第11話
食堂をあとにした俺は、その足でグラウンドまで来ていた。
空は何事もなかったかのように晴れているものの、試しにグラウンドから外へ出ようとしてもずっと同じ場所を歩き続ける羽目になった。異次元の中だけあって延々とループする格好みたいだ。
ただ、ここから抜け出たいっていうより、どうなるのか試す意味合いのほうが強かったのでショックはない。俺は早々に諦めて座り込むと、焼きそばパンを頬張り始めた。地味だが旨いな。懐かしい味だ……って、そうだ。
ここは一角獣が暴れたせいで人がほとんどいないし、遠くから岡嶋ら危険分子に目撃されても俺だとわからないだろうってことでシフォンを呼び出した。
「こんっ? あ、トール様!」
「シフォン、さっきはお疲れ様。これ食べる?」
「こ、これは……なんだか変わった感じのパンですね。いいのですか?」
「もちろん」
「そ、それでは有難くいただきますです。もしゃもしゃ……こ、これはあぁ!」
「ど、どうした、シフォン?」
「うみゃ~♪ 頬っぺた落ちますねえ!」
「そりゃよかった」
彼女はお腹が空いてたのか、あっという間にパンを食べ終わってしまった。その際、口元が汚れたのでハンカチで拭いてやる。異世界じゃ珍しい食べ物なのかもしれない。
「随分いちゃついてるわねえ?」
「「えっ……」」
怖い声が背後からしたと思ったら、平野迅華がおにぎりを手にしつつ仁王立ちしていた。
「こ、こん……? どなた様なのです?」
「誰だ?」
「こんにちは、二人とも、初めまして……って、浦間透、あんたはあたしのこと知ってるでしょ!」
「ははっ……つい流れでな。で、アイドルの平野迅華さんが何か用かな?」
「よ、用事ってほどじゃないけど……あんたねえ、この子と知り合いかってあたしが聞いたら、気のせいとか言ってなかったっけ?」
「うっ……まあ確かに言ったが、それはしょうがないんだ。話せば長くなると思ったから……」
「ふーん。随分とものぐさなのね。そんなこと言って、本当は厄介者のあたしを遠ざけて、その仮装した子といちゃつきたかっただけでしょ!」
「こんっ?」
「…………」
仮装か。まあシフォンは狐耳以外人間そのものだし、そう見られてもおかしくないか。面倒なのでそういうことにしておこう。
「それより、どうしてここがわかったんだ?」
「そ、それは、以前ああいうことがあったとはいえ、あのモンスターが暴れたせいで人がいないなら逆にあんたが行きそうだし、一応探そうって思っただけ」
なるほど。やっぱり平野迅華は勘が鋭い子なんだな。それならシフォンのこともいずれはバレるだろうし、味方になったら心強そうだから今のうちに話しておいたほうがいいのかもしれない。
「――と、こういうわけなんだ……」
「…………」
俺は今までのことを話し終わったわけだが、平野迅華はその間に何か突っ込んでくるかと思いきや、意外にも体育座りで大人しく聞き入っていた。
「そうだったのね……。思うんだけど、浦間透。あのときあたしが一角獣に勝てたのも、そのシフォンって子を獲得できたのも、絶対【飛躍】っていうスキルの効果だって思うわ」
「やっぱり平野迅華もそう思うか」
「うん。だって、【飛躍】するんだからそのスキル名の通りじゃない? 超当たりスキルよね。あたしの【剣士】スキルが霞んじゃうくらい」
「ははっ……」
「是非あたしと一緒に組みましょうって言いたいところだけど、その力を借りてもすぐ気絶しちゃうみたいだから足手纏いになりたくないし、あたしがもっと強くなるまで我慢してあげる!」
「が、我慢してあげるって……」
「ふふっ。ねえ、ところでさ、ちょっと気になってることがあるんだけど……」
「ん?」
「あ……や、やっぱりなんでもないわ。たまにはあたしとも組んでよね! それじゃ、この辺で失礼するわ、浦間透。それにシフォン!」
「え……あ、あぁ」
「はいです。ジンカ様」
平野は俺たちに手を振りつつ校舎のほうへと走り去ってしまった。
あいつ、気になってることがあるって言ってたが、一体何を言いたかったんだろうか。まあいいや。直前でやめるんなら別に大したことじゃなかったんだろうし、考えてもわかりそうにもないしな……。
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