第23話
「「「「「……」」」」」
黄昏時の3-Aの教室へ俺は舞い戻ってきた。
それまで騒めいていた教室が静かになったのは、自分がシフォンと一緒に入ってきたからだろう。
『例のオタク仲間だ』、『ケモっ子可愛い』、『羨ましい』、『いじめられっ子の分際で生意気』、予想通りにそんな声が聞こえてくる中、俺はシフォンを机の上に座らせる格好で席に着いた。普通なら先生に注意されるような行為だが、今はこういう状況だから問題ない。
「みゃあっ♪ ここがトール様の通う教室なのですねー」
「ああ。教室って賑やかだろ」
「はいっ」
別にこういう状況でも、俺をいじめようとする連中は躊躇しないどころか、却って陰湿にやろうとしてくるはず。だからこれはある意味挑発行為というわけだ。以前と違い、今の自分には対抗できる力があるからできることだった。シフォンも喜んでるし良いことしかない。
「「「ぐぬうぅっ……」」」
なお、岡嶋と取り巻きの佐藤、田中は悔しそうにこっちを見やるだけだった。やつらはシフォンの強さを知ってるがゆえに迂闊に手を出せないだろうし、それを周りに言いふらせば自分たちがやられたことになるから恥ずかしくて口に出せないって寸法だ。
それでも、いじめられっ子の俺がガールフレンドを連れてきたのがよっぽど衝撃的だったのか、徐々に俺に関する悪口が増えていった。
「アイドルと最底辺の浦間が共存する教室ってここくらいじゃね?」
「それな」
「共存っていうか、いじめられっ子のクソ浦間が寄生してるだけだろ。あいつに関わるやつはみんな不幸になる」
「だねえ。あの子も可哀想。どうせ変態陰キャの浦間に頼まれて、嫌々ああいう格好をしてるだけなんでしょ」
「うわ、それって最低……」
「こ、こんっ!? あなたたち、トール様に向かって、何を――」
「――いいんだ、シフォン」
「で、でも、トール様、このままじゃ腹の虫が治まりませんです……」
「大丈夫。これでやっつけてやるから」
「「「「「うっ……!?」」」」」
俺は机の下で念動弓を使い、悪口を言ってきたやつらに念矢を命中させてやる。さほど殺気を溜めてないから死ぬことはないが、しばらく息ができない程度には苦しいはずだ。連中の不細工なしかめっ面を見ればわかる。しかも矢が見えないので俺の仕業だとはわからないだろう。
「こんこんっ♪ ざまーなのですっ」
「ナイスッ」
お、平野迅華がしたり顔でこっちに親指を立ててきた。そういや俺の味方には念矢が見えるんだったな。
それからほどなくして、ゾロソロと教室から生徒たちが出ていった。おそらく夕ご飯を食べに食堂へ向かったんだろう。
食堂は現在、【威圧】スキルを持つ給食のおばちゃんによってきっちり管理されている状況だ。なので、何か余程のことでも起きなければあと一カ月くらいは持つというのがおばちゃんの見立てだった。
とはいえ、モンスターの出現による混乱で一気に失われる懸念もあるし、その間に時空の番人によってスマホやタブレットで食料の配布等がされればいいんだが。
ん、男子生徒が一人、親し気な笑みを浮かべながら近付いてきた。見覚えがないしこのクラスのやつじゃないっぽい。
「やあ、浦間君。僕だよっ」
「…………」
誰だよと内心突っ込むも、もしかしたらいじめている連中、その中でもイニシャルの一人かもしれないので、油断させるべく下手に出ることに。
「は、はい。なんでしょう?」
「そんなにビビらないでよ、浦間君。あと……そこの君、可愛いね?」
「はあ、一体誰ですか、あなた?」
「僕はね、浦間君の親友の
親友だと。自分で言うか? 大人しそうな見た目だが、なんとも胡散臭いやつだな。
「こんっ? そうなのです?」
「そそ。だから、僕たちと一緒に遊ばない?」
「トール様、どうします?」
「ああ、行ってみるか、シフォン――」
「――へえ、その子シフォンっていうんだ。しかも浦間君、やたらと慕われてるみたいだしマジ羨ましい。んじゃ、僕らの遊び場へ出発進行っ!」
「…………」
天田という男についていく中、ほんの微々たるものだが俺に対して殺気のようなものを感じた。これで、こいつが残り9名のイニシャルのうちの一人である可能性がぐっと高まってきたな……。
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