第21話


「こんんっ♪ トール様~、ここはとっても見晴らしがいいですね~」


 シフォンが興味深そうに周りを見渡している。


 俺たちは学校の屋上までやってきたところだった。ここなら開放的だから亜人のシフォンが喜ぶと思ったし、空中を含めた広いスペースもあるので新しくゲットした武器――念動弓――を思う存分試せそうだからな。


 とはいえ自分と同じことを考えたのか、トマホークやブーメラン等の遠距離武器を手にしたほかの生徒たちの姿も見られたが、彼らの邪魔にならないように手すりから外側に向けてやればいいことだ。


「さあ、シフォン。早速例のやつを試してみるぞ」


「はーい!」


 普通に矢を射るようにして放つと、限りなく透明に近い念矢が輝きながら飛んでいった。思っていた以上の速度で木々を貫通し、空高く上昇して何度か旋回したのち消えた。


 イメージ通りに矢が飛んでいくからこれは便利すぎる。スピードに目が慣れてきたら自由自在に扱えそうだな。シフォンも楽し気に目で追いかけてたし、自分と味方しか見えないっていう説明通りだ。


「はあ、いいなあ……。トール様、私もホウキ以外の武器が何か欲しいです」


「ん-、次で何か手に入ったらシフォンに渡すよ」


「みゃあっ♪ それは楽しみですっ――」


「――随分といちゃついちゃって。お熱いことねえ」


「「あっ……」」


 聞き覚えのある声がして振り返ると、腕組みした平野迅華が不満そうに立っていた。


「お熱いって、お前なあ。冷やかしに来たなら帰れよ」


「ふんっ、言われなくても帰るわよ。でも、その前に恩を返さないとね」


 平野がスマホを操作したかと思うと、その手元に槍が現れた。


「はい、シフォン、あんたにこれあげる」


「こんっ!? いいのですか、ジンカ様……?」


「いいわよ。あたしには剣があるんだし。槍を手に入れたけど、いらないからあげるってだけ。それじゃ、邪魔したら悪いから行くわね」


「いや、別に邪魔じゃないし、ありがとうな、平野」


「ありがとうですっ」


「ふんっ。どうせ今のあたしは足手纏いよ。でもね……これで終わらないんだから。強くなったら、また戻ってきてあんたたちの仲を引き裂いてやるんだからっ」


「お、おい……」


 平野はそう言ってすぐ走り去ってしまった。なんなんだあいつは……。


「ジンカ様は、トール様のことがとっても気になるようですねっ」


「えっ……気になる?」


「くすくすっ。トール様ってお強いのに鈍感なのですね。ジンカ様には悪いですけど、私もそう簡単にご主人様は渡せません……!」


「お、おいっ、シフォン……?」


 シフォンが茶目っ気たっぷりな笑顔で腕を組んできて、俺は思わず倒れそうになった。やっぱり亜人だからか力があるなあ。


 ん、なんだ? 髪を明るく染めた連中が、厳めしい顔をしながらこっちへ近付いてきた。


「よぉ、そこの僕ちゃん、可愛い彼女いるじゃーん」


「ちょっとだけでいーから俺らに貸してくんねえ?」


「お名前なんてーの? 狐耳かわいーね」


「こんこんってか? オタク趣味ってやつ?」


「ねね、そんな陰キャ君より俺らとあそぼーよ」


「わ、わわっ……」


 男子生徒たちに囲まれて戸惑った様子のシフォン。


「…………」


 なるほど。つまり、不良たちがオタク男子からオタク女子を取り上げようっていう構図か。


「「「「「へへっ……」」」」」


 もう連中はシフォンを自分のものにしたかのような、そんな喜悦に満ちた表情をしている。


「お前ら、ちょっと待て」


「「「「「あぁっ……?」」」」」


 やつらは待ってましたとばかり、制止した俺を取り囲むと変顔になって凄んできた。手慣れたやり口だと思うが、俺は笑いを堪えるのに必死だった。きっと今までこうして半グレ気分で弱者を脅しては金品を巻き上げてきたんだろう。


「おい、まさか僕ちゃん、俺らと遊びてーの?」


「ワンパンで沈めてあげよっか?」


「それとも、屋上から紐なしバンジージャンプやってみっか?」


「警察呼べないの理解してるぅー?」


「そういうこと、オタク君。彼女ちゃんもすぐ返してやるから大丈夫だって。ちょっと性欲処理に使うだけだし」


「そーそー!」


「なんなら俺たちがヤってるところ見てくか? 興奮すっだろ?」


「「「「「どっ……!」」」」」


「…………」


 俺はやつらが好き勝手に言葉を並べる中、【魔眼】でイニシャルと一致しないか調べてみたが、この中にはいなかった。どうやら俺をいじめていた連中とは無関係で、シフォンに欲情しただけらしい。


 さて、それならとっとと終わらせてやろうってことで、殺気を浴びせてやる。


「ぎっ……?」


「な、なんだ、動けねえ……」


「お、おい、こいつの目見ろよ、人殺しの目だ……」


「ひいぃっ。う、う、嘘だろ……」


「い、い、嫌だ。まだ死にたくねえよ……」


 やつらは揃って動かなくなり、念動弓の格好の的になってくれるようだった。まだ生物には試してなかったのでちょうどいい。こいつらなら死んでも問題ないだろう。


「「「「「――ぐぎゃああぁぁっ!」」」」」


 効果覿面だったらしく、念矢で土手っ腹を貫かれた不良どもの悲鳴が響き渡った……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る