第25話


「……う、あ……?」


 天田は意識がなくなりかけてるのか目が泳いでいたが、このまま寝かせるつもりは毛頭ない。俺はやつの髪を掴むと、こっちがやられたように水中に間抜け面を沈み込ませてやった。


「――ゴッ、ゴポォッ……!?」


 死の恐怖は筋肉を委縮させる。ただでさえ脳が揺れて本来の力を出せなくなっている中、天田にはもう抵抗する力はほとんど残ってない様子だった。


「ゲホッ、ゲホッ……たっ、助けてくれっ……。ぼ、僕が悪かった……」


「本気でそう思うなら質問がある。どうして俺をいじめていた?」


「えっ……そ、それは、カモだったから……ゴポオオォッ!?」


「違う違う、俺が知りたいのはそういうことじゃない。わざわざ、別のクラスにいる俺をいじめるきっかけはなんだったんだ?」


「……ケホッ、ケホォッ……そ、それはぁ、確か、下級生のやつに紹介されて……」


「何? 下級生のやつだと? 名前はわかるのか?」


「そ、それが……大分前のことだから、名前も知らないし顔も覚えてないんだけど、きゅ、急に知らないやつに言われたんだ。『先輩、面白いやつがいますよ。3-Aの浦間透って男、いじめ甲斐があるからお勧めです』って……」


「……そうか、わかった」


 紹介してきたやつは、2年生か、あるいは1年生ってわけか。それ自体が煙幕の可能性はあるものの、少しずついじめの黒幕の正体が見えてきた感じだな。まだまだ朧気ではあるが、ほんの僅かでも前進してるのがわかる。


 ここで確かなことは、黒幕が浦間をいじめるように煽動し、自分の手を汚すことなく仕留めようとしていたってことだ。


 その裏には、一体何が隠されているのか? ただ気に入らないってだけでここまで大がかりなことはしないだろうし、これは俺の勘ではあるが、深く探っていけばあっと驚くような秘密が待っているような気がする。


 ただ、ここで深追いは禁物だ。こういうことをやるようなやつなら狡賢い可能性が高いわけだし、迂闊に近付けばそれこそ警戒されて潜伏されかねないからだ。


 このまま俺が何事もなく生き続けた結果、苛立ちや焦燥感を募らせた黒幕が自ら乗り出してくるのを待つのが理想だ。


「……あ、あのぉ、浦間さん……」


「なんだ、天田。まだ何かあるのか?」


 すっかり縮こまった様子の天田が、声を震わせながらも話しかけてきた。


「ほ、ほ、本当にすみませんでした。ぼ、僕、今まで酷いことをしちゃって……」


「そんなに申し訳ないって思うなら、お前の【武器強化】スキルを俺たちに使え」


「えっ……」


 天田がきょとんとした顔をしている。それくらい咄嗟にひらめいたアイディアだが、利用できるものは利用しておかないとな。


 そういうわけで、【飛躍】スキルを使用すると、やつの【武器強化】が【武器改良】になるのがわかった。どんな効果かというと、一時的に少し上がるのではなく、永久的にかなり強化されるんだとか。思った通りだ。


「みゃあっ、早く使いなさいっ!」


「ひっ……!?」


 シフォンに矛先を向けられた際の、天田の青ざめた顔こそが回答だった。


___________________________


 名前 浦間 透

 性別 男

 年齢 17

 レベル 1


 生命 1

 身体 2

 精神 1

 技能 1


 所持装備

 ナイフ(改)

 手投げ矢(改)

 念動弓(改)


 所持スキル

【飛躍】【覗き】【魔眼】


 所持従魔

『シフォン』


___________________________


 特に念動弓を強化してもらったのが大きかったのか、身体能力が2になっていた。まあ元々が相当に強い武器だからってことだろう。【武器改良】は武器の攻撃力だけでなく、その耐久性も上がるんだとか。


___________________________


 名前 シフォン

 性別 女

 年齢 14

 レベル 16


 生命 2

 身体 2

 精神 1

 技能 1


 所持武器

 狐色のホウキ(改)

 スピアー(改)


___________________________


 シフォンも【武器改良】の影響で身体能力が2まで上がっていた。彼女の場合は元々の身体能力が高いから予想できたことだ。


 それから俺たちはお礼の意味も込めて天田をプールに沈めてやった。この調子で残りの8人も一人ずつ処刑していくつもりだ……。

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