第9話


「――うっ……?」


 あれ……いつの間に眠ってたんだろうか。俺は階段の横にある窪みの中、複数の足音に叩き起こされるようにして目覚めることになった。


 それも耳鳴りがするくらい尋常じゃない数の足音だ。もしかして、岡嶋のやつが仲間を増やしてリベンジしに来たのか? シフォンのことをモンスター扱いしてたからその可能性は充分にありうると思い、俺は急いで立ち上がるとそっと様子を窺ってみた。


「…………」


 何人もの生徒たちがぞろぞろと階段を駆け下り、どこかへ向かっているようだったが、何かターゲットを探しているといった感じは見受けられなかった。


 結構な数の集団が、共通する目的地をひたすら目指している、そんな雰囲気なんだ。まさか、俺が寝ている間に発生したモンスターでも見にいっているのかと思ったが、それなら多くの人間が武器を手にしているはずで、ほとんど素手だからおそらく違うだろう。


 ってことは……そうか、わかった。彼らは食料を確保するために一階にある食堂へ向かってるんじゃないか? 近くにいる生徒たちの会話を聞いてみたら、お腹空いたとかまだご飯あるかなとか、やはりそれらしきことを不安そうに話していた。


 食べ物っていうのは想像以上というか滅茶苦茶重要だからな。そういうわけで俺も早速、一階に出来上がった大行列に加わることに。


「「「「「ふわぁ……」」」」」


 こうして待っている連中は腹が減ってるだけじゃなく相当に眠いのか、欠伸したり目を擦ったりする姿が目立った。まあこんな状況じゃろくに眠れなかっただろうし仕方ないか。


 そういや、昨晩次元が開いて武器を選ぶときにモンスターも侵入したはずだが、時空の番人は何も報告してこなかったな。


 ってことは、何事もなかったってことだろうか……? お、食料が大分生徒たちに行き渡り始めたのか、大行列も目に見えて削れてきたのがわかる。向こうから歩いてきた生徒たちはパンやおにぎりを手にしていて、中には美味しそうに食べながら歩くやつもいたので俺たちの羨望の的になっていた。


「――ウオオォォォッ……!」


 な、なんだ? 今の叫び声は……? 人間のようで人間ではない、そんな異質なものを感じた。周りの生徒らも異変を感じ取ったらしくざわめき出し、緊張した顔でスマホを操作して武器を手元に出し始めた影響もあり、周囲はまたたく間に不穏な空気に包まれることとなった。まさか、これは――


「「「「「――うわあああああぁぁっ!」」」」」


 複数の悲鳴が耳を突いてきて、その場の空気があっという間に恐怖に支配される。


 行列の先から人がどんどん雪崩れ込んでくるし、どうやら食堂のほうでモンスターが出現したみたいだ。


『食堂にてモンスターが発生したゆえ、お前たちに報告する。次元の歪みからモンスターが侵入した際、獲物が周囲にいないとしばらく潜伏する場合もあるため遅延が発生した格好だ』


 やはりそうか。時空の番人の声がしたことで、もう食料どころじゃなくなったのか行列は崩壊し、周囲は逃げ惑う生徒たちで溢れ返った。


「くっ……」


 少しでも油断すると、走る生徒にぶつかって押し倒されそうになる。身軽にかわし続けるもきりがない。それを繰り返すうち、右足が攣ってしまった。


 こりゃまずいな……って、そうだ。こんなときにあの子を召喚したらいいんだ。


 狐耳の亜人シフォンならこの状況でも壁になり、モンスターだって倒せるかもしれないってことで、スマホを取り出して彼女のアイコンをタッチする。まだ寝てる可能性もあるが。


「こんっ……? あ、トール様っ」


「シフォン、よかった、起きてたか。コヌヌ村に戻ってた?」


「いえ、ずっと意識がない状態で、気付いたらここにいました」


「そうだったのか……」


 つまり、彼女をタッチして消すってことは、隔離された別次元で完全に休止させる感じになるんだろうか。


「見ての通り、俺は足が攣ってる上にほかの連中に進路を妨害されてるから、しばらく壁になってほしい」


「はいですっ!」


 シフォンが俺の前に立ったわけだが、ぶつかってくる生徒たちをもろともせず先に進んでいた。さすがは狐の亜人。人間とは根本的に丈夫さが違うのだよ。


 彼女のおかげでサクサク進んでいき、俺たちはまもなく食堂へ到達したが、そこで信じがたいものを目撃することになった。あ、あそこにいるのは……。

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