第12話


 あれから何事もなく一日が過ぎ、あくる日の朝になった。


 どうして何もなかったのかわかるかっていうと、時空の番人から知らせが来た場合、直接脳内に響くような感じなのですぐに気付くはずだからだ。


 それにしても、一角獣ショックの効果も次第に薄れてきたのか、疎らではあるが生徒の姿がグラウンド内で見られるようになってきた。


 こうなってくると、ここも堰を切ったように人が増え始めるだろうし、岡嶋みたいな変なのに目をつけられる前に休む場所を考えなきゃな。殺すとなれば一切躊躇しないが、不必要な殺人はできるだけ避けたいというのが本音だ。


 さて、これからどこへ行こうか。ここより安全な場所は――いや、待てよ?


 こういう大変なときだからこそ、逃げ回らずに自分のホームである3-Aの教室へ帰還するべきじゃないか?


 岡嶋ら、いじめっ子たちも当然いるかもしれないが、向こうもいじめられっ子がまさか戻ってくるとは思わず面食らうだろう。


 それに教室は人目だって多いし、どんなに殺意があったとしてもいざやろうとなればためらいが生じるはず。


 そうして上手く時間を稼いでいれば、いずれは次元が開いたっていう知らせが届くはずだし、そこで良いものを獲得してさらに自身を強化していけばいい。いざってときはシフォンを呼び出せばいいわけだしな。


 そういうわけで、俺は早速本来の居場所へと向かうことに。




「…………」


 目的地の教室がすぐそこまで迫ってきて、緊張するのも阿保らしいので自然な感じで中へ入ると、あまり注目されることはなかった。よしよし、こんな状況だしいじめられっ子に構ってる暇なんかあんまりないんだろう。


 ただ、俺が席に座った途端、こっちのほうを見て教室から飛び出したやつが一人いた。あいつは見覚えがある。確か、岡嶋の取り巻きの佐藤ってやつだ。


 やがて、ボスの岡嶋が佐藤とともに駆けつけてくるなり、凄い形相で睨みつけてきたが、たったそれだけだった。


 俺が戻ってきてるだけでなく、あまりにも堂々としてるのが意外だったせいか、思っていた以上に手を出し辛そうなのだ。その上、やつが好いている平野迅華の姿もあるから余計にだろう。


 だが、岡嶋らいじめっ子連中も負けてなくて、『臆病者の浦間が帰ってきてる』だの、『浦間って自分さえ助かればいいのか』だの、聞こえるように俺の悪い噂を流し、いじめに適した陰湿な空気を作り始めているのがわかる。


 こういうのを見てると、俺が中に入るまでの浦間透がいかに四面楚歌な立場だったのかがわかるな。余程性格が悪かったのか、あるいは平野が言うように無抵抗だから玩具にされていたのか、はたまたほかに理由があるのか……それは本人じゃないからわからない。


 ほどなくしてやつらの暗い計画が実ったのか、茶髪を逆立てた男子生徒がニヤニヤしながらこっちへ近付いてきた。


「よー、透ちゃん。お前、今までどこ行ってたんだよ? 一人だけ逃げてたってマジかー?」


「…………」


 透ちゃんだと。慣れ慣れしいやつだな。しかも、べたべたと俺の肩を触り始めた。懐にすんなり入ってくるこの感覚、俺をいじめることに大分慣れてる感じだ。


 岡嶋とはまた違ったタイプで敵意はあまり感じないものの、見下してる感じがひしひしと伝わってくる。


「あれ、何無視しちゃってるんだよ? お前、ビビリの癖にまさか俺に喧嘩売っちゃってる? なあ、聞いてんのかよ!?」


 周りがなんだなんだとざわめき始め、『梶さん、そんなのやっちまえ』という声が聞こえてくる。この男は梶っていうのか。ここでスルーは悪手だ。ビビってると思われるだけだからな。


 岡嶋にやったみたいに殺気を浴びせて黙らせてやろうかとも思ったが、殺し屋だった頃についてはなるべく思い出したくないので別の手段を講じることに。


「喧嘩を売ってるって? いきなりどうした? お前は俺の心が読めるのか? そうか。そういうスキルがあるんだな?」


「へっ……!? ん、んなのあるわけねーじゃん!」


 周りの生徒から疑惑の目を向けられたと感じたのか、露骨にうろたえているのがわかる。やはり勝手に心を読まれるのは嫌だろうしな。


「な、なんなんだよ。チクショー!」


 俺に対して何か言いたそうにしつつも、やつはすごすごと引き上げていった。まあこんなもんだ。


『お前たちに知らせがある。そろそろ次元が開く頃だろう。今回選択できるのはスキルだ』


 お、ようやく時空の番人のおでましだ。今回はまたスキルを貰えるらしい。【飛躍】もあるしこれは期待できそうだ。

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