第22話


「トール様、さっきはとっても格好よかったです! こんこんこんっ♪」


 横たわった不良どもの前で小躍りする狐の亜人シフォン。中々シュールな絵だ。


 俺が放った念動矢は自分か味方しか見えないため、周りからは連中が勝手に倒れたように見えるだろうな。


『――お前たちに報告がある。屋上にモンスターが出現した』


 お、例の声が聞こえてきたと思ったら、悲鳴とともにブウゥンという不快な音が耳を突いた。


「こ、これは……」


「みゃあ……おっきいです……」


 俺たちが見上げた先には、人間の大人サイズの真っ赤なハエが浮かんでいた。


 おいおい、まさか俺たちのすぐ近くに出現するとは……。とにかく、まずは【魔眼】でやつのステータスをチェックしなくては。


___________________________



 名前 レッドフライ

 レベル 32

 サイズ 中型


 生命 1

 身体 4

 精神 1

 技能 1


 特殊能力

『自然治癒』『飛行』


 弱点 特になし


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 特に弱点といえるものがないのか……。『自然治癒』があるってことはダラダラ攻撃してもダメってことだろうし、こりゃ厄介だな。


 多少のリスクを背負ってでも、一気に攻め立てなきゃいけない、そんな覚悟が必要なモンスターだ。こうしてる間にも、やつは『飛行』が特殊能力なのもわかるくらい異常な速度で縦横無尽に飛び回り、生徒たちに体当たりすることで次々と屋上から突き落としていた。


「シフォン、すまないが俺が念動弓で狙う間、囮になってくれないか?」


「了解ですっ!」


「ブウウゥンッ」


 レッドフライが早速シフォンに狙いを定めたが、さすがは狐の亜人ってだけあって身軽な動きでギリギリのところで回避していた。


 その間、俺はひたすら殺気を溜めて念矢を強化することに集中する。もし一発で仕留められなければ、やつは怒りに任せてこっちへ向かってくるはずで、俺はシフォンのように俊敏ではないので避けられずに詰むだろう。


 レッドフライは身体が4もあるってことで、タフさもあると考えると倒すには相当な威力が必要なのは明白だ。


 念矢が目に見えて大きくなってきたが、まだだ、もっと強化しなければ――


「――ブウウゥンッ」


「みゃあっ!?」


「あっ……」


 巨大蠅の体当たりがとうとうシフォンに命中してしまった。


 大きく吹き飛んだかと思うと立て続けに追撃を受け、地面に叩きつけられて血が滲んでいく。クソッ、ありゃどう見ても重傷だ。モンスターはとどめを刺そうと急降下しているが、ここでもし念矢を放って倒せなければ共倒れだってことで、手投げ矢のほうを投げた。


「ボウッ……?」


 それが赤蠅の体に命中し、空中で一旦停止して振り返ってきたのち、こっちへ猛然と飛行してきた。その間にも俺は殺気によって矢を膨らませていたが、もしこれで倒せなければ終わる。


 なのでギリギリまでやつを引き付けて、目睫まで迫ったところで俺は念矢を放った。


「ヴアアアアアァッ……?」


 巨大な矢によってやつの体が砕け散っていく……と思ったら、寸前のところで見る見る再生していった。


 例の『自然治癒』っていう特殊能力だ。ここから殺気を溜めても無駄だろうし、終わりなのか……? いや、最後の最後まで諦めるわけにはいかない。俺はナイフを振り回し、最後まで足掻くことにした。


 だが、それでも到底追いつきそうになかった。俺の今の力では、巨大蠅の異常な回復速度には――


「――ヴォアッ!?」


 そんなときだった。背後からシフォンの槍がやつの体を一瞬で何度も貫き、見事打ち砕いたのだ。


「トール様、間に合いましたっ!」


「シフォン、生きてたのか、よかった――」


「――いえ、一度死にましたよ?」


「えっ……?」


 まさかと思って俺は彼女のステータスを【魔眼】で確認することに。


___________________________


 名前 シフォン

 性別 女

 年齢 14

 レベル 16


 生命 2

 身体 1

 精神 1

 技能 1


 所持武器

 狐色のホウキ

 スピアー


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 なるほど、生命が2だったのか。つまり、レッドフライに体当たりされたときに死んだけど、すぐ復活してリベンジしたってことなんだな。


 彼女は亜人なのに身体能力1ってのが意外だが、1は1でも1.9くらいはありそうな感じだ……。

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