第15話


「「「「「――ザワッ……」」」」」


 俺と平野迅華が駆けつけたとき、体育館内はなんとも異様な緊張感に包まれていた。


「あ、あれは……」


「う、嘘……」


 うずたかく積まれた跳び箱の、およそ3倍はあろうかという巨躯の蛙が中央に座しており、眼球や喉をグルグルと動かしていたからだ。


 なのに混乱した様子があまり見受けられないのは、この状況に生徒たちが慣れてきたっていうより、それだけ胆力のある連中が集まっているってことなのかもしれない。


 スマホで獲得したものがスキル→武器→スキルと続いているだけに、迅華みたいにヒーローになろうとしているのか、あるいは色々と試そうとしているんだろうか。


「す、すごっ。怖いけど、あんな大きな蛙、あたし初めてっ……!」


「平野迅華、お前なあ、声を震わせながらも弾ませるな。遊園地の絶叫マシンじゃないんだぞ」


「ご、ごめ……って、そ、そんなのわかってるわよっ!」


 本当にわかってるのかどうかは置いといて、まずあのモンスターに【魔眼】を使って調べることに。


___________________________



 名前 デスフロッグ

 レベル 21

 サイズ 大型


 生命 1

 身体 3

 精神 1

 技能 1


 特殊能力

『舌伸ばし』『酸攻撃』


 弱点 舌


___________________________



「…………」


 なるほど、やつの弱点は舌か。つまり、特殊能力の『舌伸ばし』を使ってきたときに勝機が生まれるわけだな。


「ちょっと、浦間透っ! 早くしなさいよねっ!」


「え、ああ、【武闘家】に【飛躍】をかけるんだったか」


「わかってるなら早く頂戴っ!」


「ちょっと待て。シフォンを呼び出してからだ」


 俺は狐耳少女のアイコンをタッチして呼び出した。


「こんっ? あ、トール様にジンカ様ー」


「シフォン、迅華と一緒にあのでかい蛙と戦ってくれ。やつの弱点は舌だが、『舌伸ばし』や『酸攻撃』をするみたいだから気をつけてほしい」


「はいです~」


 そういうわけで、早速迅華の【武闘家】スキルに【飛躍】を使う。


「わっ……!? す、凄いわ! 何この速さっ!」


 尋常ではない、とはまさにこのことか。最早、彼女が自分で制御できないんじゃないかと思えるほどの速度だった。


「ちょ、ちょっと、止めてよ!」


「お前な……散々使えって言ったくせに、今度は止めろってなんなんだよ」


「だ、だってえ……!」


 この際だからどんなスキルに変化したのかを確認するべく、【魔眼】で彼女のステータスを見ることに。


___________________________


 名前 平野 迅華

 性別 女

 年齢 17

 レベル 5


 生命 1

 身体 1

 精神 1

 技能 1


 所持武器

 ロングソード


 所持スキル

【剣士】【武神】


___________________________



 お、レベル5になってる。そういやあの一角獣を一人で倒したからか。ただレベル10にならないと1ポイントも得られないのは厳しいな。


 それと、【武闘家】が変化したものが【武神】なのか。こりゃ強そうだ。ただ、ステータスには反映されてないっぽいがあまりにも身体能力が上がりすぎてコントロールできなくなってるみたいだ。


「迅華、制御できないならしばらくじっとしてろ!」


「そ、そうしたいけど、多分ずっとは無理!」


「どういうことだ?」


「なんか、体が異様に熱くなってきて、無性に動きたくなっちゃうのよ!」


「な、なんだと……」


 なるほど。【狂剣士】は心が暴走するのに対して、【武神】は体が暴走する効果ってわけか。


「シフォン、なんとか倒してくれ!」


「はいっ!」


 シフォンが蛙のお株を奪うような跳躍力で跳び上がり、ホウキで打撃するもののカンカンという硬質な音が響き渡るだけで、ダメージが出てる様子はまったくなかった。


 デスフロッグの身体能力の3は、それだけ防御力が高いことを意味してるんだろう。やはり弱点の舌を狙うしかなさそうだが、喉を動かしながら周囲を見回すだけで何もしてこないので不気味だった。


 ほかの生徒らにしても、弓矢や槍で攻撃してるやつはいたが、やはり通用してる感じはない。


 それでもデスフロッグが視線を合わせようとすると、生徒たちがすぐにその場から移動していた。シフォンも然り。何かされるんじゃないかと嫌な予感を覚えてるんだろう。


「――も、もうダメッ!」


「はっ……」


 迅華がデスフロッグ目がけて突進していったかと思うと、そのまま腹にぶつかって倒れ込んでしまった。蛙もその巨体がぐらついたが、視線をしっかりと合わせられている。まずい。


 ビッグサイズの蛙が口をあんぐりと大きく開け、平野迅華に向かって何かを吐き出そうとしていたとき、既に俺は走り出していて彼女の体を抱えたところだった。


「ぐっ!?」


「トール様あぁっ!?」


 シフォンの叫び声とともに、左腕に激痛が走った。上腕部分の服が溶け、皮膚が真っ赤に腫れ上がってる。


 見ると、さっきまで平野がいた場所に穴が開いてしまっていた。これが『酸攻撃』ってわけだ。だが、災い転じて福となすという言葉もあるように、これはチャンスでもある。


「シフォン、これをっ!」


 平野の持っていた剣を左手でシフォンに投げると、俺はデスフロッグの瞳をじっと見つめた。


「来い、間抜けな蛙野郎!」


「ヴォッ……ヴォオオオオオオォッ!」


 モンスターが怒り狂った様子で体色を赤く染め上げると、再び大口を開けて今度は舌を伸ばしてきた。


「今だ、シフォン!」


「は、はい!」


 やつの舌が俺に巻き付いて食らおうと持ち上げたそのタイミングで、高く跳び上がっていたシフォンが根本から舌を一刀両断にしてみせた。


「ヴァアアアアアァァァァッ!」


「…………」


 デスフロッグの体が消失し、俺は落下して倒れ込んだものの、咄嗟に受け身を取ったので痛みはあまりなかった。よし、なんとか上手くいった……。

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