第24話
「なあ、遊び場っていうのはどこにあるんだ?」
「どこなのです?」
「それはねえ、浦間君、それにシフォンさん。ついてからのお楽しみってことでっ」
「…………」
俺とシフォンを3-Aの教室から連れ出した天田は、ニヤニヤと笑いながらごまかすだけで正確な行き先を口にしなかった。まあ遊び場っていうのがどこなのかは近いうちにわかるだろうからいいとして、不可解なことはほかにもある。
それは以前絡んできた桧山やこの男が、別のクラスの生徒だってことだ。俺は昔から観察力や記憶力には自信があるので、3-Aの教室にいる生徒については既に全員の顔を把握済みだ。
3-Aでの自分の立場を見るに、浦間は当然そこでもいじめは受けていたはずで、なおかつこいつらのようなやつがいるってことは、学校のどこへ行ってもいじめられるように誰かが仕向けていたんじゃないか。
つまり、逃げ場を失くして自殺まで追い込もうとしていた悪魔がこの学校のどこかにいるってことだ。
そこまで浦間透に執着する理由は一体なんだ……? とにかく、こういう状況を作り出した黒幕を探し出す必要がある。
あの1枚の紙に書かれたイニシャルの中に必ず黒幕か、あるいはそれとなんらかの繋がりがあるやつがいるはずで、一つ一つしらみ潰しに拷問していくしかない。まずはこいつがそうなのかどうか、目的地へ着く前に【魔眼】で調べてみるとしよう。
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名前
性別 男
年齢 17
レベル 1
生命 1
身体 1
精神 1
技能 1
所持武器
アイアンナックル(強化済み)
所持スキル
【身体能力上昇】【武器強化】
___________________________
「…………」
へえ、そこそこいい感じのスキルを取ってるんだな。【武器強化】でアイアンナックルも強化済みらしい。これと【身体能力上昇】があっても身体が1のままなのは、それだけ1から2までが遠いってことか。
それでも何もないよりはずっと強いはずで、身体能力については1.7くらいあるんだろうし、いじめられっ子の俺に対して自信満々なのもうなずける。怖さはまったく感じないが。
この天田真也とかいうやつがイニシャルのうちの一人か調べてみたら、メモにS・Aとあったので間違いない。拷問確定だ。
「――さあ、浦間君、それにシフォンさん。とうとう着いたよっ。僕たちの遊び場に……」
「こ、ここは……」
「みゃ、みゃあっ……!?」
天田に連れられてきた場所は、沈みゆく夕陽を映した大きな水溜まり、すなわちプールだった。
「キヒヒッ……。ここまで来ちゃったらどうなるか、もうわかるよね……?」
天田の声色が陽気なものから一転して陰気なものに変わった。
「へ、何が……?」
「しらばっくれてんじゃねえ!」
俺は天田に髪の毛を掴まれると、水中に顔を沈み込ませられた。
「ゴッ、ゴポッ……!?」
「ト、トール様っ!?」
「イヒヒッ……。どうだ、苦しいか、浦間ぁ……」
「……はぁ、はぁ……」
水面から引き上げられると、天田が邪悪な笑みを近付けてきた。なるほど、こうやって表向きでは友達面をしつつ、裏では豹変していじめをやっていたのか。シフォンが怒りの形相で槍を構えていたが、俺は首を横に振ることでそれを制した。まだこいつには聞きたいこともあるからな。
「ヒヒッ。苦しそうだなぁ。浦間、お前さ、スマホで何か獲得したもんがあるだろ。いつもは金を巻き上げるところだが、この状況じゃケツを拭く紙にもなりゃしねえし、いいものがあったら寄越せや。な?」
天田はこうして遊び場と称してプールへと浦間を連れていき、金品を脅し取ってたみたいだな。一歩間違えれば溺れ死ぬし、さすがは浦間を追い詰めたイニシャルのうちの一人なだけあって悪質極まりない。
「どうした、クソ浦間、何黙ってんだ。僕が貰うのはここにいる女の子だけでもいいけどよ、まだあんだろうがよ!?」
こりゃたまげた。天田のやつ、もうシフォンを貰った気でいたらしい。さて、もういいだろう。この辺でこいつを仕留めにかかるとしよう。
「ああ、わかったよ、天田君。大切なものをあげるよ」
「どれどれ――うごっ……!?」
興味深そうに顔を近付けてきた天田の顎に、俺の大切な拳――寸勁――がまともに命中した。
至近距離で力むことなく腰を入れてこれを繰り出すには、相当な鍛錬が要求される。それでも、身体能力に依存しない打ち方なので今の俺には合ってるんだ。
この場合、命中する瞬間に捻りを加えるタイプの正拳突きでも構わない。顔を背ける暇もなく顎にまともに当たるので、威力が低かったとしても脳が揺れる格好になるからだ。
「お、お、おごぉっ……?」
それでも簡単にぶっ倒れないのは、さすが【身体能力上昇】スキルを持っているだけある。さて、拷問開始といくか……。
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