」


 なるほどな。仮に自分が草原のマップを選んだとして、岡嶋もそれを選んだ場合、いつでもあの男と草原で顔を合わせる可能性があるわけか。さすがにそれは想像するだけでもゾッとするので、やつと同じマップは絶対選びたくないもんだ。


 時空の番人による説明が終わってまもなく、周りのやつらも起床し始めてスマホやタブレットを取り出し、館内が俄かに騒々しくなってきた。


「……みゃあぁ……」


 ちなみに、シフォンはまだ安らかな表情で眠っている。亜人は人間に比べると眠りが深いようだ。一度寝てしまうとよっぽどのことがない限り起きないみたいだし、何かあったときは彼女のアイコンをタッチして消すことも考えないと。


 お、早速スマホの表示がマップの選択画面に切り替わった。


 マップなんてなんでもいいと思うやつもいるかもしれないが、俺はまったく逆だと考えている。それこそ草原なら果物の成る木があるとかで食べ物に縁があるかもしれないし、洞窟ならレベル上げが捗ったり宝箱を得たりできる可能性があるので、自分の将来のビジョンに合った選択をするべきだろう。


 食堂のおばちゃんが頑張っている現在は、食料がありそうなマップよりもレベルが上がりやすいようなマップを選ぶべきだろうってことで、俺はダンジョン系のマップを探すことにした。


 お、こりゃいい感じだ。人の活動時間から遠い早朝なのが影響してか、選択画面の減り方がいつもより緩やかなこともあり、俺はすぐに目星を付けることができた。よし、これにしよう。


 人差し指で洞窟のアイコンに触れてすぐ、『《大蛇の洞窟》を獲得しました』とのメッセージが画面に表示された。このマップなら隠れられる場所も多そうだし、薄暗いだろうから人に見られないようにレベル上げするのもそこまで難しくないと見たんだ。


 なんせ俺は転生したわけだから中身が違うとはいえ、建前上はいじめられっ子の浦間透なので、いじめっ子を誘き寄せるためにもその設定は順守しないとな。


 お、【飛躍】スキルの影響なのか、洞窟アイコンの横に【異次元ボックス】と書かれたアイコンがあった。なんだこりゃ……?【魔眼】で効果を調べてみるか。


 何々――これはいう範囲系のスキルで、自分の近くにあって分離された物質や生物なら、例外はあるがサイズが大きすぎなければなんでも異次元の箱に収納できるんだそうだ。こりゃまた便利なスキルをゲットしちゃったな。


『大蛇の洞窟→蛇の如く歪曲した場所→異次元の箱』って感じでマップがスキルまで飛躍したっぽい。試しに使用してみたら、正方形の場所に閉じ込められる格好になった。狭くもなく広くもない、暗くもなく明るくもない、そんな不思議な感じのする場所だ。


 ここなら倉庫として使えるだけでなく、避難場所としても最高に安全だし、さらに時空の番人の声が聞こえるなら快適すぎる休憩所といえるだろう。

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