第17話
「…………」
ふと目を覚まして時計を確認したら、夜の11時を少しばかり過ぎたところだった。
その際、保健室の向こう側を【覗き】スキルで確認したところ、それまで殺気立った様子で扉の前でたむろしていた生徒たちがいなくなっていた。
おそらく大半はあきらめたんだと思うが、まだ油断はまったくできない。というのも、岡嶋のような特にしつこい輩が夜襲を仕掛けてくる可能性があるからだ。
それこそ、スキル→武器→スキルと続いてる状況だから、どんな手を使ってでも平野迅華をものにしようとやつが企んでもなんらおかしくはないしな。
当然、その際は俺が平野を独占していた敵として狙われることになるだろう。相手が素人とはいっても、彼女のような強力なスキル持ちが一人でもいれば局面が変わってしまうことを考えれば、一瞬の判断ミスが命取りになりそうだ。
「――浦間透、起きてる?」
「平野迅華……だから寝てろって」
「だって、あたしが寝てる間になんかされるかもしれないし」
「お前なあ、自意識過剰なんだよ」
「冗談に決まってるでしょ。何怒ってるのよ」
「怒ってない。何かあったときのために集中してただけだ」
「……ふーん。あたしも協力してあげよっか?」
「断る」
「……言うと思った。わかったわよ、寝てればいいんでしょ、寝てればっ」
「…………」
平野はまた眠ってしまった。寝るの早いな……って、物音がしたので【覗き】で様子を見たら、斧を持った岡嶋が扉の前で立っていた。てっきりもっと遅くに来るかと思ったが、待ちきれなかったか。それにしても、たった一人で来るとはな。これは意外だ。
部下たちに逃げられたか、あるいは一人のほうが気付かれにくいと判断したのか、どっちかはわからないが、俺がやることは変わらない。まずは【魔眼】でやつのステータスを確認してやるか。
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名前
性別 男
年齢 17
レベル 1
生命 1
身体 1
精神 1
技能 1
所持武器
ツーハンドアックス
所持スキル
【戦士】【自然回復力向上】
___________________________
「…………」
なるほど。緊張も覗かせているものの、やつの顔に自信が漲ってるように見えるのは、この【自然回復力向上】というスキルがあるためか。調べてみると格段に上がるらしいし、小さな傷を負ったとしてもすぐに元に戻るってことだろう。それなら逆にこっちも変に手心を加えることなく暴れやすい。
俺は毛布を被って横たわった振りをしつつ、いつでも応戦できる準備を整える。消灯してるが真っ暗というわけでもなく、顔は隠してないので浦間であることはわかるだろう。まもなく、鍵が壊されるような鈍い音がして岡嶋が侵入してきたのがわかった。
「――フー、フー……」
相当に興奮しているのか荒い息遣いが聞こえてくる。ほんの僅か、目を開けて様子を見ると、やつが俺を見下ろす格好で斧を振り上げたところだった。
やれるものならやってみるがいい。殺してやると思うことと実際に行動に移すのではまったく難易度が違うがな。
「ぢ、ぢくじょう、何を迷ってるんだ、俺。こいつを殺せ、殺すんだ。そして、平野さんを俺のものにしてやるんだあぁ……」
「…………」
中々斧を振り下ろしてこない。このままじゃ埒が明かないし、こっちからいくか。
「ぶぁっ!?」
俺は転がるとともに足をかけ、岡嶋を転ばせてやるとやつの頭上に毛布をかけてやった。
「ち、畜生、何も見えねえぇっ……!」
岡嶋は毛布を被ったまま保健室を飛び出していった。そこで灯りがつけられたので、俺は即座に横たわって寝た振りをする。
「ういー、何事だあー? 不純異性交遊は、独身の私が嫉妬するからダメだぞー」
「…………」
「なんだ、喧嘩でもやったのか? ひっく……。ほどほどにしろよー」
井上先生の酔っ払った声が聞こえてきたかと思うと、すぐまた奥に引っ込んでしまった。喧嘩程度ならモンスターの襲撃に比べたら大したことじゃないと思ったんだろう。まあ酔ってるのもあるだろうが、こんな状況じゃ感覚が麻痺してもおかしくはない。
「浦間透、あんたって、おっさんはおっさんでも絶対ただのおっさんじゃないわよね」
「……平野迅華、起きてたのか」
「そりゃ、あんな物音したら起きるでしょ! シフォンは寝てるみたいだけど」
「…………」
本当だ。座ったまま寝てたのが、いつの間にか狐色のホウキを枕にして気持ちよさそうに寝ている。それだけ疲れてたってのもあるんだろうが、岡嶋程度じゃ敵として認識できなかったのかもな。
「ねえねえ、浦間の前世って、どんな仕事してたの?」
「…………」
「あ、ずるい、寝たふりしちゃって。こうなったら抱き付いてやるんだから!」
「……お前な、なんでそうなる」
「あ、起きた。そんな怖い顔しないでよ」
「世の中、知らないほうがいいこともある」
「あっそう。じゃああたしも床で寝る!」
「……勝手にしろ」
俺はそれからしばらくの間、平野がスヤスヤなのとは対照的に何故かまったく眠れなかった……。
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