第18話
「…………」
真っ暗だった保健室の中がほんのりと明るくなってきた頃、俺は朦朧とした意識を徐々に覚醒させていった。スマホを取り出して時計を一瞥すると、もうすぐ朝の五時になろうとしているのがわかる。
あれから時空の番人の出番もなく、生徒たちがたまに前の廊下を行き来するだけで何も変化は起きなかった。
よく寝ているシフォンを起こしたくないので、俺は彼女のアイコンをタッチして消し、保健室をあとにすることにした。
もう腕の火傷や体中の打撲は井上先生のスキルのおかげですっかり治ったし、平野迅華とは一定の距離を置くべきだと判断したんだ。岡嶋が襲撃してきたのも、自分が平野と一緒に保健室にいること自体が許せなかったんだろうしな。
いじめられっ子がクラスのアイドルを庇って怪我をした、なんてことはいじめっ子たちには絶対に認めたくない事実のはずで、きっと俺が下心丸出しで一方的にやったことだと思いたいだろうから離れるなら今のうちだ。
少しでも俺と仲が良いなんて思われたら彼女に累が及ぶ。一緒に行動するとしたら、お互いにもっと力をつけてからのほうがいい。
さて、これからどこへ向かおうか……? 多分、今頃俺について色々と噂されてるだろうし、こういう状況下で逃げ隠れすると連中の凶暴性がより増す可能性がある。というわけで、俺は単身で3-Aの教室へ乗り込むことに。
「「「「「……」」」」」
ほどなくして俺が教室へ足を踏み入れると、明らかに注目を集めるのがわかった。自分の席へ向かう途中、ヒソヒソどころかわざと聞こえるように色んな台詞をぶつけてきた。
「あ、いじめられっ子の浦間のやつだ」
「わざわざ戻ってきて笑える」
「なんかあいつ、噂だけどガールフレンドできたらしいな」
「狐耳つけてたやつ?」
「そそ!」
「ないない。本当に一緒にいたとしてもただの陰キャ友達でしょ。一方はいじめられっ子だし、異性としては見られてなさそう」
「それな」
「平野さんを庇ったみたいに言うやつもいるけど、ただ単に浦間が足引っ張っただけだろ」
「「「「「ププッ……」」」」」
「…………」
これらが、着席するまでに俺が浴びた罵声群だ。どうやら、いじめられっ子の俺が平野に気に入られるためにやったことで、結果的に余計なことをして二人とも怪我をした、足手纏いになったみたいな見方をされているらしい。
随分と都合のいい見方だなと突っ込みたくもなるが、まあこれでいい。もしここで誰もが認めるような結果を出してしまったら、俺をいじめていた連中が警戒して寄ってこなくなるかもしれないしな。それも、例の紙に書かれた10名のイニシャルの持ち主たちが。
このイニシャルの中には、俺に対する凄惨ないじめを作り出した黒幕、あるいはその正体を知っているやつがいるかもしれない。
だから、今後は一匹ずつ誘き出して拷問を加え、何故浦間をいじめるのか、その理由を問いただしてから処刑するつもりだ。ちなみに、岡嶋たちは例のイニシャルの中に入ってないから違う。やつらは嫉妬心を拗らせてやってるだけだろう。
「よー、透ちゃん」
「ん?」
そこで俺に声をかけてきた男子生徒がいた。誰かと思ったら梶とかいうやつだ。また冷やかしに来たのかと警戒したが、どうも様子が違う。
「例のやつがお前に話があるってよ。裏庭で待ってるからすぐ来いってさ」
「……例のやつ?」
「ま、知らない振りをしたくなるのもわかるぜ。お前もあんなやべーのに目をつけられて気の毒にな。知ってると思うが、やつの凶暴性は岡嶋以上だから気をつけろ。下手すりゃ殺されるかもよ。こういう状況じゃ警察とかこねーわけだしよー」
「…………」
憐れむような視線を向けつつ、梶は俺の肩をポンポンと叩いて去っていった。あんなやべーの、か。それも岡嶋以上ってことは相当にヤバいやつってことだよな。もしかしたら、10名のイニシャルのうちの一人なのかもしれない。それなら行ってみる価値は凄くありそうだ……。
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